真っ暗な空中で相生智太に戻ってしまった。当然落下する。
破壊されたソーラーパネルの上に敷き詰められた花びら。俺はクッションの上のように着地できた。
凪奈。方針を変えたよ。今日は倒せるだけ倒して終わらせる
……真壁律め。俺は倒すどころか殺してもいいようだな。ちっぽけなレッドだと思っているな。その通りだとしても。
ごめんなさい。僕が逃げたから宴の後が弱まった。執務室長が精霊になってしまった
ハウンドピンクも見えない。……蒼い巨人も見えない。
目のまえには仮面ガイアと仮面アグルが立っていた。実質レベル220の彼らさえ、律されて解除させられた。だとしても、なおも仮面の二人。
月の明かりに照らされて、仮面をつけた二人が巨大な敵へと駆けていく。
相生智太は心にエナジーナイフを思う。現れない。
ならば素手で戦う。俺は駆けだして、すぐに転ぶ。首根っこをつかまれる。
生身だろ、食われるだけだ。
……は、はやく乗って。私は精霊になっても力が足りない
ハウンドピンクが俺をコノハへと引きあげようとする。 この子は手を離さない。一緒に落下するを選ぶだろう。だから俺は狭いエアサーフボードに這いずり上がる。
なるほど、エナジー銃とおなじで生身でも使用できる。装着するなりカラフルなシルエットが現れた。秩父で用いた奴だ。
ごつん!
コノハがさらに浮かび闇に衝突する。生身だと首の骨が折れかねないが文句は言えない。
茶色と青色の人の形のシルエットがうなずきあう。仮面の二人はひるまない。ハデスブラックへと駆ける。二人してジャンプする。
激甚なドロップキックが城壁の結界を突き破り、巨大な悪魔の腹に当たる。
悪魔が前かがみになる。
ハデスブラックが両手をひろげる。
禍々しすぎる気配。なによりも生身の俺の心が震えた。
ソーラーパネルで覆われた丘も月の明かりを浴びている。監視員は避難したらしい。消防車やパトカーは現れない。それだけが幸いだ。
ああ……丘が震えだした。
……僕たちの戦いはここまでだな。ガイア楽しかったぜ
俺もだ。スカシバレッドとハウンドピンク。我々の負けだ。逃げてくれ
や、闇から出られない。智太さん助けて、また死ぬの嫌だ!
ハウンドピンクの術とともにスパローピンクが消える。同時に、
コノハが消滅する。またまた生身のままで十数メートル上から墜落する。
今度はアフガンハウンドがクッションになってくれた。彼女は隼斗を追跡しなかった。俺を一人にしなかった……。あの爆発に巻き込まれたのに、俺はほぼ無傷だ。千由奈が俺を守ってくれた。俺は暗視ゴーグルをはずす。
二人の本当のレベルは100前後。もういるはずがない。落窪さんに続いて、ガイアさんもアグルさんもやられた。
アフガンハウンドは春木千由奈に戻る。その手にピンクのマントが現れる。
彼女は、俺を戦わせるために残った。ともに戦ってもらうために。
俺は千由奈を後ろから抱く。目をつぶる。それでもピンク色の光を感じる。
二対二だ。龍にならないのならば、どちらか一体と刺し違える。それは清見さん、落窪さん、ガイアさん、アグルさんを虫けらのように殺したハデスブラック。ではなく、千由奈が望むリーガルエボニー。それでも生き延びたなら、龍になりハデスブラックを倒す。
悪魔と一角羊。あなたたちは私とハウンドを欲しいのね。美女二人を
スカシバレッドは不敵に笑う。ハウンドピンクの手を握る。逆の手に仮面ネーチャーの端末をだす。
あなたたちは成敗されるけど、ちょっとだけ待っていて。すぐに戻る
スカシバイクをウイングスカシバイクにしたい。精霊を解除して、またまた裸で抱き合おう
俺の提案に、ハウンドピンクは露骨に嫌悪を浮かべる。
まずはバイクに乗って力を込めてみろ。龍にならないように加減してな
根拠はないらしいけど、スカシバレッドは泥まみれで半壊したスカシバイクを立たせる。
ハウンドピンクがパンツ丸出し大股開きで乗るのを手伝い、ハンドルを握る。
ヘルメットは投げ捨てたはずなのに、また兜が現れる。バイクは赤く輝いて変形していく。巨大化していく。
スカシバイクはメカニックなドラゴンと化す。全長は実に4メートル。目からライト、口からエンジン音のごとき咆哮が響きわたる。
装甲を帯びたマシン飛龍が廃墟と化した発電所を目指す。
夜闇や絶望の闇や城壁の結界に隠されたためか、騒ぎは大きくなっていない。中井の集落も静かなまま。貸与されたばかりのモスウォッチは消えたから、誰とも連絡は取れない。でも、みんなは上空で見守っているだろう。
ハデスブラックたちは空で待ちかまえていた。肩には人の姿に戻ったリーガルエボニー。
スカシバレッドが乗るメカドラゴンの口が開く。
『遠距離だから、花吹雪が奴らに届いていない。こちらのレベルが上がっただけだ』
背後にしがみつくハウンドピンクから通信が聞こえた。
ならば近づくだけ。飛龍の角のごときハンドルを絞る。
マシンワイバーン(この名称に統一しよう)のハンドルを右に傾ける。全速力で離脱。……初めて避けた。スカシバレッドのままだ。
マシンワイバーンをとりあえず小田原方面へと飛ばす。……さきほどの作戦。追い越させて上から最強技であるファイナルアルティメットクロスの連発。
などと思っていたら、後方から凍てつく反動。これは精神エナジーを削る。
だと思ったら上空からのとてつもなき衝撃。鉄槌だ。地面めがけて押されていく……。満月に黒く光る人工物は、またもソーラーパネルかよ。
マシンワイバーンは、三枚を道連れに大地に激突する。
空から追ってきた悪魔が地面にもぐる。宙には真壁が浮いている。
暗視機能がなくなり真っ暗闇。マシンワイバーンが、さらにポンコツになったスカシバイクに戻る。
人に戻った春木千由奈が、相生智太に戻った俺の背にしがみつく。
わざわざバイクを取りにいき、しかも派手にチューンアップして再登場した結果が……これが現実という奴か。というか、やっぱり勝てないかも。五人がかりで精一杯だったのが二人になったのだから、無謀だったかも。
こいつらと俺には越えられない壁がある。まさに城壁だ。やられた仲間の敵討ちなど無理だった。いまさら思う。
私は最後まで戦う。生身が果てるまで戦う。生きて奴らに囚われない
千由奈は立ちあがる。この子は俺よりずっと強かった。俺はいまさら絶望に包まれている。
空には満月……。俺は竹生夢月を思う。守ってくれ、助けてくれと。そしたらいつか守ってやる。
ああ終わらせましょう。二人を連れて帰る。月を倒せなくても、僕たちの圧勝だ
ふふふ。だが冥王は生身を凍らせて運べる。生きたままにな
悪魔が体を持ちあげる。その巨体を晒していく。どんどんと、どんどんと……どんどんと。
驚愕の面のハデスブラックが空へと飛んでいく。真壁がピンボールみたいに弾かれる。
悪魔と真壁は引き寄せられる。黒色パネルに埋もれるほどに激突する。
空気が無いし、どっちが上か分からないし死ぬかと思った
髪も泥だらけのスクール水着姿の紅月が、紅色の光に包まれて地面から現れる。ぐちゃぐちゃのスタイルだろうと。
なにを今さら。こいつは誰よりも強くて美しいんだよ。そう。スカシバレッドよりも。
紅月が俺たちを見る。
やっぱりスカじゃなかった。智太君の声が聞こえたよ。だから脱出できた。ありがとう。
でもスカになって一緒に戦ってください。……犬ころもだよ
紅月が俺たちのもとにすーっと来る。昼間の服装のままの竹生夢月に戻る。
真壁と私の前でわざわざ生身に戻るのか? お前は人として殺す
黒岩さん、こんな馬鹿が後継者であるはずない。大司祭長よりもあなたが正しかった
巨大な黒い悪魔が浮かびあがる。その肩には獬豸と化したリーガルエボニー。紅月との直接対決を避けてきたのだろうに……。俺はこの二人を言いあらわす言葉を知っている。油断。
竹生夢月は不敵に笑う。化け物たちと向き合う。両手をひろげて空を目いっぱいに抱える。
生身の夢月が放つ滅びの光。紅月の十六夜より、はるかにはるかにでかかった。大手町も芦ノ湖も紅色に照らしながら、光は山間部へ飛んでいく。
ソーラーパネル群は消滅。山をえぐりやがった。
なのにハデスブラックは生き延びている。怯えた面が空に浮かぶ満月に照らされる。肩には腰を抜かした聖獣を騙る魔物。
俺に正面から抱きつき、千由奈の首を後ろから抱える。