08 精霊な少女たち
文字数 3,820文字
反論できなかった。でも本当に危険だ。藍菜は忘れている。もしくは逃避している。思いつくだけで二点。
『ハウンドピンクは所属していた組織と戦えないと号泣しました。やっぱり中学生の女の子でしたね。でも私がやんわりじっくり説得しますので、しばらく預けてくださいよ。そのための落窪さんもいますし。
と伝えた。たぶん大丈夫』
それならば、おそらく大丈夫なのだろう。でももう一点ある。
彼女の性格からして、受け入れる可能性は低い。関係者を抹殺する可能性のが高い。
その二人のが正しいと思うけど……、清見さんがいたらどうしていただろう。
電話切るんじゃねーよ! かけなおしてもつながらないし……。
妹を守るため、生身で月明かりを発する女に連絡する。
名称の使用に関する議案にたどり着く前に決裂した。
……電話が切れた。彼女はバイクかミカヅキでここに現れる。
岩飛の部屋を開ける。湖佳と岩飛が黒いビキニ姿になっていた。
紙袋を持って、俺と入れ替わりに部屋をでる。
安堵したようながっかりしたような。
本宮で俺が着たエリート戦闘員のコスチュームか……。
中学生相手でも怒鳴っていい。エリートと言っても所詮は雑魚。一人だけそんな格好をさせられない。
笑われていたのは初耳だし、伸び悩みでなく蘭さんに殺されたからだし、この子の俺を見る目が五人衆の頃のようだし……。
形見と言っても、兄はきっと生きている。
兄は幹部目前のレベルだったが、傭兵たちに敗れてハイグレードに落ちた。本宮が入信したての私に気をつかい、返り咲くまでとあの服を私に預けてくれた。
……次の戦いで兄は死を恐れ、傭兵たちの捕虜になった。以後の消息は知らない。夏目司令官が問いあわせると言ってくれたが、きっと元気に生きている
聞きたくなかった話。だとしても、スカシバレッドは戦い続ける。布理冥尊を抹殺し続ける。
つなぎのデニムの私服姿に戻った湖佳が言うが、また天井に穴を開けられる。
あれだ。知恵が足りぬ者云々だ。
湖佳がにやりと笑う。……ささやかにでも殺された復讐を待ち望む顔。
桧が私服のままで戻ってきた。
三十分後、家の前にバイクが停まる。紅い袴の女剣士が乗っていた。魔法でヘルメットを消す。
夢月の感が断言するならば問題ない。……おでこの形もきれいだよな。前髪が薄いと凛とした顔立ちが更に……見惚れている場合ではない。
千由奈は薄情を言っていたが、多少なりとも妹にリスクがかかる。
その手に早くもルビーソードが現れる。
肩をつかんだ手を、人とは思えぬ力ではらいのけられる……。これ以上の刺激は危険。
救いは池袋線沿線の住宅密集地であること。月明かりさえだされなければ、スカシバレッドに変身すれば太刀打ちできる。西新宿で十三夜を十発撃っているけど。川口駅では十五夜をだしたらしいけど。
勇気ある岩飛が庭から呼ぶ。女剣士がずんずんと向かう。俺は心にネーチャーの端末を思う。背後から奇襲のスタンバイ。岩飛も傷つかせない。話を聞かない夢月が悪い。
庭に寝転がった南極トビーへと、胸の前で両手を振っていた。
知恵が足りなすぎないか?
食堂のテーブルで、さきほどの残りのオレンジジュースを飲みながら夢月が言う。野生の感を発揮して、湖佳のいれたお茶に手をつけない。
さすが夢月。十代半ばの少女たちを瞬時に妥協させた。知的所有権も事前に確認できてよかった。でも。
想定外なことを言いだした。
千由奈が首を横に振る。
でも、夢月の手にピンク色のマントが現れる。
マントは千由奈の頭上にびゅんと戻り、彼女をふわっと包む。
夢月が立ちあがり、黒いマントを体にかける……。
赤色のスクール水着姿になった!
精霊になるつもりかよ。……夢月の体形と胸の大きさこそスク水にふさわしいと思うけど、そんなこと関係なくおそらく鳳凰。体育館レベルだった龍と対。家が破壊される。
余計なアドバイスを……。
夢月が体に力を込める。その体が紅色に包まれて……、
柴犬ほどのショッキングレッドのヒヨコと化す。
フローリングからピーピー騒ぐ。ヒヨコのくせに浮かびあがるし。
指さして笑いたいのを必死に耐える千由奈こそかわいらしいけど。
いまだ鳳雛。