25 ニューモスデー

文字数 2,645文字

……。
 みんなは楽しそうに談笑している。パテーションで隔離させて加わりづらい。だから、正面の碧菜の聞き役にもっぱらなってしまう。

正義の象徴であるレッドがあんな報酬を授かるなんてね。

真っ先に私の胸を見てそれから顔を見て、正義の女性は容姿で選ばれるではなかったのか、みたいな顔をした気もするレッドにはお似合いなんて思わないから――以下割愛


たまたま聞いた話によると、あのくそは一般人のときから視力が9.5あって、対岸で子供たちが亀を苛めているのをいましめるために、制服の下に着ていたスク水で、台風で増水した荒川に飛びこんで、くそでもさすがに流されて、流木にしがみつき海ほたるで保護されたらしい。

そんなくそ化け物がスカシバレッドを狙っていると――以下割愛


それはそうと、私はイラストとか得意なんだ。いまは主に小説で、なんちゃってR15――以下割愛

 司令官のコメントを割愛しまくってしまったが仕方ない。
ぐひひ

 彼女に侍るボディガードの淀んだ目つきが気色悪い。


 こいつの目を見たら思いだした。

そういえば、トンボの化け物が人間を食べたとか言ったけど
ぶっ
……食事中に切りだす話ではないな

事実らしい。

本部が真相を探っているが、生身の人を食べるなんて、奴らはもはや人間ではない

 碧菜が下のフロアから取り寄せた唐揚げにフォークをぶっ刺す。

 もぐもぐしながら、みんなを見渡す。

……菜っぱ、大事な話があると言ってなかったか?

えっ、……うん。実は

……。

じ、実は……さ……チ、チームのスタイルを変えようかな?

ほう。ようやくか
もしかして男?
そ、そう。この前の戦いでインスピレーション湧いたから、傭兵にチェンジしようかな。でも奴らと被るから中世系
そんなの駄目です!

三ツ星レストランで興奮してすみません。でも、私は男になりたくありません

陸さんは女にしてもらえばいいだろ。僧侶とか踊り子とか
僕はなんになろうかな? 智太さんは勇者で決まりだね!
 それって傭兵なのか? 清見さんと隼斗はハイタッチを交わすけど……。
今度は私も人間にしろよ
茜音っちはオウムのまま。コザクラインコならいいよ
絶対に駄目だ!
 俺は立ち上がってしまう。

これからも今のモスガールジャーで行く!

 これからもスカシバレッドと戦い続ける。



 部屋に沈黙が流れる。

エースの意見こそを尊重しよう。隼斗に夏目。残念だったな
 清見さんがワインに口をつける。

 宴もたけなわで、記念撮影をすることになった。藍菜が中心で両隣に俺と隼斗。

 スカシバレッドの写真。茜音に撮ってもらうと約束していた。でも、このメンバーの写真こそが尊い。


ぐひひ……
 ボディガードがカメラを持つ。陰気な目で見られても笑顔を作りづらい。
あの人は?
運転手兼諸々の落窪一狼太(おちくぼいちろうた)さん。もと布理冥尊の大幹部。雪月花に負けて改心したから本部に無理言って私が預かっているの。善の心はまだまだ完璧ではないみたい
……それをボディガードにするのはいかがかと思う。
“いちろうた”なんてさわやかな名前だし。特性が“山犬”と“”なんて強そうだし。

そうですよね、落窪さん

あなた様のおっしゃる通りですよ、ぐひひ。では撮らさせていただきますよ、ぐひひひひ

 落窪さんが落ちくぼんだ目でカメラを構える。このままビームが発射されて全滅するかもと不安になったがフラッシュだけだった。


 仕上がりをみんなで確認しようとしたところで、天井に六人ぐらい飲み込みそうな巨大な白い渦が巻きはじめる。

あっ、そうだった。本部から指示が来ていた。言うのを忘れた
この馬鹿が……
隼斗は知らぬ間に部屋で寝ているかもと、お母さんには言ってあるよな
退院した日に言った。じゃあ落窪さん、あとはよろしく
 光に包まれて意識が遠ざかる――。
起きてください
 イエローにやさしく頬を叩かれる。
……。
お前はいい加減覚えろ。呼ばれたら腹に力を入れろ
ははは
特例で自動運転にしたまえ。ブリーフィングを済まそう
長話はやめろよ
今夜はカチコミだ。暴力団組織に偽装した布理冥尊の一団を壊滅させる。準構成員二名が上級戦闘員。構成員二名がエリート。若頭が幹部補で組長が地方幹部クラス。ちんけな規模のやくざだけあって、合計レベルは150ぐらい。

何事もなければ楽勝だな

なんでモスプレイに集合するの? 僕とシルクはわざわざ降りるなんて面倒くさいよ

もうひとつ思いだしたからだ。ずいぶん前にアメシロから頼まれたことをな。

撮影してから出撃してもらおう

 司令官の手にカメラが現れる。



 スカシバレッドがセンター。両隣にはダブルピースするスパローピンクと微笑むシルクイエロー。後列に腕を組むエリーナブルーと顎に手を置く与那国司令官。

 セルフタイマーのボタンをくちばしで押したアメシロが、司令官の肩に戻る。

ウフフ♡
 スカシバレッドだけのも撮ってもらった。ポーズを変えて三枚。顔だけのアップも。
早くしろ
 データは後日手渡ししてくれるらしい。ネットには流さないようにとのこと。

 命は大事に。

ひとつだけ問題がある。おそらく戦闘員は変身していない。奴らはエナジーの鎧、いわゆる精霊の盾をまとっていない
 ブルーが、草加の大学のグラウンドに降りたった仲間たちに言う。
僕たちは正義の味方。生身の人を傷つけない
変身するのを待っていたら、幹部まで姿を変えます……面倒くさいですね
どうせならあれをしましょう。

だって……、私はまだしたことがない!

 あの子ならば懸命な振りをしながら笑うのも、今夜ぐらいはありだろう。

 頭の中で単体敵のリスクだかの計算を高速で済ましたっぽいブルーが、にやりと笑う。

 雑居ビルの二階は深夜でも明かりがついていた。

 女たちは防弾ガラスを割り突入する。悪そうな人間どもがぎょっとする。

 女たちが整列する。

 電卓を叩いていた男が黒いマントで体を覆い、異形へと化していく。

!……
 奥で札束を団扇(うちわ)にしていたハゲが、俺に気づき煙草を口から落とす。
雑魚どもめ。あきらめろ
 レベル36のエリーナブルーが叫ぶ。
我々は夜に舞う
 レベル35のスパローピンクが続く。
磨きあがった乙女たち
 レベル34のシルクイエローも。
生まれ変わった戦士たち
 レベル106のスカシバレッドが一歩前にでる。その両手に、対のスピネルソードが現れる。

 戦闘員服に着替えた子分たちとピチピチ跳ねる巨大ミジンコを制して、ハゲが両手をあげる。

降伏します

 もうちょっと待て。

「「「「かわいこ戦隊モスガールジャーだ!」」」」
 四人の声が重なる。
第一部完
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登場人物紹介

相生智太

=スカシバレッド

スカシバレッド

=相生智太

清見涼

=エリーナブルー

エリーナブルー

=清見涼

睦沢陸

=シルクイエロー

シルクイエロー

=睦沢陸

壬生隼斗

=スパローピンク

スパローピンク

=壬生隼斗

夏目藍菜

=与那国三志郎

与那国三志郎

=夏目藍菜

木畠茜音

=アメシロ

アメシロ

=木畠茜音

陸奥柚香

=白滝深雪

白滝深雪

=陸奥柚香

竹生夢月

=紅月照宵

紅月照宵

=竹生夢月

深川蘭

=紫苑大夫

紫苑大夫

=深川蘭

相生桧

=智太の妹(従妹)

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