29 裏切り者たちの挽歌
文字数 2,071文字
さらには桜の花びらが散った。
パネルの向こうでハウンドピンクがなおも告げる。
ラピスのハモり声と中学生女子の邪悪な声。
離脱に関しては現代の名工レベルであるウィローブルーが、あっけなく追い込まれた。
夜桜以上のA級戦犯である私を、親衛隊隊長と戦わせようとした。勝てるはずがない。あの方が許してくれる可能性のがまだある。それに賭けるのは当然だろ?
テロリストがここまで下劣で非道と見抜けなかった私こそが愚かだがな
ほざこうが、勝ち馬に乗ろうとしただけ。その報いだ。
ウィローブルーよ、お前こそ強い。だが覚悟が無かった。なぜ私に頼らなかった? 涙して頼らなかった?
お前が心から正義のために尽くすと私に伝えたなら、私は我が身に代えてでも、あの方に伝えた
十月の風が吹く。満月は頂点を越した。
夜が絶望に閉ざされた。
土中から爆発。中井町を埋め尽くす四万枚近いソーラーパネルの一角が吹っ飛ぶ。黒いガラス状の破片が満月に照らされる。巨大な黒い筍 のごとき牙がにょきにょき生えてくる。
いくつもの巨大な牙に突き刺されたネンドクンが消滅する。
スカシバレッドが空から放つXは闇に飲み込まれる。
仮面ネーチャーラピスの瑠璃色の光線が跳ねかえされる。
下の名で呼んだ? それどころではない。
リベンジグレイが叫ぶ。彼女は迫りくる牙をソードで次々と切断する。
でも牙は幾重にも生えてくる。
頭に亀の甲羅が当たった。以前と違い、とげが生えている。突き刺さった。
亀も毒蛇も絶望の結界の中を飛びまわっている。北を守る四神獣である玄武の特性。
俺からあふれでる正義の赤い光に邪悪な爬虫類どもが消滅する。
消えた先から湧き出てくる。
スパローピンクたちを乗せたコノハがリベンジグレイの上に浮いていた。
寄ってきた毒蛇たちを消し去る。この技だけでも身が削られる。スカシバレッドも彼らへと合流する。
高校生の男の子が浮かんでいた。
無謀を口にする。
ハウンドピンクが身震いした。歯ぎしりも聞こえた。
生身の蒼柳が現れる。
蒼柳である人が泣きながら震えながら両手を合わせる。
千由奈であるハウンドピンクは顔を背けるけど、
隼斗であるスパローピンクは目をはずさなかった。リベンジグレイも。スカシバレッドも。
巨大な黒い悪魔が土の中から顔をだす。上半身を晒して、人をつまみあげる。口をひろげる。
咀嚼音。蒼柳の悲鳴は一瞬だった。
本当の人が食われるのを見て思う。
焦燥に包まれながらただただ夢月を思う。彼女はどうなった?