15 白いヘルメット
文字数 2,131文字
紅月の一振りは百に値する。まさに月明かりが凝縮された太刀筋。それを避けながら、十回も彼女に当てるのは至難だ。おそらく一太刀喰らうだけでライフが半減する。当たりどころが悪ければ一撃で……。それでも紅月は加減しないだろう。
俺は無人島での模擬戦で海上など広い空間を使えた。機動力を駆使できた。しかし今回は狭いスペース。俺でも避けきれない。レイヴンレッドほどの技量が必要。
だがレオフレイムは賢いと聞く。どんな戦いを見せてくれる? それとも彼女もワタリガラスに匹敵するほどの……。
一人だけ残れるか。俺から飛び乗り、女剣士にしがみつく。判定二試合のために時間を食ったが親睦会が立ち消えしたし、鳥羽まですぐだ。メイちゃんに会える――。
ドッカーン
結界に衝突する。反動で手が紅月の腰から離れてしまう。はるか上空から生身で落下してしまう。
ぎりぎりスカシバレッドになって海へと落ちる。痛いけど平気。水中で魚たちを驚かした後に水面へ顔をだす。
さきほどの船が寄ってきた。
船頭が棹を持ちながら言う。
この人が結界を張ったと思うけど……見覚えあるような。
……本部の人間だったのか。手を握る俺と柚香をやっかんだ四十絡みの痩せた人だ。
うまくないぞ。
これは赦せない。
今までスマホを捨てられたりテントを壊されても笑って許してやった。夢月の美貌に媚びたのは否定できないけど、それ以上に正義の仲間だと思ったからだ。尊敬すべき強い味方だとも思っていた。俺たちみんなを助けてくれると信じていた。それがスカシバレッドになるなり、俺を敵地に置き去りにした。
千年の恋が二秒で醒めた。やっぱりあれは、顔がいいだけで胸もでかくない破綻した生物だ。
それだけは譲らない。
……パールロードを走りながら気づく。これで先ほどの謝罪も握手も捨て去ってしまった。赤い女の子にいいなりの俺に問題があるのかもしれない。かわいすぎるからどうにもならない。