07 黄昏林道
文字数 2,739文字
白い渦が見えたら、おなかに力を入れて踏んばってください。そしたら転生しても意識を失いません
甘ったるい声で諭される。胸を押し当てられて立ちあがらせられる。
ここはどこだ? 東京と違い重い雲が覆っている。それでもまだ日が落ちない山の中。
意識なきまま未舗装の林道に座りこんでいたようだ。
俺はまず自分の指を見る。
赤いマニキュア。俺好みじゃないけど彼女にはきっと似合う。その指で頬をさする。
俺はスカシバレッドになっている。
木畠茜音と一緒に隼斗と会っていた。しばらくあの子は来ない
こっちの世界ではアメシロとピンクと呼びましょう。ブルーもまだですね。こんな時間だから仕方ないですけど
はやく終わらせたい。空から何かがばさりと降りてきて身構える。
俺の手に赤い籠手が現れた。今日は矢が装てんされている。
やめてよ、私だよ。
与那国司令官がまだだから、モスプレイが登場しない。指示も分からない
これは
緊急招集だと思う。それでも、あっちの世界の司令官には本部から通知が届く。司令官はあっちにいても、私にだけは指示を送れる。なのに来ない。
つまり、あの馬鹿は本部からのメッセージに気づいていない
この国の平和とか悪の邪教集団を倒すとか関係ない。壬生隼斗を生かす。いや、元気にしてやる。そのために戦い続けないとならない。それは、茜音やイエローやブルー、おそらく司令官も同じだろう。一人は実社会で寄りそい、二人はポイントを譲り、もう一人はチームの勝利よりも仲間の命……隼斗の健康を優先と記した。
戦場なのに雑談してやがる。でも、まだ修羅場のような状況で出会っただけの連中だけど、俺はこいつらを信じる。俺の仲間だ。駆けだしレッドであろうと、こいつらの力になってやる。逃げるのでなく勝利するために。
二手に分かれよう。俺は道を上に進むから二人は下を目ざして
敵の全容も分からないのに一人で? たしかにレッドのレベルは35あった
最初からそんなに! 私たち三人合わせたより多いです
たしかに幹部補相手なら互角だけど、コンディションは26だった。おそらく経験不足が数値化されている。つまり実質は35の26パーセントだから、9ぐらいだ。
上級戦闘員がレベル7前後だから、それを相手にアドバンテージがある程度
戦闘員って、奇声をあげて刀を振りまわすだけの連中だよな。つまり俺は強い雑魚ってことか。
俺は勘を信じて林道を歩きだす。イエローが横に並び俺へとうなずく。
私はいまの体だと戦闘力はないけど一緒に行く。あとから転生されてくる人は、先行したメンバーのもとに現れる。
それとレッドでいるときはアメシロと呼べ。オウムだからと馬鹿にするな!
アメシロが路上を低く飛び先行する。こいつも役になりきってやがる。 ならば俺も。
正解だ。女性の悲鳴がした。私は鳥なんで耳と目だけはいいからね。
165センチのイエローのが160センチのレッドより止まり心地がいいからだ。
170センチのブルーが来たらそっちを止まり木にする。
140センチのピンクの髪は巣にして寝るには最高だけどね
160ならば実際の身長が173センチの俺とならちょうどバランスがいいかな。なんて思っていられない。奴らは一般人も襲うのか。まさに悪の組織だ。
命は大事に。モスガールジャーのモットーには従う。
ここはどこの山だろう? 雑木林に挟まれた道は薄暗くなっていく。遠くでカラスが鳴いている。オウムの指図を受けながら、警戒しつつ歩いていく。
アメシロがモスプレイに乗っていないならば司令官不在か。指示は届いているのか?
いきなりブルーが姿勢よく横を歩いていて驚かされる。
悲鳴が聞こえたそうです。布理冥尊の仕業でないとしても助けましょう
ブルーが駆けだすので追いかける。アメシロも羽根を広げる。
暮れていく砂利道を走りながら、ピンク色の毛糸帽子の男の子をまた思いだす。
そうか? 昨夜のポイントと別に初回ボーナスも受けとったはずだ。うすうす感づきそうなものだがな
イエローが話題をそらす。
彼女の走り方は女にしか見えない。俺も見習わないとな。ブルーは、こいつ男だろって目で見ると、野郎が走っているとしか見えない。スカートは一番短くて、脚線も一番だけど。
質問されただろ。
龍と陰。内容は博士に問い合わせ中だが、どうせまた言葉遊びが返ってくる
だが龍は使えそうなネーミングだな。
私は“鶚”と“村雨”。
イエローは“猪”と“貫”と“西瓜”。
ピンクは“巨樹”だけだ
特性は聞きもしないのに教えてくれる。オウムにも特性があったのか。というか、そのままじゃないか。
俺は尋ねるけど、ブルーの頭からオウムの体が薄らいでいく。
『今回の任務は人質の奪還。の手助けだ。しかし群馬の山奥に彼女たちが到着するのは一時間後になる。それまでに人質たちは洗脳される恐れがある。なので我々は必死で時間稼ぎをしないとならない。健闘を祈る。
これこれアメシロ噛むではない。急に呼びもどしたのは悪か――』
拉致された一般人だ。奴らは生け贄と呼んでいる。精神エナジーの強い人を悪へと洗脳する。最後は力づくでな。
それを阻止する。……雪月花がな
トラックには十人ぐらい乗ってましたよね。他にもいるわけだし、おそらく幹部クラスも……
イエローの顔が青ざめた。またも修羅場らしいが、そんなシチュエーションにピンクを転生させる訳にはいかない。魔法少女だかを待っている場合ではない。
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