第197話 猫の下僕

文字数 1,452文字





 下僕(げぼく)を連れてくると言って家に行き、戻ってきたタイコー。



 その(かたわ)らには人間の姿が――!







まさか本当に人間を連れてくるニャんて……!



ククク……。

予想は的中したか?



いえ……、

あっしはてっきり、もう少し大きいサイズの人間が来るものだと思ってましたニャ




 熊介はまばたきもせずに見知らぬ人間をジッと見つめて警戒している。



 タイコーと共にこっちへ近づいてくるのは、人間の子どもだ。



わぁ! 猫がいっぱい!




 (はず)むような声。嬉しそうに目を細めた顔。


 

 猫嫌いにはまず無いリアクションだ。



ネッコ、猫猫(ねこねこ)~♪




 子どもは俺のほうに寄ってきて、その場にスッと膝を折った。



 それでも子どもとはいえ人間だから、猫より背も目線もずっと高い位置にある。



よう、早朝だってぇのに相変わらず元気がいいな



ボスはその人間の子どもと知り合いニャんですか!?



別に知り合いってほどじゃねぇけどよ


タイコーの家に来ると大抵この子もついてくるから、顔見知りになっちまったのさ



じゃあ副ボスたちとも面識が!?



まあ、そーだな



僕はここに来るのはまだ2回目なので、ちょっとだけですけど



そうだったんですね……!


でも、ニャんで人間の子どもが下僕なんですニャ?



じつは(われ)がここに()みついてからしばらく経ったある日のこと――


この家の子が(みずか)ら、

「下僕になりたい」と志願してきたのじゃ



えっ、自分から!?



下僕の意味、わかってねーんじゃねぇの?



いや、それがそうではないらしい


近頃人間界隈(ヒトかいわい)では、猫の下僕になることで猫への愛情と忠誠度を示す動きが一部のあいだで流行(はや)っていると聞く



へぇー。

人間にもいろんなのがいるんだな



よほどの猫好きニャんですかね



おそらく猫の下僕を称する者達の大半は、それを口にすることで充足感(じゅうそくかん)を得ているのであろう


我としては、下僕であろうとなかろうと悠々自適(ゆうゆうじてき)に暮らせれば文句はない



はっはっはっ。

要は下僕になるって、()れた相手に尽くすみたいなモンかね



でも、兄さん。

尽くしすぎは相手にナメられるからよくないって聞きましたよ



エェ~、そうなのか!?



にゅふふ、さもありなん


少なくとも恋愛においてはメス猫のように、ちょっと思いどおりにならない相手くらいのほうが丁度良いのであろうな








おい、オメェら。

話が脱線(だっせん)してんぞ


タイコーは早く熊介の容態を見てやってくれよ



わかっておる。そう()くな




 タイコーは、子どもの傍らに立って相手を見上げつつ指示する。



朝陽(あさひ)よ、まずはそなたが熊介を家の中へと運ぶのじゃ



……?





 朝陽と呼ばれた子は、タイコーに呼びかけられてキョトンとしている。



 いっぽう熊介は、シッポをかじられた並みの慌てっぷりだ。



えええっ!?

知らない家の中に入るんですニャ!?



でなければ治療は行えんぞ



でも……人の住居に入るのは不安ですニャ~



案ずるな。

我もそばについている



俺たちも窓に張りついて様子を見守ってるぜ



……ボスたちも一緒じゃないんですね



的確な治療のためには室内の状態が静かなほうがよい。

そのほうが集中できるからのう



集中って、何をするんですニャ?



むろん、傷の治療じゃ



ニャるほど。

その治療は、いったい誰が……?



むろん、このタイコーじゃ!


我は祈祷(きとう)によって傷を治す!



き、祈祷で……!?




 ありえねー!



 そんな感情ダダ()れの表情で熊介は仰天(ぎょうてん)し、固まった。
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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