魔女に一度目の死を与えた日から三日しか過ぎていない。三日も経った。今夜から動きだす。夢月とともに七夕ランドに向かう。
それは、レジスタンスが新設したアジトへの奇襲にして強襲。二人きりの宣戦布告だ。
柚香には連絡していない。連絡も来ない。夢月にもない。
あと十日で師走。冬の凛とした星空。
おそらく栃木上空のミカヅキで、かぐや姫が振り返る。精神エナジーのくせに腹が減るだと?
スカシバレッドに空腹感はなくても口寂しさはある。でもキャンディを頬張るだけで吐きだしてしまう。私が欲しいものは……なんて考えだすから耐える。
水やお茶は飲める。尿意はもよおさない。精霊であろうと汗をかくから当たり前だ。涙だって流せた。睡眠欲は人一倍あって一日に十八時間眠れそうだ。寝ればエナジー満タン。食事は不要。相生智太より燃費はいい。
死ぬと永遠の闇らしい。それが普通だ。レベルが落ちて復活なんて虫がよすぎた。
じゃあ食べない。帰りにドラッグストアに寄る。三日後に始まるからナプキンとショーツを買う。
私は軽いけど出血はふつうだよ
生理用品も文京区の一室とともに爆破された夢月は、相生智太に戻すのをあきらめてから、スカシバレッドを女友達みたいに扱いだした。以前よりはマシだ。
俺にとって大事なのは正義の美女からグレイマンに復活するより、彼女が安全日であることより、ずっと守ると約束した妹。でも動向がはっきりしているのは千由奈。だから本部を叩きあの子を連れ戻す。千由奈こそ戦友だし、頼りになるし。Fランの頃に死地を何度もくぐりぬけたモスのメンバー同様に。
しかし寒い。夢月は十二枚も着ているから平気みたいだけど、スカシバレッドは茜音に借りたジャケットとジャージだけだ。
ミカヅキが速度を緩める。
寒すぎ。それでも脱いだ私服を朔で隠してもらう。露出気味の赤いコスチュームだけになる。スカシバレッドの戦闘服。この鳥肌は武者震い所縁だっくしょん!
山形からの帰り。雪月花端末のスクランブルに気づかずに、スカシバレッドはモスプレイで大口開けて寝ていた。どのみち転送できないのだから、気づいたとしてもどうにもならなかった。
なので蘭さんにお願いした。
『私用で使えぬように、男に戻るなり使用できなくするからな。だから早く相生の姿になれ』
雪月花端末の設定を変更してもらった。これでスクランブルがかかれば、俺はいつでも夢月のもとに出現できる――。すぐに蘭さんから端末に連絡があった。
『柚香もスクランブルに対応してもらいたいそうだ。三人で助けあえ。
……櫛引博士に相談してやる。あの人の知恵ならば、相生智太へと復活できるだろう。だから無理するな。それまでは命を大事にしろ』
蘭さんがどこにいるかは誰も知らない。おなかの赤ちゃんのことだけを考えてほしいのに、どうしても頼ってしまう。柚香がなおも俺を頼るように――またまたすぐに連絡が来た。
『博士と連絡が取れなくなった。本部もつながらないらしい。信用できる人に聞いたから事実だろう』
この期に及んで信用できるのは、正義の味方あがりの人たち。
“出雲さん、霧島さん、伊勢さん、那智さん、因幡さんの誰かですね”
『出雲さんだ。あの人は結婚を機に引退した。レベルは190あったらしい。霧島さんとチームを組んでいた。彼は単独で現役を続けて、二度死んで引退した』
正義の味方同士の結婚。夢想した瞬間もあった……過去形ではない!
『お前が質問を脱線させるのは珍しいな。出雲さんの相手を知らぬから、一般人とだな。
霧島さんは独身と本人から聞いた。ちなみに伊勢さんは両親の介護で引退した。最終レベルは166。これも本人が教えてくれた。
……蒼柳と春日に倒された那智さんのレベルは、殺されるまえは162だった。この人は本部に協力するために引退した。私が一番お世話になった人だ。いい意味で四角四面だから、布理冥尊あがりの連中には煙たかったのだろう。
ウィローブルーとネンドクンのお目付け役で前線に向かうなどリスクだけだ。それでも断らない人だった』
蘭さんの声色が少し変わった。本部への真なる怒りを感じた。しかし人に歴史あり。戦いにも歴史があった――。
スカがぼーとしているときの目の奥、智太君にそっくり
スカシバレッドに笑みを向けてくれるようになった。傷を負ったものへの慈愛の笑みだとしても、相生智太で見つめられたい。そのために、櫛引博士はどこだ? あの人こそ最後の望みなのに……。
紅い光。十二単衣が消えて破廉恥な宇宙くノ一が現れる。
同時に人の目に視認できぬ速度で急降下する。露出しまくりの女忍者にしがみつく。
ターゲットは仙台近郊の山。くノ一が両手をひろげる。
巨大な光弾が林へと垂直に飛ぶ。連続する紅い爆発。クレーターができあがる。地下50メートルにあるアジトが空とつながる。
ミカヅキを消し、赤い二人の美女が穴へと降りる。着地するなり。
スカシバーニングデストロイ!
スカシバーニングデストロイ!
エナジーをたっぷり放出したけど、撃滅の光の三連発。これで精霊をまとったレベル120以下は消滅する。残ったのはレベル高き本部の連中だろう。そいつから全てを聞きだす。手加減せず、手荒く。そして千由奈とその兄を救う。じきに桧につながる。
スカの光で100越えも一体倒したよ。生き延びているのは二体だけ
天井に穴が開いた無機質な建築物。非常灯がうっすら照らしている。唯一のドアが開く。
よりによってマジかよ。三十半ばの男女が並んでやってきた。霧島さんの手に端末が現れる。