20 果し合いまで七時間 モスプレイ機内
文字数 2,764文字
ごめんなさい。本当は智太君のが百倍好きです。でも、戦う仲間としては柚香のが好きなんです
思いきり頬を赤らめているが、江戸川区の歩道で立ちどまって言うべきではない。
やっぱり一緒に戦うよ。私の果し合いだから私が決める
今からみんなで決める。藍菜が気にいらないことを言っても耐えて。
夢月のために集まってくれるのだから
柚香は夢月の一言ですべてを察した。戦いに気づいた。もはや彼女が前線にでることを拒めない。
ならば俺か夢月は、柚香を守ることに専念する。柚香はどちらかの攻撃力を高めていく。マンティスグリーンと戦ったときの作戦は敵が一体ならば通用する。……あの時はリベンジグレイと三人がかりだったか。敵が複数いるならば、こちらはさらに大勢いないとならない。
俺たちはスカシバイクに二人乗りして、適当に選んだビジネスビルの地下駐車場に入る。藍菜から送られたコードをネーチャーの端末に打ちこむ。
アクセルをふかしてモスプレイへと転送される。急きょ決まったブリーフィングのために――
柚香はすでにいた。与那国司令官の代わりに二十一歳女性がいた。
茜音っちは昨日の今日で疲れているから呼ばない。夢月ちゃんはいつも元気いっぱいでうらやましいね
藍菜は夢月におべっかだらけだ。茜音は精神的疲労かな。俺なんか京都経由でバイクで帰ってきたのに元気だ。
なので、私が仕切らせていただきます、ぐひひ
不確定ですが、関東のレベル100以上が参加することにはなります。スーパームーン、仮面ネーチャーの三人、モスからは白滝深雪と私です。レインホワイトは出しません。ぐひひ……
スカシバイクに轢かれかけた落窪さんが、落ちくぼんだ目で笑う。
今夜は二人とも非番でないはずだが、Aランクのスクランブルだ。
本部の会議で決まる。
全国のレベル100越えは、十四人に落窪さんと茜音っちもいた。今は関東に七人。関西に四人。東北に一人だけ。その代わり、陸奥の先輩と仮面ネーチャーを除けば、いずれも170以上だ
生き延びた化け物たち。180越えはさらに千由奈もいる。100越えならばいちおう岩飛も。
先輩は呼ばないでほしい。関東より北は、あの人がいないと守りきれない
高校時代にチームを組んでいた人のことだろうけど、男なのか女なのか……。
俺はそんなことさえ彼女に尋ねていなかった。柚香とは目が合わない。いつだか喧嘩して、わざと無視されたときと違う。俺抜きで、みんなとの話に集中している。俺は空気に慣れているけど、柚香は俺の話を聞いてくれていた。
落窪さんが呆れているけど、聞いていない。俺は柚香の話も聞き流していた。聞くのも面倒くさかった。でも、柚香は俺の目を見ながら聞いてくれた……。
仮面ネーチャーラピスもリベンジグレイも戦闘時間に制限があります。主戦は紅月とスカシバレッドになります
でも深雪がいる。俺と柚香が組む。俺が柚香を守り、柚香が俺の力を高める。俺は切り札になります
私が高めるのはスーパームーンだよ。私を守るのも彼女。……智太君を否定するわけじゃないけど、エースをさらに強めるのが王道
小猫の瞳に戸惑いが浮かんだ。彼女も俺との間にぎくしゃくを感じている。
戦場では臨機応変にね。
……と、智太君。ハウンドの参戦は無理かな
追跡を筆頭に多彩な特殊能力。存在だけで敵を威圧する女の子。
俺も誘ったけど断れた。司令官からの命令ならば承諾するかも
築いたばかりの信頼関係が一撃で消え去る可能性もあるし。
……やはり今日が落窪さんの出番かな。リベンジグレイにはクーデターの際に暗躍してもらうつもりだったけど
智太君の了承は得ているけど、遠くない将来モスガールジャーは本部に三下り半を叩きつける。その戦いに花鳥風樹も参加させる予定
柚香が青ざめた顔を俺に向ける。
たしかに約束はしたけど、モスの現エースは思いきり初耳じゃないか。しかも桧を巻き込むだと? だとしても今ここで騒ぐ話ではない。
連中の言いなりばかりは良くないから。まずは今夜を越してから
俺は柚香へと弁明みたいに言う。でもでも、今夜の次は清見さんを救う。その後だ。
柚香はリベンジグレイの中の人に尋ねる。そりゃ俺や蒼菜の意見だけでは不安だろうな。俺でもそうする。
ハデスブラックにも臆さないかぐや姫が怯んだ。
今夜のために落窪さんが我が家に来ることになった。彼女たちに一度会わせておきたかったからいいけど、柚香とすれ違う一方。
いいえ。年をとると薄着が堪えますし、そもそも本日の行動可能時間は十分弱ですし。ぐひひひひひ
悪を捨てた大人の正義の女を見せたかった。転送ポイントは履歴から登録できたので、我が家の庭をセットしておいた。これで道にいきなり現れることはなくなった。テントをこまめに畳まないとならないけど。
櫛引博士が言っていたことを、一度話し合うべきだと思う
し、しばらく会ってないから、そろそろ会うべきだと思う
理由になってないような気もするけど、柚香は俺を真摯に見上げてくる。緊張してしまう。
……そうだね。早いほうがいいかも。夕方にしようか。私の部屋で
よっしゃ! でも二人が交わす内容はおもいきりシリアスだろう。
落窪さんを後部座席に乗せて、アクセルをふかす。モスプレイから自宅へと一気に転送する。
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