16 赤い二人だけのアイランド
文字数 2,889文字
さらに冷静になれば、背筋が凍えるほどに気づく。昨日のスケール感さえ分からぬ怪物は、エアサーフィンするかぐや姫から尻尾を巻いて逃げた。
つまり、ハデスブラックと果たし合いをするほうが、まだ勝てる可能性がある。いや絶対に勝てない。つまり、こいつにも。
スカシバレッドの写真は、司令官がデータを残してあるはずだ(ポーズがよいから加工して云々と言っていた)。
柚香の写真は残念だけど、蘭さんが彼女を好きにしていいみたいに言っていた。柚香どころか巫女も黒神子も撮り放題だ。しかも、あんなポーズやこんなポーズで……。
ならば悲しむ必要はない。命を大事にしないと。
俺の声は風に流される。彼女の腰から手を離し、飛んで逃げるべきかも。
とかしていると海原にでて、ミカヅキは音速にギアを上げる。羽田を発ったジェット機を追い越したから、あれより随分早いのだろう。瞬時に通りすぎたのは大島だよな? ここから海上を飛んで帰るのは、スカシバレッドでも疲れて遭難する。
ミカヅキが速度を緩める。前方にいくつか島が見えた。
そびえ立つ岩山だけでできた、狭くて傾斜のきつい浜。とても裸足で歩けない礫岩のビーチ。転ばされただけで全身を裂傷しそうだ。
某国の極秘施設がありそうな、都心に近いこの世の果てだけど、海鳥が賑やかだ。赤い二人を観察しながら飛んでいる。糞を落とすし。
紅月の叫びに鳥が驚き逃げていく。やる気満々のお祭り娘が現れた。
俺をにらみ歌いだす。
私こそが真打ちの、竹に生まれ月を夢見る紅月照宵。
王子様が現れるまで、おのれの
なんならお肌を見せてやろか? どうせ貴様ら紅い光で消滅だしな。
おいおい布理冥尊、いつまでうっとり聞いている?
写真も諦めるから、ここから早く帰りたい。
遠い汽笛が聞こえる。俺の発言に彼女は怪訝な顔になる。しばらく考えて。
その論法だと俺との話し合いだけで、赤い女同士の果たし合いは必要なくね?
……ジジイって碧菜だよな。司令官は影でくそくそ言うだけで、ふたつ返事で従うよな。メンバーの一部は、僕も私もと歓迎するよな。
自分で言うのもなんだけど、締まりのない本当の顔よりスカシバレッドで華麗に戦いたい。だから。
直撃は避けたけど充分にライフを削られたスカシバレッドが、海に浮かびながら両手をあげる。
これが司令官が教えてくれたチートって奴か。今まで経験してきたものと違う次元の戦い。
ミカヅキに乗ったお祭り娘が俺を見おろす。
さっきも言ったと思うけど。
光の十字が霧散する……。
……十五夜とは、島一つを消滅させると噂される、彼女の最強魔法。海鳥に感謝すべきなのか?
竹生夢月の動きがとまる。
須臾にして久遠。
彼女の大きな目から涙が転がり落ちる。
お祭り娘がかぐや姫に戻る。ミカヅキからダイブする。