05 第三の女、第四の女
文字数 4,252文字
うるさくなりそうだから電話を切る。
今後は桧と二十四時間離れない。なんて無理。だとしても妹に危害が及ぶを避けねばならない。九州管轄は親族も冤罪で捕らえられたらしい。ましてや俺は猟犬や虎に顔を見られている。穴熊パックには名前さえも――。
そいつらは布理冥尊だけど、春日は仲間であるレジスタンス。俺の個人情報は俺より知っていそうだ。
親族の顔を見せたのは、歯向かうなの脅迫だ。桧だけでなく母も、近所で健在の祖父母も、小平市で健在の母方の祖母も、飼い猫のクロ子さえもやばい立場になる。
でも俺は正義を貫く。人質を盾にするのは悪だ。つまり春日は悪だ。脅しに屈さない。仮に俺が奴を痛めつけてたとしても、正義の中枢である本部は理解してくれるに決まっている。
とかしていたら高校に到着してしまった。
我が母校は、スマホ持ち込みをいまだ禁止の世界遺産だ。……妹を『祖母が危篤です』で呼びだしてもらうか。そんで無事を確認したら、駅前のカフェにでも一緒に行くか……。
体育の授業の女の子たちが道の向こうから走ってきた。競歩大会の練習だ。
懐かしいな。俺は一年生のときだけ全校一位だった。二年のときは怪我した先輩を看護して、三年のときは倒れた下級生を背負って引き返したよな。
スマホが振動したけど藍菜だからでない。雪月花の端末は静かなまま。
次の子も俺を見るなり足から崩れる。女子高生が回転寿司みたいに次々と俺の性フェロモンを浴びていく……。
目薬の効果が切れていた。今さらポケットからだして点眼するけど、校門前には汗ばんだ女子高生が山盛りになってしまった。
棒立ちしたままの美女を追い越し、俺のもとに急ぐ。
でも微妙に違う。あの子のかわいさ美しさを外面だけで真似できるはずがない。
偽スカシバレッドが校門の内側に消える。
しばらくして、黒髪を後ろに結んで眼鏡をかけた地味私服の女子中学生となって現れる。
ここにいたことに他意はありません。今日はひさしぶりのオフなので、あなたの母校と妹さんの見学に来ただけです。
……従妹である美女との同居。おお。あなたはどこまでも数奇な運命に翻弄されるのでしょう
『藍菜が描いた図面とおりになった。
お前は仮面ネーチャー。雪がモスガールジャー。月は単独で“紅色戦士スーパームーン”を名乗るらしい。本部のガーディアンは絶対にしないとさ。
……布理冥尊の娘には媚びるな。早く切り上げろ。おそらくお前よりその女子中学生のが賢い』
俺はお礼とお詫びを言って電話を切る。次いで雪月花端末を心に思う。柚香へと連絡する……。ロックされていた。夢月に……連絡しない。すでに学校に戻っただろう。
追い出せみたいに清見さんは言ったけど、俺は諭湖から、すなわち布理冥尊から聞きたいことがある。
この一月ぐらい不審な点だらけだけどさ。
お兄ちゃんは正義の味方でしょ。どっちかというと、
それとね、お兄ちゃんの彼女は私が決めるので。それまでは私がお兄ちゃんの彼女なので。
あんたみたいにキモイのは本当ごめんだから、中二病世界はひとりでやっていて。
ねえ、お兄ちゃん
話題を変えよう。
正義の味方になってからは、隼斗や芹澤、雪月花からはもちろん、陸さんや茜音からもエナジーを感じるのに。町歩きしていても、見知らぬ人からもたまに。
当たり前だろ。
それよりも、今日の日に諭湖に会えたことが運命だとしたら、それはこの質問のためだ。
……おそらく奴ですね。そいつはテロリスト幹部でも末端でしょう。でも存在の確認が取れたことは大きい。
原理主義とは教義に関しての主義主張が違う一派を示していました。彼らは知っての能力を持つようになりました。
私や凪奈は大司祭長の教えこそがすべてですが、その教えをねじって解釈する輩もいるわけです
ウィローブルーのことか。スカシバレッドをいやらしい目で露骨に見た五人衆。言霊の使い手。現在の推定レベルは195。
それよりも。
ざっくり説明を受ける。要はどっちでもないらしい。
俺は蘭さんのマンションでの会話を思いだす。俺の陰。夢月の惨。陰惨。
俺は春日の声も思いだす。俺と夢月は原理主義……。
あなたたちが宣伝のために伝える龍や鳳凰、胡蝶蘭、勇魚、獅子ぐらいです。
……あなたの特性は龍以外に何ですか? 誰にも言いませんので教えてください
桧が立ちあがる。背を向けるなり歩いていく。哀しげな後ろ姿。
妹の存在を忘れるほどに諭湖との会話に没頭していた。追いかけたいけど……。
意図的にその行為に及ぶ者もいますが、多くはレベルが上がるにつれ欲望に呑まれていきます。
落窪はおそらく戦いからも逃げました。堕ちぬためにですな。
きっぱりと言えば原理主義は全員が人喰いです。人のエナジーを襲うために、おのれのエナジーが強まった肉食動物です。それこそが原理です