09 デビュー戦のセコンド
文字数 3,470文字
ハウンドがマジで怯えている。
戦闘員の姿でも規格外。紅月の本当のレベルはどれくらいあるのだ。
夢月が脱いだコスチュームを桧が受けとる。丁寧に折りたたむ……。夢月でも戦闘員になると没個性だった。どこも赤くならなかったし。というか、乱戦になったら敵と桧の区別がつかないのではないか?
洗面所で着替えた夢月は顔がまだ紅潮している。トップレベルにかわいい年下の女の子二人といても、それでも肌や髪が一番つややか。目もあどけない……けど。
“魔法少女花とゆめ”の時代か。柚香がまだ秋田にいた頃の話。
湖佳たちから色々聞かされたのだろう、絶対的存在の不寛容なコメントを聞かされても、妹は歯を食いしばるだけだ。評価は柚香と逆転しただろうけど。
湖佳が千由奈に聞くけど、彼女の前でその人の名前は、コーラを激しく振るようなものだ。
紅いスクール水着姿になる。体に力を込めて、ヒヨコになろうとしてやめる。
メインランド大根区などという、地元民の心を逆なでする呼称。そこを統括するアジトが我が家から頑張れば歩いていける距離にあり、今まで放置されていたとは。
某駅から徒歩十分にある築昭和のアパートに偽装されたアジトを、スカシバレッドは道向かいのビルから見おろす。街灯。カレーの匂い。唐揚げの匂い。子どもの笑い声。
住宅密集地での戦い。時間も八時過ぎとまだ早い。花鳥風樹のデビュー戦としては緻密さが求められる戦い。
桧が心配。お兄ちゃんは当然チームに付き従う。何かあれば即座に加担する。リーダー兼エースである千由奈も文句を言わなかった。
人の庭でスク水姿で月明かりをだしやがった。テントをずたずたにされた。今夜はどこに寝よう。
彼女も忙しい夕食を一緒に済ました。ウナギをおいしそうに頬張った笑顔――。
でも、藍菜とハウンドとパックが関与したチームを、正義の心が許せないらしい。なので、監視のためについてきている。
むき出しの太ももとかは、十月の夜でも平気だそうだ。スカシバレッドは露出した肌が寒い。両手で二の腕をこすってしまう。みんなが出動したら解除しよう。
スカシバレッドは強く頷き返す。
つまりかぐや姫の姿より上位?
模擬戦しようとか言いださないだろうな。戦わない彼女は邪魔なだけだ。区営プールにでも忍びこめばいいのに。もちろんスカシバレッドの姿で口にはしない。
穴熊パックが人の姿に戻る。桧であるエリートと岩飛と一緒に非常階段を降りる。じきに表の道に現れるのを、俺とハウンドは緊張した顔で見送る。
南極トビーとエリート戦闘員が裏切り者の穴熊パックを確保して、練馬区にあるアジトに連行。幹部のどちらかはパックを喰おうとする。それを見極めて、元五人衆であるハウンドピンクが突入して、そいつだけを倒す。
抵抗されたら他の者もだけど、最初から闇雲になどしないそうだ。
狭い路地を塾帰りの子どもの自転車がベルを鳴らしながら過ぎる。お年寄りの夫婦がゆっくりと過ぎ去る。
春日との戦いで、桧が柚香と変身しかけたことは黙っておいた。千由奈たちと違う手順で変身させても疎外感がでそうだし、俺と抱き合って変身するのもさすがに……。本宮で俺が千由奈とともに変身したように、彼女たちも俺たちと抱き合えば変身できるかも。その時はどんな姿になる……。げっ、岩飛もか。奴は悪すぎないけど善ではない。夢月が善すぎないけど悪でないように。
悪でないはずの紅月はつまらなそうだ。北区に行って荒川を泳いでいてほしい。スカと目が合ってもにっこりしてくれないし――。
模擬戦。彼女の元布理冥尊への態度を見せつけられると、とても落窪さんと組めない。藍菜の用心棒というだけで、トリオスより先にリベンジグレイを倒しそうだ。かと言って誰と組む。仮面の二人も一人だとレベルがあれだし、モスに至ってはいずれも100以下…………