あの子は桧に似ていると言われる。でも従妹だから当たり前だ。どっちがかわいいとか比べないように。
お兄ちゃんが女性で生まれてきたら、たぶんあの子になっていたと思う。では変身するよ
うう。注目の的。秋になって、みんなは肌を見せない服装。蛍光灯の下だと、露出気味のスカシバレッドは恥ずかしくないか?
でも陸さんがいた。
堂々と女性美を追求する、男の中の男。その姿が、俺とスカシバレッドに勇気を与えてくれた。
批評はさすがにしないと思ったけど、冷静なコメントもつらい。
布理冥尊め、ふざけんな! レッドの前では誰もがかすむわ
うちの子が大きい声をだしてごめんなさい。……どちらもかわいいですよ
うーん……たしかに私に似ているかも。
でも、やさしい目はやっぱりお兄ちゃんだ!
さすが桧。スカシバレッドは格好よい返答を考える。けど。
いいっすけど倒さないでくださいよ。
ペンちゃんは大きいから頭が天井に当たりますよ
そんなかわいい呼び名はやめて。屈んで精霊になりなさい。
湖佳ちゃん、マントを渡してあげて
岩飛がマントで体を覆う。黒いビキニ姿になる。腰に手を当てポーズをとりやがったあとに、その体に力を込める……。
化け物失礼精霊に慣れていない桧の顔が強張る。巨大化して2メートルを優に超すイワトビペンギンが現れる。
岩飛の愛嬌の特性。壊した天井さえ許してしまうから恐ろしい。
レベルに関係なく知恵足りぬ者がかかる系の補助攻撃です
思わず許してしまった。部屋が魚臭くなったがそれも許す。
モスの三人が混沌の中を帰る。隼斗は未練たらたらだが、彼への態度を改めた芹澤に引きずられていった。
スカシバレッドと黒ビキニの岩飛は食器棚を元に戻す。ついでスカシバレッドはふわりと浮いて、天井の応急修理をする。そして変身解除。
女子三人による接待の後片づけも一段落しかけたところで、茜音から連絡が来る。
湖佳が洗面所に行きそのまま戻らない。すでに透明で空飛ぶアナグマになったのだろう。紅月レベルの視力か感か、特殊ゴーグルがないと見つけられない。
千由奈たちが戻ってきたら、岩飛と二人で池袋東口のデパ地下に買いにいく
バイクで二人乗りだ。でも、柚香専用の白いヘルメットをこいつがかぶるのはダメだ。危険だけどやっぱり一人で行ってもらって……。
『君と落窪さんが組むらしいね。夢月が承諾するとは思えないけど』
『あの団体にいた人と組んで戦える? さすがに恥ずかしいよ。奴は戦いにはこだわる』
トリオスの三人が指さして笑いそうだ。最初からリベンジグレイの姿で現れても時間制限があるし。
『レオフレイムは強いよ。夢月の十三夜をソードで弾いた。存在するだけで、私の補助攻撃はすべてかき消された。
……たぶん十五夜を使わないと夢月は勝てない。負けやしないけど』
『そんなはずない。他の二人もレベル170台でチームワークは抜群。
これはトリオスに憂さを晴らせるための模擬戦。智太君も勝てない。はやめに降参して』
負けるとしても、俺や落窪さんの実戦練習になる。柚香が来ないならば、この三人でと夢月を説得する。
そして、やっぱり柚香と二人だけで会いたい
『察してよ。さすがに一月以上だよ。
……楽しくしていると、たまに忘れてしまうんだ。私を守ろうとした人を』
清見さん……。深雪を襲おうとした黒い悪魔に立ち向かい、代わりに喰われた。
俺はあの人を一日足りとて忘れていないとはっきり言える。先ほどみたいな戦いの狭間に、戦いの仲間と笑いあっている時でも。
でも、柚香は俺以上に受けとめていた。
ベランダから居間に戻る。テレビのお笑いに口を開けていた岩飛が、俺の顔を見るなり二階にいく。
お兄ちゃん! 千由奈たちが戻ってくるのに、その顔はやめなさい! ……何があったの?
お兄ちゃんは優しいとか言われるけど、その人が何に本当に苦しんでいたのか、そんな事にも気づけなかった。
その人は歯を食いしばり教えてくれた。俺なんかよりずっと苦しんでいて、それでも俺を思ってくれた。
俺はとっくに気づいて、その時に抱きしめてあげればよかった
グチグチ
お兄ちゃん!
好きな人が出来たら私に言うと約束したよね!
俺の心情など関与できない、桧の論理。小学生時代の約束だが、まだ失効されていなかったのか。
夢月さんなら仕方ないなと思った。昔話のかぐや姫って、あれくらい綺麗なんだろうね。それでいて、自分の容姿を鼻にかけない。
……でも、湖佳が匂わしたように、やっぱりお兄ちゃんは二股している! しかも、その相手は、まさか、本当に、あの、女
……妹が言うあの女とは柚香。たしかに桧からの印象は、奇抜なファッションで『高校生が』みたいな顔をしたり、電車内で中学生女子をスタンガンで脅したり、カフェで俺を巡って茜音に恫喝まがいをしたり、病室で俺のベットに潜りこんで寝たり、ネンドクンから守ってくれたけど、今日も一番偉そうな態度で千由奈を連行したりした女だろう。
でも、傷ついている彼女をあの女呼ばわりは許せない。
俺も立ちあがる。妹と向かいあう。
お兄ちゃんが一番好きなのは桧だよ。だから、誰と仲良くしても、桧を一番大事に思っている
習性のように、おのずとぺらぺら言葉がでてしまった……。
俺の言葉に嘘はなくて、桧が一番好きで大事だ。でも妹は、夢月の魔法と下着姿を見てから、さらに俺の部屋で春日との戦いを見てから変わった。……変わってないかもしれない。本来の桧を俺に見せるようになっただけかもしれない。
両親に先立たれずっと泣いていた弱くて小さな子が、癖のある居候たちを受け入れるどころか助けとなっている。俺より強くなっている――。最初からずっとずっと強かったのかも。
お兄ちゃんはまだ私が一番好き。でも夢月さんも好き。あの女も好き。たしかにあの顔はお兄ちゃん好み……
妹は信じてくれて受けいれる。というか的を得すぎだし。
だったら、柚香さんが何に苦しんでいるのか教えて。戦わない私でも、みんなの力になりたい
桧は俺なんかより優しくて強い……。桜の花びらが舞った。
天井に黒い穴。湖佳を抱いたハウンドピンクが飛び降りる。
目黒で湖佳に“桜散れ”をかけて追跡した。昨夜湖佳はゲームしたままトビーの部屋で寝たから二階に戻された。階段が面倒だから虚無の穴でショートカットした。
ツインテールの女の子が天井裏の埃をはらう。ブレザーの制服姿が季節に合ってきた。
蛾の司令官は楽しい人だな。とてつもない提案をしてきた。湖佳に相談したら賛同した
ちなみに岩飛殿は、千由奈のこの姿を見て気を失いました。彼女には事後承諾してもらいます
夏目司令官が私設チームを作る。チーム名は“魔法少女花鳥風月”。
花は私、鳥はトビー、風は湖佳。――妖精の特性。見えない姿で飛ぶ。まさに風だろ
そして私どもが倒す敵は原理主義のみ。残念なことに相生殿は除外ですが
……最初からレベルが30半ば。
マントは私以外に三枚ある。月は桧だ