暗視能力が消失しても、満月に照らされた星空はなおも奇麗。追いつめられていても。
俺は心にネーチャーの端末を思う。現れない。雪月花の端末も思う。現れない。俺はただの相生智太に戻っている。スカシバレッド同様に、ふらふらの体。
こうなったらどうにもならない。
俺を爪先でつかむ悪魔に喘ぎをこらえて聞く。こいつらへ怒れ。呪え。それを力に変えろ。
展開は十通り以上考えていた。最善ではないけど悪くない展開だ。
ポチ
焼石応答しろ。コールドレッドを捕らえた。あの女を連れてこい
悪魔が俺を逆さ吊りにする。巨大な口の前に持ってくる。
怯えるな。震えるな。勝てるはずなくても、食われる時にせめて牙を一本抜いてやれ。
月を倒すのが目的じゃないですよ。そいつをいま食えば、赤い月は大司祭長に従わない。あなたは責任をとることになる
ここでこいつを食い、さらに月も喰らう。あの方も越せるかもな
美しき獣人が空から降りてきた。背丈は3メートル。漆黒の地肌にペインティングのような赤い縞模様。黒い羽根を背中にはやす。おぞましい姿のはずなのに、妖艶だ。
しかし頭に血が溜まる。
ヘルメットが重くて落とす。心にエナジーナイフを思う。現れない。……バイクの中にはスマホがある。登録された情報から自宅につながってしまう。端末があれば自爆させられるのに。
あれは想定外。こいつを捕らえたことは伝えたが、それでも月明かりを空から放つかもしれない。
想定外がもう一つ。月はマントを使ったようだ。精霊になっていた。
……私はあれをよく知っている。あれが後継者とは、とても思えない
そう言うと、レイヴンレッドは体の力を抜く。人の姿の精霊に戻る。
ほかにいないだろ。
……凪奈は殺してもいい。夜桜の特性が弱まらないと、凪奈と諭湖のアジトは隠されたままだ
真壁が飄々と言うけどそうだったのか。なぜ教えなかった。聞いてなかっただけか?
しかし、月が精霊のマントを使うとなると厄介だ。
こいつは巨大な龍になった。つまり巨大な鳳凰になる
ひよこになることは言わない。しかし脳に血が……。おかげでふらふらが治った気もするけど、腹筋で頭を上げたりする。
コイツハ、ヨユウカ?
あの娘は精霊になれば、いまだ力が落ちるだろう。ハウンドが犬になれば使えぬ術があるように
レイヴンレッドから俺への怒りのオーラを感じる。ウサミンミンを殺したな。目がマジで訴えている。腹筋をやめて素直にぶら下がる。
逆さまになったポケットから何かが落ちかける。これは目薬……。
雪と夜桜は復活したとして行動すべきだ。
……申し訳ないが、私は離脱する。ひさしぶりに戦いでダメージを受けた
前方からジャンボジェット機の胴体を越える光が現れる。紅色。まっすぐに飛んでくる。
背後からの十六夜を、レイヴンレッドは飛んで避ける。
光は俺の真下に衝突する。巨大な悪魔の腹部へ。しかも三連発。
ハデスブラックが吹っ飛ぶ。ついでに俺を手から離す。
紅色スクール水着の紅月にミカヅキへ乗せられる。助かった。
なのに背後から追撃。
紅月が、レッドタイガーソードに背中を斜めに斬り裂かれる。更に。
俺はまた落下して、髪の毛を乱暴に握られる。抜けかけるが、俺の毛髪は丈夫だ。でも痛い。
深雪が高めたとはいえ、真壁の城壁をたやすく消したな
レイヴンレッドが俺の首をつかみなおす。ここはクロハネの上。俺は心にネーチャーの端末を思う。……なおも現れない。
律された精霊の力はしばらく回復しない。お前は今夜はただの人間だ。
……抵抗するな。夢月と大司祭長が語りあい認めあえば、お前も赦される。それが平和への最短で最善だ
こいつの話など聞かない。俺はポケットから目薬をだす。眉毛からぼたぼた垂らす。両方の目へと流れていく。
目になど当てられないから眉毛からぼたぼた垂らす。両方の目へと流れていく。
レイヴンレッドは振り向けない。俺は滲んだ目で見る。
本当の月の光より明るい、紅色の光が向かってくる。
自分の腕を持った紅月が夜叉の表情で追ってきた。
私の腕の防御力は100000000000000000だ!
すなわち百京。スパコンの処理能力に匹敵するとは信じられないが、ミカヅキの上で彼女は自分の腕を傷口に張りつける。つながったばかりの手で円を描く。 俺がいるのに。
十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜!
軽やかにすべてを避けるレイヴンレッドのひとり言が聞こえた。光は大磯の空を越えて海へと飛んでいく。
俺はひたすら目薬を垂らす。空になった容器をポケットにしまう。生命が窮地だろうとポイ捨てだけはしない。
レイヴンレッドがクロハネを静止させる。
俺を引きずるように持ちあげる。盾として掲げる。
ミカヅキに乗った紅月もその前に停まる。
気づけば海岸線上の空にいた。ライトアップされた横長のプールから、豪快に水しぶきが上がるのが見えた。巨大な闇が追っていく。
城壁の結界がモスキャノンを弾いたぞ。隊長は無傷だ。……生身だと気づけないか?
レイヴンレッドが言うけど、俺はスカシバレッドでも高位エナジーを視認できなかった。ましてや今は目はぐしょぐしょだ。……ぐちょぐちょなほどに性フェロモンを浴びた。 俺は振りかえる。
満月は空のてっぺんに近づいている。レイヴンレッドも照らされる。ダメージが蓄積した疲れた顔。なおも挑戦的な妖艶な瞳。
でもバレバレだ。左手にレッドタイガーソードが現れる。
な、何もしていない。目を合わせただけだ。
俺たちがレッドだからだ。結ばれる運命だからだ。竹生夢月が俺を求めるように
俺はさらに見つめる。ロングビーチのはるか上で、レイヴンレッドは俺から目を離せない。月明かりに照らされたロマンチックな空中散歩。であるはずないけど。
須臾にして久遠である欺瞞の時――。 空には流れ星。
キラメキグリーンの痛烈なドロップキックがレイヴンレッドの頬に直撃する。
レイヴンレッドがロングビーチへと落ちていく。クロハネが消滅する。
俺はキラメキグリーンに抱きかかえられる。上空へとビュンと飛ぶ。
深雪さんに極限までパワーアップしてもらいました。さらには私は流星のように、すべてのエナジーを瞬間に注ぎこみ燃え尽きることができます。
今の一撃はレベル170のクリティカルヒットに値します。
追撃するエナジーはありません。モスプレイに戻ります
満月を背景に、モスプレイが闇から姿を現した。
sworc様、使用させていただきました。ありがとうございます。