お前たちは終わりだよ。最後に残った奴を喰う。
ホワッホワッ
前線の二人の美女が座りこむ。
地面への放電だ。離れた俺まで痺れる。生身だし、うまくないぞ……。
俺に抱きついたまま、またもやお祭り娘が現れる。こいつは電気が平気なのか? というか胸もとが開きすぎで……インナー着てないから……。
貞操シールドが発動した! 智太君がそんな目で私を見るなんて……。私も大好きです!
紅月。それだとレオフレイムと同じだよ。ちゃんと守れないならばバトンタッチして
空に避難した深雪は怒りを越えて呆れている。
彼女とハイエナの直線上に、レインホワイトも緊張した顔で浮かぶ。デビュー戦が化け物相手――
奴の狙いは、他を巻き込まぬ電撃。二人とも黒焦げに……。
ナマズラーガは紅月を睨むだけだった。
……西新宿の空気がよどんだ。フェンスになおも残っていたドバトが慌てて去っていく。
でも紅月は深雪を睨んでいた。
いつもいつも私と智太君を……。最初の出会いから……。
柚香もあの女に襲われて声を三度も漏らしたんだよ。智太君に言わないでって言われたけど言っちゃった
…………この姿になろうと、まだ、全然、及ばないのか。
なんて奴だ
何かをしようとして何も起こせなかったナマズラーガに絶望が浮かんだ。
貞操シールドを壊しちゃいました。
布理冥尊をみんな倒したら、精神エナジーでよろしければ好きにしてください。
スーパームーンのままならば生理がないから、に、妊娠の心配ないし
痴女め! 馬鹿女め! 大馬鹿女め!
相生智太が穢れる、離れろ!
たとえ大司祭長がお望みであろうが、悪しきお前など、我々の誰も受けいれない! 知能指数五歳児のお前など、迷惑なだけだ! 原理主義に喰われて消えろ! そもそもお前も原理主義か? 違うな。本能だけで生きている三歳児だ!
結界に包まれた屋上が荒野となる幻覚が見えた。向かいの高層ビルに巣食っていたハヤブサさえも飛んでいく。
紅月照宵が立ちあがる。正義でなき怒りのオーラ……。
こ、ここはメインランド不夜城区のビジネスサイドだ。テロリストは一般人を巻き添えにしないがモットーだよな
巨大化したナマズラーガが怯えだす。
紅月照宵は聞いていない。
ナマズラーガに体を向ける。両手で頭上に円を描く。
ジャンボ機ほどもある紅い光が一点に集中し去っていく。
西新宿の空を飛んでいく。
光が去った屋上に、しぼんだナマズラーガが立っていた。
しつこい!
十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜!
離れた都庁から煙があがっている。さらに五つ紅い光が飛びこんでいく……。
ハイエナが……、最強のはずのハンターが……。パック逃げるよ!
紅色の巨大な光がアフガンハウンドとアナグマを包む。屋上出入り口の四角いコンクリートの建物が吹っ飛ぶ。
俺は叫ぶだけ。
動物の姿をした女子中学生布理冥尊たちへと駆けだしたいけど、生身の俺では人質になるだけだ。
お前たちのせいで紅月が……。今度は私の番だ。清め賜へ、囲み賜へ
アフガンハウンドは与謝倉凪奈の姿に戻る。手には桜の枝。
彼女の足もとに黒い穴がひろがる。
レインホワイトが発する白い光が穴の闇をふさぐ。与謝倉たちは降りられない。
お前はみずから時空移動できなかったな。追うのは得意でも逃げるのは下手。
スーパームーン、五秒だけ待ってあげて。――その間に降伏しろ。はやく終わらせたい
ふふふ。強制解除の術だ。雪はアジトに生身で戻された。追跡してや――
深雪は瞬時に戻ってくる。いまだスクランブルモード。……桜散れ。傭兵が言っていた奴だ。この技は危険。一対一だと逃れられないかも。
あなたの声は優しすぎて、昂った奴らの耳に届きません。
私が彼女たちを口説く言葉を教えます。あなたはその通りに――!
タヌキめ智太君を惑わすな! 五秒過ぎたぞ。二十六夜!
鎌のような紅い光が、俺のまわりを乱舞する。四方から中空に突き刺さっていく。
穴熊パックが俺の足もとに落ちて姿を現しても、なおも紅色の鎌が襲う。
切り裂かれて茶色い雑巾みたいなアナグマが痙攣しだす。
湖佳!
耐えて! 死んだら原理主義の餌になるんだよ
千由奈……。あ、あなたと組めて、ああ至高でした
まじかよ……。押部諭湖である精霊が消滅しやがった。
……紅蓮の炎。すぐに掻き消せ。
俺に夢月への怒りなど毛頭もない。湧きあがるはずないから消せ。それより気づけ、俺。
餌だと?
仲間に。
うずくまる布理冥尊に尋ねてしまう。
与謝倉は唇を噛み、すぐに立ちあがる。
精霊の力を失いレベル100以下になったものは、力足りぬ原理主義どもに生身を捧げる。
聖戦のために手段を選ばぬ愚かな者どもと笑え! 貴様らがそこまで追いつめた
与謝倉凪奈……、本名は千由奈か。散りたいならば犬の姿になれ。
都庁の件は貴様らの仕業だ。責任をとってもらう
シャリーン
それでも与謝倉は俺のもとへと歩く。
サイレンが聞こえる。どうでもいい。
その姿を傷つけるのは辛い。犬でも同じだけど……。お前のボーナスポイントは焼石嶺真に次ぐんだよ。ハデスブラック以上のお尋ね者。
……月。あり得ないよ
レインホワイトも屋上に降りる。蒼白な顔のまま。
ハトだけが能天気に屋上へ戻ってくる。早くもヘリコプターが飛んでいる。こっちになどカメラを向けるはずない。
そんなことはどうでもいい。
誰も死んでないよね?
……柚香が言うとおり、お前たちのせいだ。降参しろ。
それが嫌なら、柚……深雪とアメシロちゃんが見なくて済むように、私が消滅させる。
一瞬で。完全に。苦しませもせず
布理冥尊への怒り。正義の怒り。……夢月への怒りをこらえる。
竹生夢月なんかよりも、忘れかけていたけど、このピンクのリボンの女の子こそ九州管轄壊滅の主犯。罪もない家族もこいつのせいで。傭兵の生き残りを生身のまま……。
どうだっていいだろ!
俺は与謝倉に言葉を伝えたい。喉まで来ているのに……、声に出来ない。
ぽつりとした声。穴熊パックが消えた地面にホールができる。
与謝倉の体がアフガンハウンドになる。
気品ある犬がホールへ飛びこむ――。
ハウンドピンクに抱きつく。その陰影のように貼りつく。五本の爪でしがみつく。
蹴り返してしまう。
俺はピンク色のアフガンハウンドとともに、時空に飲みこまれる。
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