37 寛容な不寛容
文字数 3,565文字
アメシロが各自のモスウォッチへと告げる。ピーナッツランドの白浜の荒れた畑での戦い。さすがに海沿いの集落が近すぎる。
モスプレイは高度千八百メートルで静止する。三浦半島が見えた。大島も。
操縦席でスパローピンクが無線で伝える。この子は結局エリーナブルーが抱えてきた。前線で戦う仲間たちは、戦地では、与那国司令官よりヤマユレッドの言葉に従う。
ヤマユレッドもモスプレイに戻ってきた。妖艶で知的な瞳。露出の少ないコスチューム。燃えるような赤髪。
モネログリーンが明るく笑う。緑色のショートヘア。若草の香り。
アメシロは不機嫌な与那国司令官の肩から告げる。
メンバーから不満げな空気が漂う。
ヤマユレッドの声が強く変わる。
与那国司令官は操縦席へ立ち去ろうとする。
アメシロは司令官の肩から飛ぶ。ヤマユレッドの頭に乗る。その横でモネログリーンが消える。
与那国司令官が端末をポケットにしまう。
ヤマユレッドがベンチシートに腰かけて言う。
アメシロが二人の間から、司令官を見上げる。
司令官が黙りこむ。なにかを考えだす。すぐに嫌味な笑みを浮かべる。
ヤマユレッドが真っ赤な顔で立ちあがる。
その手にルビーソードが現れる。
アメシロは冷静に努める。初めてのレインホワイトへの変身。それを彼女へとしたくない。
ヤマユレッドの手からルビーソードは消える。
ヤマユレッドがうつむく。
アメシロは自分がオウムなのが悔しい。笑いかけられない。
モスプレイの中の静寂は二十秒。
与那国司令官が端末のボタンを押す。ヤマユレッドが顔をおろしたままで消えていく。
アメシロも消えていく。
二日後、授業中の木畠から夏目に連絡が届く。
私は向こうに会ってみる。
殺されるかもしれない。そうだとしても、そうしないと納得できない。でもね、話を聞いてくれる気がするんだ。
こんな私に話してくれるかもしれない。いままで倒してきた人たちの言動から、そんな予感がする。
夏目藍菜が照れ隠しで人を傷つける言葉を吐くのは分かっている。すべての責任を自分が背負うためにね。
でも、やっぱり逃げているだけ。道化になって甘えているだけ。いずれ追いつめられる。結局みんなが犠牲になる。精神エナジーだけでなく、心にこそ耐えきれぬダメージを受けるかも。
そんなの見たくない。
もし私が生き延びられるのなら、交換に司令官の素性だけを渡す。そうすれば、誰もがリスクを抱えて戦っていることに気づいてもらえると思う。
茜音っちは大好きだった。お母さんより優しかったよ