17 ひと夏の体験
文字数 2,445文字
彼女はTシャツと短パンだけど、俺はデニムだ。ひとつだけしかない本当の命が危険。
増水した荒川を渡る自信があった夢月は、俺を助けながら泳ぐ。でも島から遠ざかっている。
俺までスカシバレッドに強制転生して、無事に島へたどり着く。
かぐや姫は濡れて十二単衣が重そうだ。声をかけて欲しそうに、俺に背中を向ける。
三人とは誰か分かるけど、昨日までは拮抗していたけど。理不尽な戦いを強いられた今は。
スカシバかわいいけど俺だし 40%
柚香弱いとこあるしかわいい 40%
夢月かわいいけどマジヤバい 5%
桧と丸一日会ってない。心配 15%
100%まで戻ったが、彼女の脳内評価はがた落ちだ。口にしたら置き去りにされる。
スカシバレッドも立ちあがる――。野生の勘。を上回る野獣。
背中を上から一直線に切り裂かれる。
情けない声をあげてしまう。ようやくスピネルソードが現れる。
振り向くと同時に今度は腹をえぐられる。
赤い大きな剣……。
侮蔑のごとき口調。
目のまえにレイヴンレッドが浮かんでいた。孤島すら似合う、燃える赤髪と漆黒のドレス。挑戦的な強い眼差し。
レイヴンレッドは飛びながら、レッドタイガーソードで弾き落としていく。
ヴウウウウウウン
重低音が響いた。
目の前に現れたレイヴンレッドへと、贅沢すぎる月明かり。でも、紅い光が通り過ぎてもレイヴンレッドは笑ったまま――。
(紅月の数値を聞かされるまでは)ライフを誇った俺でも、これ以上はマズい。
また闇に包まれる。
でも、これは昨日の虚無じゃない。ハンターがひそむ夜。昨日の檻が絶望なら、こっちは恐怖。
紅月が桜散る闇の中で騒いでいる。
あなた方のアジトで、私は途中から起きていました。いわゆる狸寝入りです。私は狐狗狸のように耳がいいので、いろいろ聞かされましたよ。
与那国司令官もとい夏目藍菜。ペンネームは“南西十字星彡”。
私を小馬鹿にしましたね。フォローはすべて解除しました。手作業で星も全部消しました。実名もさらしました。
花である“ふかがわらん”と一緒に、私が仕込んだトラップに気づかず、中坊相手と喜んでましたね。
“あかねっち”がデータ移動した本体を特定できる可能性は半々でしょうか。
でも、月が“ゆづき”。雪は“ゆか”?
モスの“きよみさん”。
あなたは“ともた”。おそらく“あいおいともた”。
もちろん誰にも話していません。まだ
演技が上手ですね。それならばあなたも狐狗狸のように騙せます。
あなたが私にかけたタオル。それは……二人のために、ここでの出来事に目をつぶれ。
ああ、そのサインは受けとりました。でもレイヴンレッドが絡んでいます。臆病な鴉は騙せません。
なので、あなたはここで一度死ぬべきです。それで互いのフェイクが完璧になります。
本来の生身のあなたにこそ尽くします…………!
かぐや姫が闇を切り裂き飛んでくる。諭湖の気配が消える。
俺へと荒い息で。
カラスと夜桜が揃うと、追われているのに気づけなかった。
賢い系が揃っているから私だけだと無理。
赤モスも怪我が辛そうだし、さっき智太君のスマホを時空の向こうに捨てたときに間違えて通信機も捨てちゃったから、戦線離脱しよ。
最後に寝た場所に戻されるからね。お母さんが旅行中だから私の部屋汚れているから、赤モスはじろじろ見るなよ。すぐに智太君になってください。……初体験が智太君となんて!