19 バトルオブボンチ
文字数 3,587文字
司令官に背後で言われて我に返る。十回以上ボタンを押して惰性になっていた。夢月からのメッセージを思いだしたりしてしまった。
そもそも一度も二人きりで会っていないし、笑いながら殺すと書かれても困るし。どういう手段を使ったにしろ、流行りだしたてのSNSアプリを人のスマホに勝手に入れないで欲しい。パスワードもないのに立ち上がったからか、バグを起こして俺から送信できないし。本体の挙動も不安定になったし。
彼女の自撮りが送られて嬉しいと思ったら、盛りすぎで劣化しているし。というか加工の必要ないのに。
そもそも……俺から欺瞞の魅力が消えて並以下の男になったことを知っているのだろうか。
バイト先の意地悪な女先輩を思いださせる、アメシロの俺専用の低いトーン。
まだボタンをぽんぽん押していた。
傭兵たちが戦士の目になった。慣れた動作でパラシュートを背負う(彼らに飛行タイプはいない。飛べるのは稀少な特性らしい)。
一人が俺を見る。
これは戦場の法則みたいなものだが、うまく行き過ぎる時こそ何か起きる。あんたらはヘリで待機していいぜ。ポイントの取り分を増やせなんて言わないからさ
不敵に笑ってみせる。
同時にハッチから強風が吹きこむ。フジヤマの高さだけあって凍える暴風だ。むき出しの手足が痛い。どうせすぐに慣れる。
イエローとピンクの背中にもリュックサックが現れる。
ブルーへと声かける。
飛べない奴らを援護するために、真っ先に空へと身を投じる。
眼下に黒玉に宝石を散りばめたような盆地が広がる。
地面に着くなりブルーに怒られる。たしかに即死するところだった。
上空から銃弾と矢をばらまきまくったが、反撃はなかった。クレーターの縁でパラシュート降下する本隊を待つ。
ブルーは二人きりになるのを待っていたかのようだ。
病室で会ってから、次に顔を見たときにどう感じるかと思った。頼るべき仲間としか感じなかった。俺にとっては、清見さんが仮の姿でうら若き女教授のようなエリーナブルーこそが本物だ。
こんな裏稼業をしているから、私は特定の女性と付き合っていない。下品な言い方をすれば、とっかえひっかえだ。同じ女性と二度も行為に及んでいない。最近はそんな気も起きないがな。
お前も恥じることなく報酬の恩恵を受けいれろ。そしてスカシバレッドに強くなってもらいたい。花などにやられないほどにな
そりゃあなたは何もなくても不特定多数の女性が寄ってきそうですけどね。だいたい俺なんか一度も行為に及んでいないし……。
なんとなく分かってきている。俺は欺瞞の力に頼らずに、限られた人とロマンティックな関係になりたいみたいだ。それでいてピュアだから、特定の相手以外と深い関係になりたくない。
その相手は、絶対に無理だけどスカシバレッド。そして竹生夢月。最近ではその二人を上回る勢いで陸奥柚香も……。まったく特定していないな。
とか考えているうちに、みんなが降ってきた。男たちはけっこうな勢いで地面を揺らすが、イエローとピンクのパラシュートはタンポポの綿毛のように着地した。
敵からの反撃はなく、なんなく拠点を制圧する。
二隊に別れてクレーターの縁を回る。反対側で合流しても、戦闘員も異形の幹部も現れなかった。
だけどミッションクリアにならない。
モスウォッチが不吉なことを言うので、十二人はクレーターの底を見る。……これぞ地獄の門だ。巨大な蟻地獄。
一人が照明弾を下へと打ちこむ。人工建造物が照らしだされた。
あの子だったら、覚悟の目でそう言うに決まっている。
彼らの上に浮かんで援護する。真剣な男たちは俺のスカートを覗こうともしない。
反撃がまったくないのが逆に不安にさせる。
正体不明の金属でできた黒光りする建造物は、地表に顔をだしている部分から推測する限り巨大コンテナみたいだ。テニスができるぐらいのサイズだなと、傭兵が表現していた。
隅に扉があった。ぴくりともしない。
こいつはお婆ちゃん子だったのだろう。言葉以上に目が死ぬ気で援護すると言っている。そしてこいつは何度か死を経験しているのだろう。こいつに限らず。そうでなければ歴戦の猛者どもがレベルが25前後でおさまるはずがない。
つまりは馬鹿野郎どものチームだ。
だから強い目で男たちに聞く。
アイルランド人が底に降りたつ。二人に援護されながら爆薬をセットする。
三人はアイルランド人に指示され遮蔽物を選ぶ。俺は彼と岩の窪みに伏せる。耳栓を渡される。目をつぶれと言われる。
この四人以外はクレーターの外へ退避している。
マスクとゴーグルが顔に現れる。耳栓の上にヘッドホンが現れる。
そして、今までの精密で隠密な破壊活動が瞬時に無意味になる爆音と光が、蟻地獄の中をかき乱す。
煙と埃がおさまっていく。扉は破壊されていた。真のゲートオブヘルが口を開けた。
アイルランド人の手に手りゅう弾が現れる。奇跡的コントロールで地獄へと放る。
再度の爆音。
俺の手にソードが現れる。
地獄へと突入する。
……でも、そこは物質的天国だった。