12 真夏の深夜の夢
文字数 2,941文字
バシャ!
水をかけられる。
花びらのマーキングが消えたらね。転生した姿だけ追跡するつもりが、とんだ掘り出し物を捕らえたな。
コールドレッド聞こえているか?
お前を捕らえたことを、まだ本宮に伝えてない。……黒岩さんの耳に入れたくない。だから情報を速やかに教えろ。そしたら処遇は焼石と相談する。
知りたいことは、お前の素性。雪月花の正体。仮面ネーチャーの正体。それとお前たちの司令官の居場所。そして、なによりテロリスト本部の所在。
お前たちと同様に、我々布理冥尊も捕虜にやさしく接する。十五歳未満の女子二人には刺激が強すぎるので退席して待つ。早めに喋るのが身のためだ。
ベージュのシャツにデニムの
扉が閉められる。
180センチぐらい。喧嘩慣れしているな。武器は、金属バットと銃刀法違反でゆるされないレベルの凶悪なアーミーナイフ。奥歯をしっかり抜けそうなベンチ。ガスバーナー。それぞれがむき出しのコンクリートに転がっている。でも銃はなさげ。
カチコミした時の記憶だと、戦闘員は筋骨隆々になるために、全身タイツに着替えないとならない。けっこう待たされた。……飛び道具が無いのなら助かるかも。縄さえはずせたら。
単刀直入に頼んでみる。
頬にパンチを受ける。じっくりじゃなく普通に痛いぞ。
椅子ごと転がされる。俺の頭を踏みながら腹に巻かれた縄をナイフで切る。二人がかりで押さえられて、後ろ手に縛った縄も切る。
馬鹿め。
うつ伏せのまま、頭を押さえている金髪のむき出しの喉首に手刀を入れる。
決まりすぎた。喉を抑えてうずくまる。ナイフを奪う――より先に。
背筋の瞬発力。すなわちえび反りの頭突き。
ハゲがコンクリートに転がる。俺は立ちあがる。
金髪はまだ首を押さえていた。
俺は喧嘩が強い。さすがに中学生で大人八人の金玉を踏み潰すのは無理だけど、高校生四人をのしたことはある。そのリーダーは俺への復讐のため格闘技の道に入り、気づいたら大晦日の生放送番組で試合をするほどになっていた。知り合いをテレビで観て感動した。そんな有名人が春先に私的にストリートファイトの再戦を申し込んできた。
リスペクトして紳士的に戦おうと思ったら、途中からレフリー役のマネージャー(こいつもゴリラ体形)がバールを持って共闘しだした。なので二度と関われないぐらいに痛めつけておいた。
それくらいには強い。
俺は周囲を見回す。朱黒のコスチューム二着……。バーナーで焼く。窓は、二階ぐらいの高さだし鉄板が焼きつけてある。ハゲと金髪の頭をもう一度蹴ってから、金属バットを拾う。
深呼吸をしてドアを開けて外にでる。誰もいない。
お約束の倉庫街。夕立の水たまりがまだ残っていた。
街灯の下に黒色のワンボックスカー。運転席から女の子が降りてくる……。
コミケが似合いそうな、眼鏡をかけて後ろに髪を結んだ女の子が平然と歩いてくる。
こいつが押部諭湖。はったりでなければスカシバレッドより高いレベル。その手に黒いマントが現れる。
そういうことか……。家に帰れない。広尾にも江東区の二億ションにも逃げこめない。
カランカランと、バットを落とした音が倉庫街に吸われていく。両手をあげて降参した振りをする。女子中学生でも仕方ない。変身されるまえに手荒に扱わせてもらう。あとはひたすら立ち止まらずに逃げ続ける。