42 黒幕博士
文字数 2,942文字
俺はこう思う。
こいつが諸悪の素だった。こいつがラスボス……。
よいか、精神エナジーは中身も強さも一つ一つ違う。私にもその強い力がある。言葉遊びで例えるなら、“夜空”と“儚”だ。その力をお前たちは報酬という形で受け取っている。
私の力はそれだけだ
かぐや姫が叫ぶ。そうだった。まずは拉致。
なのに博士は消えない。
朔で奪われないように、ハウンドと兄には精霊の盾をまとわせると思う。その上で人質にする。
ハウンドは泣きながら、本部の力を増やし私たちの力を削る。そしてレオフレイムが興奮しだして暴走する
俺は茜音にボコられている。しかも精霊の姿で生身をだ。用法が正しいか知らないけどまさにジェノサイドだった……としても、茜音がとどめを刺すまで戦う姿が想像できない。だからこそ、レインホワイトよりキバタンのが似合っている。
そして現実として、残された正義の手段は少ない。
蘭さんは『じっとしていろ』しか言わないので、じっとしている振りをしている。なので彼女にアドバイスを授けてもらえない。モスとは連絡取れない。相生智太に戻ったらスマホを買い替えないと……。
恐ろしいことに、(永遠の闇よりは)スカシバレッドのままでいいやと、たまに思ってしまう。
俺は親友も彼女もいなかったけど、この二人と異性の姿で接するのが意外に居心地よくて…………戦いなんか投げだして三人でどこかに行っちゃおうかなって思ってしまう自分がいる。
実行するはずない。夢月も柚香も、智太君のために戦ってくれているのだから。
何よりも相生智太は相生桧のために戦わないとならない……けど、怒っているだろうな。
両親を亡くしてから、妹は感情を爆発させない。でも、ごくたまに怒ると極めて怖い。簡単には赦してくれないのも知っている。高校時代に女子を部屋に連れ込んだぐらいでだ!
姫がふいに言う。
そうだった。
櫛引博士は俺たちを見て、『この女はまだ雛のまま』と言った。
夢月がヒヨコなのは否定できないけど、博士から見てもやはり俺は目覚めたらしい……。
俺が守るのだから夢月は幼いままでいいや。あんな悪人の言葉などに悩む必要はない。
……でも、博士が悪に感じられない。いい人じゃないけど、むしろ善――
ミカヅキが消える。
二人は悲鳴を上げながら落下していく。
俺は心に雪月花を思う。その手に端末は現れない。