30 胎動
文字数 3,897文字
焼石嶺真もレイヴンレッドも修羅場で会っている。モスのエースであった彼女はまだ知らない。
傷ひとつ残りません、と確約されている司令官が窓の外を見る。
そうだったのか。てっきり、自分に都合が悪くなれば端末を押して俺たちをベッドに送り込んでいると勘違いしていた。それよりスカシバレッドなら何位だっただろう。なんて思うはずない!
彼女のベッドの脇まで行く。その耳に口を寄せる。
しゃちほこランド支部の殲滅作戦。
関西の男二人女一人のAチームである“トリオ・ザ・スーパースター”、略してトリオスとの合同チームで挑んだ。
そして見事なまでの大失敗に終わり、彼女たちはまた活動停止に陥った。
作戦失敗の原因は、両チームの相性の問題。今後を占う試金石だったのにね。
と、ところでさ、智太君はどんどん強くなっていく。モスガールジャーの他のメンバーとの差は開くばかり。
こ、この間の戦いは見事だったね。腐れ巫失礼深雪ちゃんとの相性は抜群。こないだも上野でデートなんて公私ともにリアルで充実しているね
この女がどもるときは不吉な予感がする。私的な行動を監視していやがるし。
身構える俺を見て、
スーツの内ポケットが膨らんだ病院職員にボディチェックされて病室に入る。
カーテンが閉まっている。ベッドは無人。テレビはついたまま。伊良賀紗助は部屋の隅で膝を抱えていた。殺された日の俺のように。
棒読みのように告げる。彼からは若草の香りはしない。それでもモネログリーンとともに戦う日が来る。
そんな予感は消えた。
あの人とは相生智太でなくスカシバレッド。翌朝俺は茜音に伝言して、内容を聞いた芹澤は納得した。解放された。口外はしないと厳しく約束させられて。
彼女は強くうなずき返したらしい――。
俺は部屋をでる。
……彼をこんなところに閉じこめても治るはずないのに。彼は北海道の牧場のような広大な草っ原に行けばすぐに回復する。そこで日に焼けて働きだす。新しい人生を歩み、俺たちが戦いを終わらせたとき、家族と再開する。
そうすればいいのに。俺が口をだす話じゃない。俺は
布理冥尊親衛隊から彼女への果し状が櫛引博士経由で届いたそうだ。そのエビは十五夜に飲みこまれ姿も見てないが、
指定された有明の埋め立て島に来ると、私服八名が傘をさして待ちかまえていた。戦闘員数十名がコンテナからわらわら出てくる。
連中の手にマントが現れる。
単体敵のリスクを計算した陣営か。まさに悪の組織。しかし愚か。
彼らの背後から、青黄桃の螺旋。残酷な光が地方幹部を一撃で倒す。
さらにさらに。じつに五連発。威力を抑えたピンクの連射機能。
ならば俺も。
ブルーが腕を組む。
イエローの投げた槍が逃げる幹部を追尾する。地面に突き刺し消滅させる。
敵で立っているのは、あっという間に二体だけ。雨が叩きつける。ブルーの発したエナジー弾も降り注ぐ。カニだかの化け物が泡を吹いて消滅。
残ったペンギンが親衛隊か。逃げられるまえに倒さないと。……スカシバレッドはペンギン好きだ。身長が2メートル以上あっても、イワトビペンギンそのまんまではソードを向けられない。
俺の真横にホールが発生した。
女の子がアスファルトにしゃがむ。
萌黄色のコスチュームがすぐに濡れて貼りつく。長い黒髪も。眼鏡はかけていないけど。
予感はしていた。
芹澤のあふれる正義の心。みなぎる精神エナジー。埼玉奥深くのこれより先は人跡未踏の公園駐車場で、目を見たときにひと目で分かった。彼女に足りないのは強い心。だから布理冥尊に何度も付け入られた。
でも戦場で必ず会える。新しいモスガールジャーが始まる。そんな予感がしていた。
低い雨雲からモスプレイが現れる。
いよいよ横殴り。台風はこれからだ。