06 禁断の二人じゃございません
文字数 2,176文字
見知らぬ七三分けの五十代に微笑みかけられる。諭湖は女子トイレに入り中年親父に変化して戻ってきた。
スカシバレッドになった翌日に茜音と並んで歩いた道を、布理冥尊である親父と歩く。
怖いですね。まさに戦場のコールドレッド……。
あなたの大事な妹のために、仲間さえも惑わしましょう。
従妹である美女と義妹として同居。ああ、ラブコメどもが連日投稿するベタ展開が現実であり得るとは。でも奴らは二人をくっつけてハッピーエンドに終わらせます。
……あなたの司令官の小説は素晴らしかった。私は私の手で人生の楽しみのひとつを潰してしまいました
私は創作活動にリアリティを加えるために、その辺りには詳しいです。
先ほども言いましたが、私があなたに体を許すのは婚約してからになります。つまり一年以上も先です。あなたは今が盛りなので、それまではある程度の遊びに目をつぶります。
たとえば髪を黒く戻した雪。おお、たとえばですけどな
なのに名残惜しそうに、諭湖である中年男性が見つめてくる。今の俺は平均的性フェロモンだし、しかも諭湖は精霊状態だ。本来ならば醒めてもおかしくないのに……。この子は思い込みが激しすぎるかも。
そうだとしても道行く人が男二人を眺めている。女子中学生のままならまだしも、こんな姿に『ああ』だの『おお』だの言われだしたら、知り合いに勘違いされる……思いだした。
存じています。
でも私は惑わしの妖精です。目撃されたとしても、あなたを誘惑するためと逃げきる自信がございます。臆病カラスが虎にならぬ限りは。
本日は導きのようにあなたと会うとは思わず、憧れから、あなたの精霊である麗しい女性の姿に変化しました。
……妹さんはコールドレッドに似ていましたね。それではまた
夜になってしまった。狭い庭のテントの中で考える。
この二十年間、悩みと無関係に生きてきた。正義の味方になってもだ。なのに、いきなり脳みそが苦悩で朝の東上線状態だ。クロ子が遊びに来るまえに、頭を整理しておかないと。
・春日はむかつく。
・俺と夢月は原理主義。レベルが上がるとヤバい?
・俺は仮面ネーチャー、柚香はモスガールジャーで確定。
・柚香と連絡が取れない。かなり怒っている。
・桧を無視して会話に没頭。かなり怒っている。
・柚香も穴熊パックにばれていた。強烈な人質。桧にしても。
・桧と結婚できる? さすがにその気はないけど。
・桧に精神エナジー。正義の心………………!
レジスタンス=テロリスト。布理冥尊から見れば、俺たちは悪だ。つまり諭湖が言う正義は俺たちから見て悪。つまりつまり桧が悪だと?
それは無いから心配しない。でも精神エナジーが見えるのは問題だ。存在が知れたら、芹澤のようにつけ狙われるかも。だったら、いっそのことレジスタンスに勧誘したりして。俺と二人で美少女姉妹戦士なんたらかんたらとか……。検討の余地はあるかも。
余地はあっても桧のコスプレを見たくても、現実的でない。妹を戦いに巻き込めるはずがない。俺が原理主義なんて説と同じくらいリアルに感じられない……。
俺はおぞましい化け物を喰いたくなるのか? 桧を喰いたくなるのか? 夢月も同様なのか?
そうなってから悩もう。とりあえず眼下の悩みは、柚香と桧が非常に怒っていること……それこそどうでもよくね?
テントの中に白い渦が現れた。
まだモスガールジャーとして召集されるのか。時空を越える力に耐えながら、LEDランプを消す。夕飯の残りを急いで頬張る。
召集を拒絶できるほどに力がついてきた。もちろん従うけど、これなら靴も脱げる。つまりベッドで寝ても問題ないけど、テント生活もなんだか楽しい。
すべての戦いが終わったら、みんなでキャンプをしたいな。モスのみんな、雪月花のみんな、仮面ネーチャー……。関東管轄全員でキャンプ場を貸切るとか。
焚き火の向こうの柚香の笑み、夢月の笑顔を夢想しながら、体の力を抜く。