21 怒りが化す精神エナジー
文字数 4,166文字
隼斗君のお母さんに連絡した。救急車で運ばれたって。明朝、町田さんと一緒に向かう。
あの馬鹿にはペナルティが待ちかまえている。また入院になるだろうね』
『陽南ちゃんは化け物。電話をかけてきた。震える声で、死んでしまい申し訳ございませんでしたって。いくら彼女の心が強いと言っても、その後のことは教えていない。
陸さんは電話に出た。彼にはある程度教えた。
……清見さんと連絡は取れない。彼は一人暮らし』
ハデスブラックへの怒り。レイヴンレッドへの怒り。
自分への怒り。俺がいたなら。
本部への怒り。逃げた柚香への怒り。
何よりも、みなを殺したレイヴンレッド。清見さんを襲ったハデスブラック。
俺は怒りがエナジーと化す。寄り添い眠られる必要ない。
俺は心に雪月花を思う。端末は現れない。
彼女は深夜にバイクで俺の家に来たことがあるらしく、魔法でなく無免許運転で学校に行くらしい。俺も三日後から学校か。たしか柚香も。茜音は――。
窓に何か当たる音がした。覗くと、蘭さんがいた。
戦いが終わり抵抗もできない柚香を拉致するつもりだったのか。
怒りが際限なく湧く。
蘭さんが柚香の髪をさする。
俺はようやく気づく。
蘭さんに擬態した奴が、至近からのXを腕で受けとめる。
俺は桧に目を向ける。
スカシバレッドは春日に飛びつく。
時空に消えかかる肉体を引きずりだす。背中にスピネルソードを突き刺す。
お兄ちゃんの口調になってしまう。
赤い光が、異形の腹にめりこむ。
Xが飲み込まれ閉じられる。
落とした腕が這いだす。体につながる。
鹿角が大きく広がり伸びる。
逃げようとするけど狭い空間。
自分の部屋を壊したくないし。ソードで切っても別の角が生えてくる。硬い網のように捕らえられる。
桧が逃れる。……妹は光に包まれて、変身しかけた。
続いて黒い光。
黒神子が現れるなりよろめく。
それでも桧を背に俺へと御幣を祓う。
堪えようもない紅蓮。
怒りで充満。
すべてのエナジーを放出する。
異形の角が溶けていく。
とどめより。
ネンドクンがスライム状に盛りあがる。無数の鹿角が生えるのが窓ガラスに映る。
俺は桧と深雪を抱えようとする。相生智太より小さなスカシバレッドの体で。
なのにあらたな角が生じる。
化け物が角をこの子の背中に刺す。持ち上げようとする。スカシバレッドは悲鳴をあげない。二人を守るだけ。
刺さった角は溶けるけど口には血の味。いつもと違う彼女の血の味。
バイクが停まる音がした。
鉢巻きからこぼれる赤茶色の前髪。強いけど脆い妖精の眼差し。
ソードを上段に構える。受けの必要なき威圧。
ルビーソードの煌めき。紅色の太刀筋。
月明かりが一点に集中したかのような、陰惨たる滅びの光の剣。
奴を倒したことに
俺も一緒に寝たいけど、とりあえず夢月がいれば柚香は大丈夫。
で、俺がまずすべきこと。
仮面ネーチャーの端末を操作する。機能を探っていたときに、たしかそれらしきものが……やっぱりあった。
一階に降りる。
それは初耳だ。
俺は玄関で靴を履き、仮面ネーチャーの端末をだす。
……本部の人間を倒してしまった。もはやどうにもならない。どうせ夢月が味方になってくれる。彼女がいればみんな逃げる。
それよりも血の色。俺の怒りの精神エナジー。……たしかに原理主義かもな。
夢月が来なければ、春日を食い殺していた。なんてことはないにしろ。
スカシバレッド専用の赤いバイクとヘルメット。それにまたがり、行き先をまた操作する。地図アプリの要領だ。
エンジンを起動させる。ふかせば江東区へ再度転送。