06 緑狩り、赤狩り
文字数 4,103文字
蘭さんが俺を転生させて瞬殺したのは、このシステムを利用したのか。だから俺を後ろから抱えたのか。
しかし、まずいことになった。白い下着姿まではゆるせるらしいけど、回答次第ではまたも瞬殺されるかも。
スカシバレッドならば冷静にそう答えるに決まっている。
そう俺は、すでに正義の女スカシバレッドだ。
シルクイエローはすでにいた。
隼斗を緑狩りに加わらせたくない。それだけだ。同じ理由でブルーも現れない。いるのは押しつけやすいこの二人と、雪月花だけ。
豪華絢爛衣装のお蘭が煙管をふかしながらフェンスの向こうを見ている。
煙は無数の蝶の形になり飛んでいく。
こうやって見ると、モスガールジャーが雪月花に勝るのはシルクイエローの胸だけだな。スカシバレッドはあらゆる面で善戦していると思うけど。容姿に関しては人によって違うから、エリーナブルーやスパローピンクが好みの男も一定の割合でいるだろうけど。
深雪が俺に目を向けた。
俺を殺した日、あの紫色の蝶たちはいつから俺を追っていたのだろう。
あの時よりはるかに強いスカシバレッドだ。関東管轄で雪月花に次ぐレベルを誇るスカシバレッドだ。
そんな彼女でもこんな言葉を口にするかもしれない。
モネログリーンを本部に連行することなく奪還。左手にはすでに矢が充填された籠手がある。指令部と連絡が取れなかろうと、武器さえあれば充分だ。
心へと気合を込める。俺の両手にスピネルソードが現れる。
紅月がちらりと見る。
紫苑太夫もマンションだけを見ている。あそこに獲物がひそんでいる。
そして、こいつが俺の当面の目標。モネログリーンを連れ戻す際の、最後の難敵。
ほかの二人は? 巫女は花魁に従う。でもかぐや姫は……。
もう一人はデータなし。
戦闘員はエリートが十体……奮発だね。傭兵さんたちみたいで、狭い場所だとちょっと厄介かも。誘い込まれずにまとめて消滅させないと。
……捕獲対象は生身のまま。布理冥尊とフレンドリーではない。建物全体の一般人は十名。目標フロアは無人。上下フロアとも無人。
以上
ならば本部の情報の、彼は精神エナジーのシールドを張っているというのも信ぴょう性が落ちますね。赤と緑、どちらか狩るのをあきらめる必要があるかもしれません。
それより、エリート十体が気になります。周囲が無人なのも。
また、お前は慎重すぎると言われるかもしれないけど
この正義のベテラン女は、どちらもあきらめる気がないらしい。
黒い雲がじっくりと増えていく。
紅月が突入してから三十秒後に、モスガールジャーの二人が突入。伊良賀紗助を確保する。状況により深雪が補助攻撃を仕掛ける。お蘭は外で待機して不測の事態に備える。
ただただエースの力にすべてを委ねる作戦。
紅月が体に力を込める。
かぐや姫が赤い光に包まれて……よさこい娘?
アップにした赤茶の髪。横で結んでリボンみたいな赤いねじり鉢巻き。紅色の袖なし
これが紅月のスーパー魔法少女のひとつか。十二単衣よりはるかに動きやすそうだけど、姫も町娘も関係なくね? でもエロいぞ。こりゃフォローするぞ……。
深雪が、下劣って目で俺を見ていた。とにかく、今はスカシバレッドだ。この子が同性にこんな目をするはずがない。
さあ、お祭りだ。初めてメイクもしっかりやったよ。って感じ。でも眼差しは強いままで、右手のひらを前へと突きだす。
彼女の手から赤い光が一閃する。俺の部屋ほどの半月状の光となり、回転しながらマンションの一室に向かう。
彼女が跳躍する。
紅月の足もとにそのまんま三日月状の紅色の光が現れる。それにサーフィンみたいに乗る。同時に法定速度外で飛んでいく。
半月が一室に飛びこむ。破壊音はここまで聞こえない。詳細も見えない。直後に、お祭り娘のお姫様が突入する。
やっぱりピンクより重い。プラス、スイカ二つ分。
風は横殴りになっていく。
深雪が御幣で二人を祓う。これで数十分、空飛ぶコスプレーヤーは一般人の目に見えないらしい。
スカシバレッドの体はうずきまくっている。でも作戦に従う。道をゆっくりと超える。イエローが18,17とカウントダウンを声にする。
イエローの声が緊張しだす。
外壁を破壊された部屋の中は静かだ。残された壁に貼りついて、バルコニーから突入の機会を待つ。
両手にスピネルソードが現れる。
ウサギの耳を生やした平たい巨大セミの上に女がいた。
同年代。メイクをしていないのに大人じみている。横にラフにまとめた長い黒髪。白い肌。存在をアピールする奥二重。絶妙に肉厚な唇。
美人だ。妖艶という言葉があったよな。なのに服装は、“夏娘♡”とでかでか赤くプリントされた白Tシャツと紺色膝までデニム。サンダル履き。
それより胸は……平均か。藍菜と茜音の中間ぐらい? 脇を掻いている……。
ドアから紺色シャツの眼鏡をかけた男が現れる。
逆に締めつけられる。
男は二十代半ばぐらい。細面でイケメン面だ。薄く笑みを浮かばせて俺を見ている。
……この野郎。スカシバレッドを女を見る目で見ていやがる。
そしてぽつりと言う。
この感覚は……召集されるときの奴だ。
どこかに運ばれる――。