深夜の河原。見下ろす旅館の窓明かりはまばらだ。仮面ネーチャーラピスは、その巨体を人の姿三体と対峙していた。
赤い三人は、仮面ネーチャーの前に着地する。サント号は自動運転で上空に消える。
つまり雪はあっちか。
コールドレッドも強かった。素早いくせに、魂を削る戦いぶり。江礼木と正反対だ
羽中田と言う名の先ほどの大男が俺をにらむ。あれだけ食らわしたのに、すでに俺より元気そう。
それは私への褒め言葉? それで賀良はどれが好み?
いずれも二十代後半ぐらいか……。思いきり邪悪な形相どもだ。夜道で出会ったら俺でも逃げる。しかもすでに生身じゃないみたいだし。
半月状の光が回転しながら門番へと飛んでいく。廃墟が目立つ温泉街だとしても、十五夜どころか十三夜もつかえないのか。
でも。
無数の光弾。笑いながら待ち構える三体の顔色が変わった。それどころか
二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜……。ああ面倒くさい! 一回だけ十三夜!
無限の光弾。紅い光が消滅することなく乱舞する。時折、追尾型月明かりの群れを混ぜるいやらしさ。その中をジェット機ほどもある紅色の光が通過する恐ろしさ。
あなただけに任せません。
フレイムオブエンペラー! フレイムオブエンペラー! フレイムオブエンペラー!
温泉郷への延焼の心配をするレベルの火炎放射の連発。
仮面ネーチャーラピスの全身からも瑠璃色の人型光線が発せられた。
まだまだ! 二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜……。もう一回だけ十三夜! 二十三夜、二十六夜、二十三夜、ラスト十三夜! おまけ十三夜!
紅色の光に染まる河原……。怒る鬼も嘆くだけだろう。仮面ネーチャーに従って、スカシバレッドは参戦しない。申し訳程度に籠手から矢を放つ。
「「窓に明かりが灯った。素行不良児やめろ!
合体を解除する。スカシバレッドは援護を続けろ」」
エナジーの消費が激しいから合体は短時間しかできないと、藍菜が言っていたな。
僕の結界は月明かりに通じた。まあ、僕の力だけでないけどね
六人の人影……。門番である羽中田、賀良、江礼木の巨躯。蒼柳のしなやかな体。小柄な与謝倉は杖を手にしている。
その隣に、ありふれた背丈の高校生ぐらいの青年。賢そうで整った顔立ち。今どきの黒髪。でも耳にピアス。
こいつが……。
スカシバレッド……。お前もかわいくて馬鹿?
テロリスト本部に踊らされた実行犯にして主犯格ども。僕は真壁律。本宮の執務室長
俺はオネエ言葉を吐けるほどに余裕なのに。そもそも他を置いて尻尾を巻くはずない。それに猟犬がいる。
そこまでじゃない。蒼柳さんや凪奈こそ実戦にでてたいしたものだ
恥ずかしがるなよ。
……門番三人が役に立たぬことがよく分かった。お前らは人であるうちに自己紹介してやれ
真壁という男の子が凶悪な図体の大人三人に命じる。
大人たちは首肯する。
びびらせるためにか?
俺はクマドーサ。特性は雀蜂、灰色熊、瞋
俺はワシモーサ。
特性は響尾蛇、禿鷲、それに癡。三人とも原理主義だ。
……多くの者が倒れた末に、ようやく大司祭長は私たちの存在を認めてくれた
ハデスブラックに代わり門番となった私は、ナマズラーガ。
特性は鬣犬と電気鯰。さらに昏。
……弱い私たちは、じきに原理を我が身に授かる
原理を我が身に……。巨大化したハナカマキリを思いだす。 紅月がスカシバレッドの手を握る。
スカシバレッドが紅月の手を握りかえす。怯えぬようにと強く握る。
こいつと同じ規格外が三体。だとしても、夢月が何故にここまで震える?
脅かすのはそれくらいにしましょう。そして今夜は終わりです
空から女性の声がした。年老いているけど張りのある声。
私の存在に、かぐや姫が気づきました。追いつめれば、滅びの光を放つでしょう
白く発光しながら、白いローブをまとった女が浮かんでいた。
星空に浮かぶお姫様。私はあなたを待っています。公平なるレイヴンレッド、そして闇を照らすあなた。赤はその二人で充分。
あなたの目が覚めれば、これまで殉じた者も救われます
百夜目鬼の声は優しくて強い。百夜目鬼を包む光も優しいのに強い。顔立ちが見えないほどに。
仮面ガイアとアグル。何年振りでしょうかね……。裏切り者どもに伝えなさい。本宮の聖なる魔女は、また地面に降りたつと