第203話 対照的な子ども時代

文字数 1,467文字





 俺が子どもの頃は、もっと気楽なモンだった。



 親猫とギクシャクすることもなければ、物事に苦悩することもなかった。







カアちゃん、ハラ減ったよー。

メシくれ、メシ!



ハイハイ、ミルクね




 俺のカアちゃんは、心身共にたくましい猫だった。



 地べたにコロンと横になると、肉厚な胸を広げて、食欲が満たされるまでミルクを与えてくれる。



 俺は早くミルクが欲しくて、その乳にがっついた。




 ガリッ!




いてぇよ!



あ、わりぃ




 勢い余って歯が乳に当たっちまった。



 生まれて1か月近くにもなると歯が生えそろってきているから、乳の肉を噛んじまうのが俺の悪い癖だった。



 そのほかにも、他の猫とじゃれ合っていると――



オラオラァ、オラァ!



フニャフニャ、フニャア!



コラッ! プルート!


アンタはいつもやりすぎなのよ。

もうちょっと手加減しなさい!



あ、わりぃわりぃー




 幼い頃の俺は、ドジってばかりいた。



 それで親に怒られることもしょっちゅうだったけど、悩んだことはねぇし、自由奔放(じゆうほんぽう)かつ能天気そのものだった。



 だがそうやって過ごせたのは、大きな悩みに振り回されずに済んだからだ。



 対照的に朝陽(アイツ)は、孤独の世界で悩みを抱え、語り尽くせないほど苦しんでいる……。




 暗く沈んだ朝陽に母の篤子(あつこ)が優しく語りかける。



ねぇ、朝陽。

世の中には、古い価値観を捨てられず、偏見を持っている人達もいる


だけど、そんなの気にしちゃダメよ



気にしないようにできたら楽だけど……そんな簡単にはいかないよ


もっと周りの人たちが冷たくしないでくれたらいいのに……



そうね。優しい人は多ければ多いほどいいわ。

だけど広い世界で生きていくには、打たれ強くなきゃいけない


相手に求めるより、まずは自分が変わったほうがいいと思わない?



……


自分が変わっても、みんなは仲良くしてくれないよ



みんなが必要?



え?



みんなって、たくさんの人達ってことでしょう?

本当に、たくさんの人達が必要かしら?



どういうこと……?



たとえばね、猫の世界にもイジメはあるわ


理不尽に暴力によって(しいた)げられる猫もいる。

猫の世界にも人間の世界とそう変わらない、悪いところもある


けれど猫は――

みんなに好かれたいと思っているかしら?



……わからない



少なくとも私の知る限りでは、猫は自分にとって必要な相手とだけ仲良くする傾向にあるわ


自分のことを大事にしてくれる飼い主とか、仲良しの猫とか、同じく仲の良いその他の動物とかね


もちろん猫も我慢したり、機嫌を伺ったりはするけれど、自分の嫌う相手に無理をしてまで好かれようとはしない


だから不快な相手の顔色や、その存在を気にしすぎて悩むこともない





たしかにそうかも



ちょっと突拍子(とっぴょうし)のない提案かもしれないけれど、あなたも猫のようにしてみたらいいんじゃない?



猫のように……?



そう。

自分の気持ちを重視して、気ままにしてみたらってこと



でも……余計に嫌われないかな?

たとえ知らない人でも、嫌われるのはヤダ……



あなたを嫌う人は、あなたのことをちゃんと理解できていない人よ


そういう人にこだわるより、あなたのことをわかってくれる人と仲良くして、大事にするほうがずっといい


そうは思わない?



うん、思うけど……


でも、お母さん以外にわかってくれる人なんていないから、学校でも独りぼっち……



そんなことないわ。

いまはいなくても、いずれあなたに共感してくれる人が現れる



現れないよ



お願いだから、そう悲観的にならないで



……



朝陽……




 朝陽は暗い表情のまま、どこか遠くを見るように、窓辺にいる俺たちを見つめている。
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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