36 臥龍鳳雛
文字数 3,138文字
その二文字を考えろと電話で言われたのは覚えている。でもおっしゃるとおりに、その瞬間に頭を捻らすのは放棄した。
夢月が跳ねるように起きあがる。
どうせ言葉遊びだ。だったら特性も月を名乗れ。
……竹生は理解できないじゃなくて、理解しようとしないな。
いいか、原理主義を否定的な一文字で表した。なぜ否定的と言うと、誰の心の奥にもあるからだ。だが、善にも悪にも純粋な奴らは、いずれ表に現れる。そいつらを区別するために名づけた。
それが利を為すか害と成るか……当本人たちを前に失礼だったな
そうだったのか……全然意味がわからない。深く考えるなんて無理だし、部屋が紅色に照らされるし。
俺は、ベッドの上から車椅子の老人を睨む涙顔のかぐや姫を見る。
鼓動がめちゃくちゃ高まる。
たった今キスしたばかりの柚香には申し訳ないけど、誰よりも綺麗。ずっと手を握ると約束した妹には申し訳ないけど、誰よりも護りたい……。
興奮するのは幼さに逃げるためだな。典型的な逃避行動だ。
いいか、お前の周りには、例の行為を率先した黒岩も強制した百夜目鬼もいない。
龍は目覚め鳳凰は巣立つ。
お前たちの原理主義はいずれ現れる。どのような形で現れるかは、お前たち次第だ。お前たち二人でしか決められない
櫛引博士が車椅子をテーブルへと動かす。コーラの1.5リットルのペットボトルが置いてあった。でも中の液体は透明。
博士は俺を鋭いままの目で見る。
かぐや姫から夢月に戻った王女様がカラオケを操作する。
彼女の歌声を聞きながら、俺は博士が言い残したことを考える。分かったような分からないような……。ちょっと舌足らず。なのにうっとりする声だよな。ダンスもうまいし。というか何曲入れているんだ。
さらにもう二曲一緒に歌って踊って、俺たちは部屋をでる。龍に役得などないし、人に
ホテルをでたところで、それだけは知らせておく。
だったら私ともキスしなさい! 桧だったらそう言うかな。
あの病院は中学生以下だけを禁止しているので、隼斗は俺と一緒に藍菜の見舞いに行く。あれから三週間。清見さんはまだ目覚めない。彼の見舞いには行けない。
ペナルティーなどおかまいなく隼斗はまだ健康だ。もう一度死んだら分からないけど、背丈の成長も止まっていない。じきに俺を追いこしそうだし、顔つきも男らしくなっている。なんだかさみしい感じもする。
隼斗がガムを噛みながら言う。そんなことはたぶん初耳だけど。
焼石に殺されたこと、清見さんが廃人のようになったこと。自分は何もできなかったこと。
そんな耐えがたしがあったことを、中学生の隼斗はおくびにもださない。――十年以上の病との戦い。それらもみんな年輪のように刻みこんで、隼斗はもっと大きくなっていくかも。俺なんかよりずっと。
などと思いかけたのに。
隼斗が納得しやがる。
二人はボディチェックを再三受けて、ようやく入室する。
本部は彼に善の心があるとして、その実績を鑑みて、本部のメンバーとして招き入れた。
今後は彼と会ったとしても、ぶん殴らないように
蒼柳のどこが善だ?
どうでもいいや。どうせ俺は一兵卒だから。殴らないかは保証できないけど。
というか殴り飛ばす。蒼柳にしろ春日にしろ、ついでに……。
落窪さんは無表情だ。
壬生隼斗は親指を立てる。