22 でっかい給料日
文字数 3,474文字
俺は爪に叩き落とされる。背中を深く抉られる。
サイキックが足を掲げる。踏みつけかけた足の裏をスピネルソードで裂き、転がり避ける。
ズドン
真横での地響き。
まわし蹴りされたブルーが、回転しながら林に飛んでいく。
サイキックが俺を見おろす。
こいつには攻撃はなにも効かない……。いや、絶対にマジで死ぬほど効きまくっているはず。
同時にドロップキックされる。
衝突した灌木が倒れる。クワガタが落ちてきた。
こいつはもう肉弾戦だけ。俺はまだまだ余裕……。そう思いこんでも立ち上がれない。
なのに俺を守るために、シルクがスパローを支えてやってくる。
血みどろでレッドみたいなピンクも両手で握りしめる。
こいつらは戦うために、寝ころぶだけの俺のもとへ来た。
エナジーのかけらもないスカシバレッドに力を与えてくれた。
馬鹿め。
巨体が真上から落ちてくる。もう逃げられない。
お前がな!
仰向けに横たわる俺の胸が奥から燃えた。
ピンク色と黄色と赤色が巨大な光となり螺旋を描く。サイキックを飲みこむ。
吹っ飛ばされた巨体は桃畑の桃の木を数本へし折る。
サイキックはなおも立ちあがり、両膝から落ちる。
陸奥柚香のように。
抱きあい傷を舐めあった二人のように!
俺はまだまだまだまだ戦ってやる!
シルクイエローがピンクを地面にやさしく横たえる。俺を立たせ、俺の左手をいたわるように握る。
それぞれの手を握りかえす。
なぜに雑魚どもにこんな目にあわせられる。サイキックは納得いかない面だ。ふいに両手をあげる。
その姿勢のままで赤青黄の螺旋を受けて、サイキックは後ろに倒れる。巨体が消えていく。
ブルーが左手で俺を支えて歩く。
イエローはピンクを抱いて急ぐ。
スカシバレッドはきっと命乞いなどしない。魂が消える直前まで正義のために戦い続ける。
だからブルーの手を振り払い、よろよろと浮かびあがる。
その手には、なおもスピネルソードが現れる。
トンボが俺を餌のように見る。
シルバーヤンマーの口が裂ける。銀山の顔がさらに醜く変化する。涎を垂らしながら。
圧倒的な速さ。前脚を避けるが、後ろ脚に肩を切り裂かれる。
もはや痛みを感じない。
意識だか気だかが遠ざかるのをこらえる。勝てるはずない。俺の仕事はこいつを惹きつけるだけ。
怖じ気つく傭兵たちを奮い立たせる――。トンボに背中から捕らえられた。
右の太ももを噛まれる。……食いちぎられる。
おぞましい化け物に籠手から矢を連射する。トンボは悲鳴をあげて去っていく。
スカシバレッドは落下しかけて宙に踏んばる。
ピンクを抱えた男を先頭に、傭兵たちが梯子を登り始める。
シルバーヤンマーがみんなへと飛ぶ。レッドはソードを振るう。赤い斬撃が羽根を一つ落とす。
片側の複眼に矢を刺したままの銀山が俺へと向きを戻す。
口を開けて、直線に飛んでくる。
俺の役目はこいつを惹きつけるだけ。みんなのためにまた死んでもいい。
……スカシバレッドに叱咤された。
彼女がトンボの餌になるはずない。彼女がもう二度と負けるはずない!
スカシバレッドは迫りくる牙を跳ねて避ける。
巨大トンボはおのれの速さのままに、棒のような体を縦に裂かれていく。ふたつに割れるように落下し、地面にたどりつくことなく消える。
見届けて俺も落下する。
高度10000に達したら、当初よりの目標物にモスキャノンを照射。五発!
それですべての任務が完了だ……。
司令官、はやくピンクを帰してやれ。レッドもだ!
でも無茶しすぎだよ! 音声切りっぱなんて無謀すぎ! ライフがあと3だよ! コンディションなんか何度も0だよ!
なのになんでそこから復活するの! 聞いたことないよ!
……でもありがとう。私はまだ鳥だから泣けないけど、心で滅茶苦茶号泣しているんだから!
相生にフェロモンなんていらない! 格好良すぎる!
みんなゆるす! 茜音のままだったら抱きついていた!
今夜はゆっくり休んで、そしたらみんなで祝勝会しよう。
きっと隼斗君も出席できる。だって山梨出向の中央幹部を倒したなんて……
いいから、いつもみたいにすぐに押せ。声にだせない。
涙でグチャグチャの与那国司令官が立ちあがる。シートに座った男たちを見わたす。
当たり前だ。その赤いアマゾネスがいなかったら、誰一人帰って安酒を飲めなかった。
それより観光旅行の運賃を払わないとな。ゲームクリアのポイントだって糞くらえだ。俺らの取り分は0でいい。
その代わり、死んじまったオリーと、このあいだ死んでまだ立ち直れないロシア人と若造に、高い酒をおごってやってくれ
男たちが口笛と喝采で応える。とてつもない大馬鹿野郎どもだ。
傭兵たちに深々と頭をおろしながら、司令官が端末のボタンを押す。
ようやく終わった……。
男がこめかみに当てた手のひらを俺に向ける。
俺はただ柚香と抱きあって眠りたい。