02 広尾で知る不実
文字数 3,790文字
なによりもストーカーには厳格に対処すること。
十代が二人、二十代が三人。三十代が一人。五十代が一人。相談に対応した婦警さんが一人。合計八人が『相生智太の自宅とバイト先に近寄りません』と誓約書を書かされた。
でも彼女たちこそ被害者だ。なので性フェロモンに関しては、個人的に研究を進めている。女性に一番影響を与えるのは目線なのでサングラスは必須。なるべくうつむき行動する。容姿が変わったわけではないので、顔を隠す必要ない。
ストーカーの一部は、俺の写真を確認させられると、『私はなんでこんな男に』と目が覚めたらしい。失礼な話だ。
目を合わせなくても、三十センチ以内に十分以上接するのは危険。満員電車には乗れないし、若い女性と隣りあって座れない。年配でも、たまに危険な奴がいるので注意は怠れない。
なので、タクシーで広尾へと行く。領収書さえあれば、モスガールジャーで運賃を支払ってくれる。
エプロン姿の落窪さんが玄関で迎えてくれた。彼は藍菜の家に住み込みと聞いている。
テーブルのチェアに座るロングヘアの陸さんに勧められる。黄色いひまわり柄のワンピース姿でうふふと笑う。どんなに女性ホルモンを報酬で授かっても、シルクイエローには勝れなさそうだ。
くそは機嫌が悪かったのか、
スーパー魔法少女“身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?”に即座に変身して、落窪さんは即座に敗北した。
そんな経緯があるから、まだレッドにちょっと恨みがあるみたい。
でも気にしないで
清見さんが時間通りに現れて、茜音も隼斗と一緒に来て全員が揃った。
隼斗のさらさらした髪は女の子のものみたいだ。でも、やっぱり中学生にしては、体つきを幼く感じる。
茜音が不透明の間仕切をセットして、陸さんが隣に座り、その隣に俺が座る。向かいには真ん中に藍菜、俺の正面には隼斗が座る。
紗助君は東京に戻っています。
彼を狩ることを本部からしつこく命ぜられていたけど、スルーしていました。それでミッションがこんなことになりました。
でも、次は親衛隊本部を強襲しろとか言ってくるかもしれない。雪月花も関わることになった。
だから、もう逃げられない。私たちもグリーンも
紗助とは、伊良賀紗助だよな。モネマグリーンであり、三回死んでカスになり、藍菜を襲撃して海外逃亡した、組織のお尋ね者……。
紗助君を捜索しろという本部からの通知は、智太君が加わる二週間ぐらい前に来た。『メンバーを転生させずに、生身での姿で町を
私も―中略―『とても無理』とだけ返事した。以後その件の連絡は、既読無視しといた。
そしたら、本部は“仮面ネーチャー”の二人に指示を出した。
昼は警察官と消防官。非番の夜は布理冥尊と戦い、環境保護のボランティアにも参加するという、正義の心だけでできた正義オブ正義の二人は、仮面ガイアと仮面アグルに変身することなく、非番の昼は紗助君の痕跡を葛飾区から狛江まで探し求めた。
彼らがグリーンを見つけたのは、和光市での慰労会の前日だった。私はあの場でみんなに告げることができなかった。本部には『了解』と返事して、今日までなにもアクションしなかった。
内偵を続けた仮面の二人が本部に報告した。
『叛逆者が布理冥尊と接触した』
『生身ではこれ以上は追跡さえ困難』
『変身して確保に指令を変えてくれ』
清見さんは元気になった隼斗へと陽だまりのような目を向ける。
伊良賀紗助は、左腕と右足骨折で入院中の夏目蒼菜を襲撃した。脅迫し、本部と連絡を取らせて、蓄えていたポイントをモネログリーンへと授けさせた。壬生隼斗を生かし続けるためにみんなが分け合ったポイントをだ。
モネログリーンを追えばレイヴンレッドにたどり着く。
平均年齢二十一で恥ずかしくもなく魔法少女を名乗る連中の考えそうなことだ。しかし、あの三人が一緒に行動したら、嶺真ちゃんは現れない。紗助君など小便を漏らす。
だからモスガールジャーとともに数チームに分かれて、その二人を追うことにしやがった。我々にもケツを拭かせられると、本部も認めやがった。
さすがに花魁やかぐや姫の格好で街を歩いたら、変質者だと思われる。なので布理冥尊最強部隊の影があろうが、みなが生身の姿でだ。
あいつらはいいよ。その姿でも魔法がつかえるし、いつでも変身できて仲間もそこに登場できるから。
で、向こうから要望の探索チームの編成分けは、
『雪と青』
『月と黃』
『花と桃』
『オウムと赤』
だがピンクは出さないし、私もリハビリ中だし暑い中歩き回りたくない。なので花には一人で徘徊してもらう。
私は忙しいから参加しない。それに、これは正義とは言えない。
みんなも同意見だと思うが、伊良賀は組織のシステムの犠牲者だ。あいつを本部に引きずりだすなど、絶対にしない。
夏目の件も、責任の一部は注意を怠った本人にある
……私は、彼女にまた善の心がよみがえると今でも信じている。仲間だった二人を売るようなことはしない!
みんながてんでに自分の都合を並べ立てる。おとなしいのは陸さんと俺だけ。
でも……機会かもしれない! と心の奥が叫んだ。
俺は立ちあがる。テーブルを両方の手のひらで叩く。