18 ばいばい智太君
文字数 2,949文字
偽のお姫様のマント。精霊になれば苦しみから逃れられるのに、彼女は用いるのを耐えた。鳳の精霊と化した彼女に、原理を授ける手筈でしたのに。その姿で永遠に苦しむように
灰色の空。白い魔女が浮かんでいる。優しい目。温かい眼差し。
あなたは聖なる龍。月に寄り添う守護龍の気配がした。でも、偽りに取りこまれたようですね。あなたは楽園に不要です。
永遠の闇に囚われなさい
魔女が右手を向けてくる。白い光。正面からなんてスカシバレッドはたやすく避けるけど……、いま死ぬと俺は闇に入場なのか? 原理主義だから? 悪いこと何もしてないのに?
だとしても、この女を倒す。それで終わりだ。夢月が解放される。
『スカさん、近づいちゃあかんって。距離を開けて戦え。冷静にな。下には、ほむちゃんがいる』
『うちらは地上に行く。なにも知らないカラスが罠にかかっ
夢月をトリオスに任せるとしても、どのみちスカシバレッドはアウトレンジができない。待ちかまえる魔女のもとへと飛ぶしかない。
この空に楽園の結界を築きました。生きて出られるのは一人だけです
また右手を俺に向けてくる。フレアが飛んでくる。
スカシバレッドは避けるけど、
見えない壁に背中が当たる。……嗜虐な魔女とともに空間に閉じこめられた。
ほほほ。くじら雲の具現が、エナジーを照射してきました。そんなものでは楽園は滅びません。あれを浴びた私の傷はすでに癒え、精神エナジーは常に満ち足りています
百夜目鬼が笑いながら上空へフレアを放つ。その手を俺へと向ける。
いまだ俺のお姫様は陸で苦しんでいる。飛びたつこともできずに弱い姿のままで。
この老婆の笑いこそが、俺にどす黒いエナジーを授けてくれる。血の色の力を授けてくれる。
レベルなんて関係ない。
夢月を守る。柚香にしっかりと謝る。感謝する。できればもう一度抱きしめたい……なんて思わない。ともかくそれまでは生き続ける。
ええ。ただし欲望に呑みこまれたあなたは、その麗しい娘のままですけどね。私の生死に関係なく
『たとえ人に戻れなくても!』とか原理主義が叫んで超越化け物になったよな。それと同じ理屈か。……スカシバレッドのままなら仕方ないや。あきらめがつく。ばいばい相生智太。
ならば遊ぶのはここまでにしましょう。竹生夢月を殺した光を授けます
須臾にして久遠――
俺は刹那に考える。逃げ場なき結界。巨大な光。俺は一秒待たずに消滅する。
せめて共倒れしてやる。いやしない。だから夢月を思う。
柚香の声。なおも柚香を思ってしまった。あの声が無ければ、俺は血の色の龍の姿で原理を授かった。
だとしてもだとしても、
竹生夢月を守るため魔女を憎め。怒りに従え。体に力を込めろ。
瞬時に蒸発させる光を浴びながら、鱗が全てを跳ねかえす。結界の内で身体が肥大していく。俺には狭すぎる楽園。
閉じこめられた魔女が驚愕の顔をする。そいつを五本の爪でつかむ。魔女が俺へと両手を向ける。
俺の声が炎のブレスとなる。白い光を飲みこみ消滅させる。
俺の手で悲鳴をあげる。
雑魚め、質問にも答えられないのか。離脱しようとしやがるから、爪が貫通するほどしっかり握る。
俺のそれぞれの手の中で、二つになった魔女が微笑みながら消滅する。
力が一気に抜け去る。おのれの体が縮んでいく。スカシバレッドに戻っていく。
相生智太に戻れたらなおさらいいけど。
スカシバレッドは林へと落ちていく。
……巨大な獅子が見えた。森を燃やしている。化け物だらけだ。
ピシバシ!
スカシバはん、起きてください。えらいことになりました
ピシバシ!
太ももに当たる金属が貼りつきそうに冷たい。仰向けに寝ていた。灰色の空から雪が降っている。……ここはサント号の上か。力が入らない。
ブレスは血の色の炎にならない。覗きこむレアシルバーを燃やさずに済んだ。
あんたは百夜目鬼を倒したのか? 露天風呂の白い光はなくなりました。彼女もいてはりませんでした。離脱したと思いますけど
それよかマントを使ったレオフレイムが興奮して暴走しました。どうにかせんとあきまへん
200越えのレオちゃんがマントを持っていてごっつい獅子になれると、さすがのカラスも知りませんでした。露天風呂に忍びこんできたのをこてんぱんにやっつけましたが、クロハネで逃げられました。
レオちゃんはおっきいライオンのままで蔵王山に向かいました。SNSチェックしましたが、いまのところは目撃情報ありません。なんでいまのうちに意識を取りもどさないとなりません。
ちなみに魔女を倒したですか? 龍にでもなったのですか?
二人へと言う。えーと。いろいろありすぎて考えられない。
上半身を起こす。鳥肌立ったスカシバレッドの太ももが見える。心に雪月花を思う。着信がいくつもあった。折り返しで柚香へと連絡する。
『いまどこにいるの? さらにフレアを浴びてモスプレイのモニターやセンサーが壊れたから確認できない』
心の中での呼称を声にしてしまい二人がひきつったが仕方ない。それよりも。
『いないの? すぐに夜桜に連絡させる。――司令官!』
レオフレイム暴走の件、知らないようなら言うな。俺たちで内密に片付ける
魔女は倒した。レイヴンレッドは逃亡した。また連絡する
穂村のもとに向かう前にもう一つ確認することがある。スカシバレッドは円盤の上で立ちあがる。精霊のくせに息が白い。素肌に張りつく雪が冷たい。雪は体温に溶けていく。精神エナジーが具現した存在であろうと、限りなく人に近い存在。
俺は変身を解除しようとする。……マジでできない。スカシバレッドのままだ。無意識の癖でティアラの角度を直そうとして、ないことに気づく。俺は心に仮面ネーチャーを思う。端末は現れない。心にマントを思う。夢月の紅いマントも手に現れなかった。現れるのは変身できない雪月花端末だけだ。この子の赤髪に雪がかかるだけだ。
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