18 二度と死にたくない
文字数 3,982文字
救急車で運ばれて点滴を打たれる。病室に一人でいるのが怖い。召集されるかもと心底怯える。
また殺されるかもと、蛍光灯の下で震える。
なのに北風が吹いた。
布団をかぶり泣き喚く俺へと、深雪が命じる。めくられる。
助けてと悲鳴をあげたい。なのに声が出ない。逃げたい。布団の上で土下座したい。なのに体が動かない。黒巫女に顎をもたれる。
白い巫女装束に変わる。俺の心臓も動きだす。
深雪が目を閉じる。彼女の唇が俺のと重なる――。
深雪の吐息から、安堵と希望が注ぎ込まれる。
顔を離した巫女が清楚に笑う。
そのまま俺へと倒れ込む。俺の胸で金髪ショートの女の子に変わる。
柚香がベットから降りる。伸びをしたあとに、どこからか眼鏡をだす。
そして妹を見る。
病室から出ていく……。
俺は時計を見る。まだ六時前じゃないか……。それから、それから……、それから俺は覚悟して妹を見る。
母が八時半に来て、血液検査の結果は異常なしとか聞いたりしてから帰宅する。
さわやかなぐらいだ。若い看護師も俺に色目を使わなかったし、心も晴れ晴れだ。
殺されたことに怒りや恨みはない。非人道的な仕打ちの原因は俺にあり、スカシバレッドだって死んだことに気づかずにいただろう。それに彼女はこう思うだけに決まっている。
もっと強くなってやると。
ただ、柚香の腫れた頬にだけは憤りが湧いてくる。
くそババアめ、なんて思わないようにしないと。弱いレッドならば、強くなることだけを考えるはずだ。そうすれば誰をも守れる……。
くそ花め。よわレッドめ。だけど俺は泣かない。虫けらのように殺されたからって恥じない。
俺の精神エナジーが具現化したスカシバレッドが死ぬということは、俺の精神がどん底に落ちること。枯渇したエナジー。打ち寄せる不安、底なしの絶望、立ち込める恐慌……。
それを経験できたことに感謝しよう。レベルが落ちたけど、報酬も消えたからイーブンだ。これからの戦いの糧にしてやる。
グリーンは三回死んでカスになったらしい。当たり前だ。命は大事に。でも怯えることなくいこう。
……やっぱり柚香も深雪もかわいかったよな。子猫の瞳。冬の柑橘のような吐息。
なのに夢月をおもいだす。見つめる強い瞳を。
なのに俺にはもうフェロモンはない。溜め息をついてしまった。
むさ苦しい男どもは白人黒人アジア系と、総勢八名だ。こいつらは口うるさいし下品だが、役になりきっているだけだ。普段からサバゲーやオンラインゲーで親交を温める、仲良し十人組の正義の味方なだけだ。日本人だけ日本語だけの二人欠席な英国系傭兵の一団だ。
彼らは、マイナー文庫のマイナー傭兵シリーズをコンセプトにしているらしい。報酬を聞いたところ、筋肉、ゲームがうまくなる、フォロワーが増えるなど様々だった。
俺たちを見る卑猥な目もきっと演技だろう。しかし機内が男臭くてたまらない。
ブルーとイエローが、病室で教えた猫と妹の話を語りだして恥ずかしい。野良猫を救った話が唯一の英雄譚とは情けない。
桧の話だって、両親を事故で失ったあの子の手をずっと握ってあげただけだ。俺は中一で、いとこの桧は小三。おじさんとおばさんは見せられない姿と父から聞いた。
桧は俺を見上げて泣きながらうなずいた。この子が泣きやむまで、翌朝までずっと小さい手を握ってあげた。
俺は一人っ子でいとこも一人だけだった。だから
施設とかの話をしている両親にお願いした。
妹がまた泣くのなら、また手をつないであげる。あんな小さい子があんな悲しみを背負ったのだから、何でも願いを聞いてあげる。
それだけの話だ。
ピンクは傭兵たちにダブルピースして操縦席に向かう。たんにモスプレイを操縦したいからで、いつも志願している。
肩にアメシロを乗せた司令官がやってくる。
俺の死亡通知が本部から届いて、茜音は俺を自宅前で待っていた。抱きつかれかけて報酬の件を告げた。彼女は俺を見て、
諸君らには今から激烈な任務についてもらわないとならない。
我が組織を勝利に導くために、そして生きて帰りママのおっぱいを吸ってもらうために、私の説明をしっかりと聞いてほしい
正義の傭兵たちがガムを噛む音だけが聞こえる。
彼らはCランク。関東管轄にはBランクがいないので、二番手チームになる。メンバーが多いので、一人あたりが受けとるポイントは少ないそうだ。ほぼ全員がレベル25。でも十人そろえば無敵らしい。前回の戦いで二人死んで精神療養中で、今夜は八人だけど。
ちなみにモスガールジャーは雪月花のサポートチームから外された。おそらく俺のせいだろう。
恥ずかしい話だが、あの県が管轄に入っていたなど今日まで知らなかった。あそこには
連中が秘密基地を建築中とシンパから情報を得た。そいつをぶっ壊しに行く。まずは上空からモスプレイで攻撃する。
あの盆地には鳥取砂丘ほどに人がいない。なので布理冥尊の尻の穴が三つに増えるほどに、モスキャノンを派手にぶっ放す
白いオウムがキレた。
以後は彼女が淡々と説明する。モスキャノンのエナジー弾で散々に
あの日以来久しぶりの任務。一度死んだ俺のレベルは30まで落ちてしまった。仲間たちの落胆と言ったら……。でもコンディションは93だ。もはや新兵ではない。
悪の組織を倒すため、仲間を守るため、もう二度と死にたくない。