08 ノスタルジックの向こう
文字数 3,044文字
正午に、尾花沢の道の駅で降ろしてもらう。
別れ際に佐藤と錦からとんでもない情報を得てしまった。彼らの裏切りが確定したではないか。藍菜に電話する。
同郷で争わせるなよ。
人の彼女をくそ扱いして電話を切られる。……夢月を留年させるなと、蘭さんから言われている。母親からもお願いされている。なにより危険をさせないでと手を握られた。彼女はぎりぎりまで呼ばない。もはや関西の三人セットのが強いかもしれないし……。
トリオスは九州をほぼ奪還した。アギトゴールドの『お金に羽根を生やす』というよく分からない逃亡専用技で、百夜目鬼と二度遭遇しても生き延びたらしい。出身地方で峻烈な戦いを繰り広げたレオフレイムは、レベルが211まで伸びた。タガメ女とクワガタ女も180前後になった。俺はあの二人よりずいぶん弱くなってしまったが、落ちぶれたなどと思わない。
ハデスブラックに一人でとどめを刺した深雪は、レベル198になった。俺が身を挺したのにとも思わない。仮面ネーチャーもリベンジグレイだって戦いで身を削った。俺も彼らと並ぶ男とだけ考える。
南極トビーはどうでもいいが、シルクイエローが来るのならば、キラメキグリーンと三人でスパイラルレインボーをだせる。えげつない特殊攻撃だらけのハウンドピンク一人のがチーム力は上がるけど、俺の自業自得だから仕方ない。
彼女たちは単体敵リスクのなんたらの話をしているみたいだが、セイントアローとは柚香の先輩である野原宏。それよりも。
以前聞いたときは十八人だったはずだ。
そう言って湖佳が女子トイレに入る。
ならば心強い…………
髪を刈りこんだガラの悪そうなオヤジが女子トイレからでてきた。これはダメだろ。
正義の心を発動させまくるオヤジへと聞く。
俺はうなずく。
三人はラーメンやそばを食べた後にタクシーを呼ぶ。
女装姿の陸さんに教えてもらう。自慢のつるつるした腕は、晩秋の東北ではさすがにさらさない。
健全でない岩飛が言うが、もっともだ。
はた目に謎っぽい組み合わせの五人。義理の父に変げした湖佳の運転で、3ナンバーのワンボックスカーは冬枯れ始めた山麓を進む。
隼斗は試合だから夜までは召集されない。芹澤は正規の転生が許されたので、黒いマントを没収した。彼女はキラメキグリーンで戦わせる。アラームが鳴ったので目薬をさす。
俺の第一声。完全に観光地でないか。テレビの旅番組でも見た覚えある。それでいて泡々温泉同様に山あいに閉ざされている。駐車場は満タンだし、
路上駐車のベンツに湖佳がクラクション鳴らしまくるし。
運転手が怒鳴りこんでくるし。
陸さんを見て車を移動させたけど。
ベンツに代わって路駐したオヤジ姿の湖佳に尋ねる。
風に導かれるまま四人は温泉街に入る。
……女装の陸さんが極めて目立つ。観光客はレトロな建物よりも俺たちに注目している。
『昼は蝶』の三人はそれでも物見客の真似を続ける。なんだか仲良しで俺はまた空気。
風が教えてくれる。布理冥尊か星空義侠団か。どちらにしてもここで騒ぎは起こさないだろう。すぐに温泉街を抜けて、滝を過ぎる。観光客もいなくなる。未舗装の脇道に入る。
鉄柵の前にそいつらはいた。
柵の向こうからも声がした。
さらに男が二人現れた。五十ぐらいの地元民丸出し親父と、俺と同年代の格好いい男。そいつは見覚えがある。その時は金色の鎧をまとっていた。
野原宏が俺に言う。
その手に金色の端末が現れる。隣の親父の手に黒いマントが現れる。
みんなへと叫ぶ。俺の手に仮面ネーチャーの端末が現れる。白い渦も現れる。
赤い光と金色の光。スカシバレッドとセイントアローが現れる。
雑魚敵をなぎ倒すために、正義の赤い光をだす。
まばゆいまでの金色の光に、スカシバレッドの光は飲み込まれる。
俺も思わず目を腕で覆う。再び開けると。
巨大なペンギンだけが立ちすくんでいた。
セイントアローの横で、人の顔をしたダチョウが笑う。
※2021年初稿。
上島竜兵さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。