07 黄昏林道

文字数 2,739文字

起きてください
 頬をやさしく叩かれる。巨乳イエローがいた。
白い渦が見えたら、おなかに力を入れて踏んばってください。そしたら転生しても意識を失いません

 甘ったるい声で諭される。胸を押し当てられて立ちあがらせられる。

 ここはどこだ? 東京と違い重い雲が覆っている。それでもまだ日が落ちない山の中。

 意識なきまま未舗装の林道に座りこんでいたようだ。

 俺はまず自分の指を見る。

 赤いマニキュア。俺好みじゃないけど彼女にはきっと似合う。その指で頬をさする。

 俺はスカシバレッドになっている。

ニヤリ
 不敵に笑ってみせる。
木畠茜音と一緒に隼斗と会っていた。しばらくあの子は来ない
こっちの世界ではアメシロとピンクと呼びましょう。ブルーもまだですね。こんな時間だから仕方ないですけど
俺たちはなにをすればいい?
じきに指示が来ます。落ち着いてくださいね
 はやく終わらせたい。空から何かがばさりと降りてきて身構える。
 俺の手に赤い籠手が現れた。今日は矢が装てんされている。

やめてよ、私だよ。

与那国司令官がまだだから、モスプレイが登場しない。指示も分からない

連絡を取れないのか?
これは緊急招集(スクランブル)だと思う。それでも、あっちの世界の司令官には本部から通知が届く。司令官はあっちにいても、私にだけは指示を送れる。なのに来ない。

つまり、あの馬鹿は本部からのメッセージに気づいていない

指示があるまでは待機。言われてはいますけどね
……。
 この国の平和とか悪の邪教集団を倒すとか関係ない。壬生隼斗を生かす。いや、元気にしてやる。そのために戦い続けないとならない。それは、茜音やイエローやブルー、おそらく司令官も同じだろう。一人は実社会で寄りそい、二人はポイントを譲り、もう一人はチームの勝利よりも仲間の命……隼斗の健康を優先と記した。
ピンクの具合はどうでした?
うーん、ぼちぼちかな

 戦場なのに雑談してやがる。でも、まだ修羅場のような状況で出会っただけの連中だけど、俺はこいつらを信じる。俺の仲間だ。駆けだしレッドであろうと、こいつらの力になってやる。逃げるのでなく勝利するために。

二手に分かれよう。俺は道を上に進むから二人は下を目ざして

敵の全容も分からないのに一人で? たしかにレッドのレベルは35あった
最初からそんなに! 私たち三人合わせたより多いです
たしかに幹部補相手なら互角だけど、コンディションは26だった。おそらく経験不足が数値化されている。つまり実質は35の26パーセントだから、9ぐらいだ。

上級戦闘員がレベル7前後だから、それを相手にアドバンテージがある程度

 戦闘員って、奇声をあげて刀を振りまわすだけの連中だよな。つまり俺は強い雑魚ってことか。
だったらイエローと行く。茜音はここで待っていて
そうですね
 俺は勘を信じて林道を歩きだす。イエローが横に並び俺へとうなずく。
私はいまの体だと戦闘力はないけど一緒に行く。あとから転生されてくる人は、先行したメンバーのもとに現れる。

それとレッドでいるときはアメシロと呼べ。オウムだからと馬鹿にするな!

 アメシロが路上を低く飛び先行する。こいつも役になりきってやがる。

 ならば俺も。

私たちも急ぎましょう
 イエローとともに駆けだす。オネエ言葉が心地よい。

正解だ。女性の悲鳴がした。私は鳥なんで耳と目だけはいいからね。

 アメシロがイエローの頭に戻る。
……。
165センチのイエローのが160センチのレッドより止まり心地がいいからだ。

170センチのブルーが来たらそっちを止まり木にする。

140センチのピンクの髪は巣にして寝るには最高だけどね

 160ならば実際の身長が173センチの俺とならちょうどバランスがいいかな。なんて思っていられない。奴らは一般人も襲うのか。まさに悪の組織だ。
さらに偵察しようか?
離れず案内だけでいい。勝てる相手ならば急襲しよう

 命は大事に。モスガールジャーのモットーには従う。



 ここはどこの山だろう? 雑木林に挟まれた道は薄暗くなっていく。遠くでカラスが鳴いている。オウムの指図を受けながら、警戒しつつ歩いていく。

 
アメシロがモスプレイに乗っていないならば司令官不在か。指示は届いているのか?
わあ
 いきなりブルーが姿勢よく横を歩いていて驚かされる。
悲鳴が聞こえたそうです。布理冥尊の仕業でないとしても助けましょう
そうだな

 ブルーが駆けだすので追いかける。アメシロも羽根を広げる。


 暮れていく砂利道を走りながら、ピンク色の毛糸帽子の男の子をまた思いだす。

みんなの報酬と代償は?
そんなことをここで聞くな
失礼極まりないですね
戦うことに集中しろ
……。


俺の――私の報酬もまだ分からなかった

そうか? 昨夜のポイントと別に初回ボーナスも受けとったはずだ。うすうす感づきそうなものだがな
ボーナス?
レッドの特性は?
……。

 イエローが話題をそらす。

 彼女の走り方は女にしか見えない。俺も見習わないとな。ブルーは、こいつ男だろって目で見ると、野郎が走っているとしか見えない。スカートは一番短くて、脚線も一番だけど。

質問されただろ。

龍と陰。内容は博士に問い合わせ中だが、どうせまた言葉遊びが返ってくる

だが龍は使えそうなネーミングだな。


私は“(ミサゴ)”と“村雨”。


イエローは“猪”と“貫”と“西瓜(スイカ)”。


ピンクは“巨樹”だけだ

そして私は“鸚鵡(オウム)”と“耀”
……。

 特性は聞きもしないのに教えてくれる。オウムにも特性があったのか。というか、そのままじゃないか。

 下からエンジン音が聞こえ林に身をひそめる。
ウッキキー
キッキー
あれは下級戦闘員だよね?
…マジカヨ、イキナリカヨ
 俺は尋ねるけど、ブルーの頭からオウムの体が薄らいでいく。
『待たせたな、モスガールジャー諸君』
!!!
 知らぬ間にスマートウォッチをはめていた。

『今回の任務は人質の奪還。の手助けだ。しかし群馬の山奥に彼女たちが到着するのは一時間後になる。それまでに人質たちは洗脳される恐れがある。なので我々は必死で時間稼ぎをしないとならない。健闘を祈る。

これこれアメシロ噛むではない。急に呼びもどしたのは悪か――』

人質ってなに?
拉致された一般人だ。奴らは生け贄と呼んでいる。精神エナジーの強い人を悪へと洗脳する。最後は力づくでな。

それを阻止する。……雪月花がな

トラックには十人ぐらい乗ってましたよね。他にもいるわけだし、おそらく幹部クラスも……

 イエローの顔が青ざめた。またも修羅場らしいが、そんなシチュエーションにピンクを転生させる訳にはいかない。魔法少女だかを待っている場合ではない。

三人で端からやっつけよう!
 レッドは二人に強い目を向けて、真っ先に走りだす。
 森はどんどん暮れていく。
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登場人物紹介

相生智太

=スカシバレッド

スカシバレッド

=相生智太

清見涼

=エリーナブルー

エリーナブルー

=清見涼

睦沢陸

=シルクイエロー

シルクイエロー

=睦沢陸

壬生隼斗

=スパローピンク

スパローピンク

=壬生隼斗

夏目藍菜

=与那国三志郎

与那国三志郎

=夏目藍菜

木畠茜音

=アメシロ

アメシロ

=木畠茜音

陸奥柚香

=白滝深雪

白滝深雪

=陸奥柚香

竹生夢月

=紅月照宵

紅月照宵

=竹生夢月

深川蘭

=紫苑大夫

紫苑大夫

=深川蘭

相生桧

=智太の妹(従妹)

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