18 ばいばい智太君

文字数 2,949文字

偽のお姫様のマント(覆い)。精霊になれば苦しみから逃れられるのに、彼女は用いるのを耐えた。(おおとり)の精霊と化した彼女に、原理を授ける手筈でしたのに。その姿で永遠に苦しむように
 灰色の空。白い魔女が浮かんでいる。優しい目。温かい眼差し。
……。
……。
あなたは聖なる龍。月に寄り添う守護龍の気配がした。でも、偽りに取りこまれたようですね。あなたは楽園に不要です。

永遠の闇に囚われなさい

 魔女が右手を向けてくる。白い光。正面からなんてスカシバレッドはたやすく避けるけど……、いま死ぬと俺は闇に入場なのか? 原理主義だから? 悪いこと何もしてないのに?


 だとしても、この女を倒す。それで終わりだ。夢月が解放される。

『スカさん、近づいちゃあかんって。距離を開けて戦え。冷静にな。下には、ほむちゃんがいる
 アギトゴールドの声がか細くなる。
うちらは地上に行く。なにも知らないカラスが罠にかかっ
 レアシルバーからの通信が途切れる。圏外か。
……。
 夢月をトリオスに任せるとしても、どのみちスカシバレッドはアウトレンジができない。待ちかまえる魔女のもとへと飛ぶしかない。

弱き姿ままの精霊よ。互いの身を削りましょう。

この空に楽園の結界を築きました。生きて出られるのは一人だけです
ボワッ

 また右手を俺に向けてくる。フレアが飛んでくる。

 スカシバレッドは避けるけど、

ゴツン
 見えない壁に背中が当たる。……嗜虐な魔女とともに空間に閉じこめられた。
ほほほ。くじら雲の具現が、エナジーを照射してきました。そんなものでは楽園は滅びません。あれを浴びた私の傷はすでに癒え、精神エナジーは常に満ち足りています
 百夜目鬼が笑いながら上空へフレアを放つ。その手を俺へと向ける。
……。
“ニコニコ”

 いまだ俺のお姫様は陸で苦しんでいる。飛びたつこともできずに弱い姿のままで。

 この老婆の笑いこそが、俺にどす黒いエナジーを授けてくれる。血の色の力を授けてくれる。

お前を倒せば夢月も解放されるのだな?

 レベルなんて関係ない。

 夢月を守る。柚香にしっかりと謝る。感謝する。できればもう一度抱きしめたい……なんて思わない。ともかくそれまでは生き続ける。

ええ。ただし欲望に呑みこまれたあなたは、その麗しい娘のままですけどね。私の生死に関係なく
“原理を我が身に!”
“原理を我が身に!”
“原理を我が身に!”
『たとえ人に戻れなくても!』とか原理主義が叫んで超越化け物になったよな。それと同じ理屈か。……スカシバレッドのままなら仕方ないや。あきらめがつく。ばいばい相生智太。
ならばあなたを殺すだけね
 現実感皆無のまま、スカシバレッドは不敵に笑う。
ならば遊ぶのはここまでにしましょう。竹生夢月を殺した光を授けます

 魔女が両手を突きだす。

白色光フレア!

須臾(しゅゆ)にして久遠(くおん)――


 俺は刹那に考える。逃げ場なき結界。巨大な光。俺は一秒待たずに消滅する。

 せめて共倒れしてやる。いやしない。だから夢月を思う。


龍になっちゃダメだよ

 柚香の声。なおも柚香を思ってしまった。あの声が無ければ、俺は血の色の龍の姿で原理を授かった。

 だとしてもだとしても、

“智太君……”
……。
 竹生夢月を守るため魔女を憎め。怒りに従え。体に力を込めろ。
 
 

 瞬時に蒸発させる光を浴びながら、鱗が全てを跳ねかえす。結界の内で身体が肥大していく。俺には狭すぎる楽園。

な、なぜ龍になれる? なにを力に?
 閉じこめられた魔女が驚愕の顔をする。そいつを五本の爪でつかむ。魔女が俺へと両手を向ける。
無駄だ!
 俺の声が炎のブレスとなる。白い光を飲みこみ消滅させる。
俺は永遠にこの姿か?
 魔女に問う。その声にもあぶられる。
ひいー。今はまだ食わないでおくれ

 俺の手で悲鳴をあげる。


 雑魚め、質問にも答えられないのか。離脱しようとしやがるから、爪が貫通するほどしっかり握る。

食うはずがない
ぎゃっ
 龍が白い魔女を引きちぎる。
……?
“お兄ちゃん!”
み、見えた……
 

 俺のそれぞれの手の中で、二つになった魔女が微笑みながら消滅する。



 力が一気に抜け去る。おのれの体が縮んでいく。スカシバレッドに戻っていく。

よかった……

 相生智太に戻れたらなおさらいいけど。

 スカシバレッドは林へと落ちていく。

……。
 ……巨大な獅子が見えた。森を燃やしている。化け物だらけだ。

ピシバシ!

スカシバはん、起きてください。えらいことになりました

ピシバシ!

 レアシルバーに頬を往復ビンタされる。
ウウ……?
 太ももに当たる金属が貼りつきそうに冷たい。仰向けに寝ていた。灰色の空から雪が降っている。……ここはサント号の上か。力が入らない。
夢月は?
 ブレスは血の色の炎にならない。覗きこむレアシルバーを燃やさずに済んだ。
あんたは百夜目鬼を倒したのか? 露天風呂の白い光はなくなりました。彼女もいてはりませんでした。離脱したと思いますけど
……。
それよかマントを使ったレオフレイムが興奮して暴走しました。どうにかせんとあきまへん

200越えのレオちゃんがマントを持っていてごっつい獅子になれると、さすがのカラスも知りませんでした。露天風呂に忍びこんできたのをこてんぱんにやっつけましたが、クロハネで逃げられました。

レオちゃんはおっきいライオンのままで蔵王山に向かいました。SNSチェックしましたが、いまのところは目撃情報ありません。なんでいまのうちに意識を取りもどさないとなりません。


ちなみに魔女を倒したですか? 龍にでもなったのですか?

ちょっとだけ考えさせて

 二人へと言う。えーと。いろいろありすぎて考えられない。

 上半身を起こす。鳥肌立ったスカシバレッドの太ももが見える。心に雪月花を思う。着信がいくつもあった。折り返しで柚香へと連絡する。

『いまどこにいるの? さらにフレアを浴びてモスプレイのモニターやセンサーが壊れたから確認できない』
 安堵した声が聞こえた。
タガメ女とクワガタ女といる。生きてはいる
ピク
ピク
 心の中での呼称を声にしてしまい二人がひきつったが仕方ない。それよりも。
夢月は?

『いないの? すぐに夜桜に連絡させる。――司令官!』


 アギトゴールドが俺の肩を叩く。
レオフレイム暴走の件、知らないようなら言うな。俺たちで内密に片付ける
……。
『確認中だって。いまから君を迎えに行く』
まだトリオスと一緒にやることがある。それと――
 俺は龍になった。言う必要はない。
魔女は倒した。レイヴンレッドは逃亡した。また連絡する
『百夜目鬼を? 智太君が?』
 通信を終える。……智太君か。
……。
 穂村のもとに向かう前にもう一つ確認することがある。スカシバレッドは円盤の上で立ちあがる。精霊のくせに息が白い。素肌に張りつく雪が冷たい。雪は体温に溶けていく。精神エナジーが具現した存在であろうと、限りなく人に近い存在。
……。
 俺は変身を解除しようとする。……マジでできない。スカシバレッドのままだ。無意識の癖でティアラの角度を直そうとして、ないことに気づく。俺は心に仮面ネーチャーを思う。端末は現れない。心にマントを思う。夢月の紅いマントも手に現れなかった。現れるのは変身できない雪月花端末だけだ。この子の赤髪に雪がかかるだけだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

相生智太

=スカシバレッド

スカシバレッド

=相生智太

清見涼

=エリーナブルー

エリーナブルー

=清見涼

睦沢陸

=シルクイエロー

シルクイエロー

=睦沢陸

壬生隼斗

=スパローピンク

スパローピンク

=壬生隼斗

夏目藍菜

=与那国三志郎

与那国三志郎

=夏目藍菜

木畠茜音

=アメシロ

アメシロ

=木畠茜音

陸奥柚香

=白滝深雪

白滝深雪

=陸奥柚香

竹生夢月

=紅月照宵

紅月照宵

=竹生夢月

深川蘭

=紫苑大夫

紫苑大夫

=深川蘭

相生桧

=智太の妹(従妹)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色