２２ 果し合いまで四時間 柚香の部屋
文字数 4,012文字
千由奈ちゃんは静岡へはどうやって行くのですか？ ぐひひ
ｶｯﾃﾆ､ｷﾒﾔｶﾞｯﾀ
しかしバイクごと転送は危険ですよね。別の方法はないのですかね、ぐひひ
…ﾅﾚﾃｲﾙﾅ
……マントを手放す踏ん切りがつきました。私も正義の一員になれるでしょう。ぐひひ
十八時四十分。ぎこちない笑み。柚香の部屋のテーブルには薄皮饅頭が置いてあった。ドリップパックのコーヒーを入れてくれた。
柚香はベッドに背もたれる。いつもそうしているのかな。クッションが置いてある通りに、二人は９０度に座る。
黒ぶち眼鏡。薄手の白いトレーナー。髪は後ろでまとめている。うなじがきれい。魔法を使わずコーヒーにミルクを入れる。……よそよそしい。おそらく俺も。
柚香がまた笑う。無理しているぐらいに……。十九時を過ぎてしまった。あと四時間で始まる。本題に入らないと。
エリーナブルーを無理やり出現させれば、清見さんを連れ戻せるかもしれない。
病室のベッドで彼を抱いて変身すればいい。
必死な顔で見つめてくる。
窓の外からは、夕方を終えた日曜日の静かな騒めき。
俺は、『昼は蝶』を飛びだした俺へと声かけた清見さんを思う。
そう言ってくれた。
女の子の部屋。穂村の殺伐とした部屋とも、夢月の母親が日々手入れしているような部屋とも違う。真面目で几帳面な性格が現れた、でもありふれた部屋。俺は斜め横に座る女の子を見つめかえす。
だから柚香は苦しまなくていいし、それが終われば苦しむこともなくなる
あの人は賢い戦いをしなかった。勝敗など気にせず目前の敵に突っこむだけだった。
レベル３０で１００越えと戦ったことがある。今考えれば無謀すぎるけど、エリーナブルーはともに戦ってくれた。……臆したら、清見さんに怒られる
そう叱られる。
柚香が顔を上げる。すぐ隣から俺を見る。
みんなは罠だと言っている。でも、私は違う気がする。
あの怪物は十五夜にも耐えられるほどになった。だから、夢月と勝負できる
すがるように見ている。俺の手を握ってくる。
あり得るのか？ 仮にそうだとしても、夢月はスーパームーンで単独行動になってからさらに強くなった。それこそ、黒岩はおのれが仕掛けた罠に嵌まる。
俺は柚香の手を握りかえす。
スカシバレッドは深雪を守れない。友の反対を押し切り戦いに参加してくれる人を守らないとならない。
せめて今は手を握っていてあげる。
ちっぽげな二人だ
彼女を抱く腕の力が強まってしまう。柚香が俺を部屋に呼んだ理由。決戦を前に怯えているから。すがれる相手を欲しかったから。
でも俺はたっぷり夢月とデートした。犬山でオウムに怒鳴られたときと変わらず、優柔不断な外道のままだ。更には昨日は穂村をバイクに乗せて水族館に行って、京都まで送って部屋でカップ麺までいただいた……。
ガバッ
理性的な俺でも無理だ。押し倒してしまう。ベッドの角に頭をぶつけたけど、彼女は拒絶しない。
雪だ
彼女は入院した。幸いにも全治一週間で済んだので、モスとしてけじめは求めない』
司令官が生身で参加できないから、二十時にモスプレイで実施。本部からも数名加わる予定。
私は仮面の二人の連絡先を知らないから、相生から頼む。転送コードは昼間と変わらず。
ちなみにこのコードは今夜が終わり次第に使用できなくなる』
『みんなを轢かないように気をつけて……んなはずねーだろ。仮面の二人に聞きなおせ』
ハウンドはどうする？
しゃきしゃきと通信が終わる。
柚香も起きあがる。座りあって向き合う二人。
ｽﾀｯ
俺の手を取り、立ち上がらせる。
小猫じゃない。狩りを目前にした猛獣に似た瞳。
二人は唇を重ねる。
