24 歓迎会を兼ねる

文字数 2,576文字

ありがとうございました

 甲府盆地の戦いから九日後に、隼斗は退院した。その間に二度召集があった。


“お兄ちゃん!”
“……。”
 一度は桧に貼りつかれて参加できなかった。それでもモスガールジャーは三人で任務を果たした。
“オーマイガー”

 傭兵たちとの合同チームは、巨大クレーターとSNSで拡散されまくった大爆発(布理冥尊による報道統制によりベタ(隕石)でおさまった)のおかげで、いかれたチームが一緒に動くなと、本部からのお達しにより一度きりで解消した。


 上記ふたつの件は想像以上に深刻だったようで、司令官も庇いきれず、俺とアイルランド人にペナルティが処されることになった。


 二人はレベルアップはゆるされても報酬を得られなかった。もともとポイント0のアイルランド人は、目の前に座っている人が降車する確率(要はささやかな幸運)が減少して、俺はフェロモンが増えなかった。

“スカシバレッドが相手だ!”

 その後の戦いで魔法少女が到着する前に幹部補三体を倒したため、女性の目線がまた気になりだした。慣れてはきた。俺はイケメンと思いこめばいい。



 モスガールジャーはDランクに格上げされた。でも、雪月花が鶴見の運河における親衛隊四体との戦いに完勝し、全国で唯一のSランクになったおかげで、彼女たちのサポートチームに戻されたままだ。独立した任務は増えるらしいけど。

 修羅場(ミッション)以外では夢月とも柚香とも会っていない。

“生身の姿で会ったら殺す、月に殺されてもその倍殺す”

 蘭さんがそんなこと言うので、修羅場(ミッション)以外では夢月とも柚香とも会っていない。

 ミッションで会ったのも一度だけだけど、

“智太くーん”
 かぐや姫は手を振ってくれて、
ペコリ
 巫女は微笑んでくれた。
コノヤロウ…
……。
 花魁の目はおっかなかった。
行ってきます!

 妹が夏期講習だから問題なく家をでられた。

デデンドドン、デデンドドン
 とてつもない財運を持つ広尾マダムの主催だからどこの高級ホテルでの祝勝会かと思ったら、東上線などにあるフレンチレストランだった。と思ったら、駅前の飲食店が集合したビルの最上階の高級感あふれる店じゃないか。
……。

 バイトに行くときの格好のままでVIPのように案内される。

 店は金曜の夕方六時から六人のためだけに貸し切り。

お久しぶり、うふふ
……。
十分前に到着したら、陸さんがすでにいた。腕は処理したようにつるつるだ。伸ばし始めた髪はさらさら。うふふと笑うが男性の服装で来てくれた。
間仕切りセットしておけよ
お前、その服装は……。
陸さん、智太さん、こんにちは

 続いて茜音と清見さんが、ピンクの野球帽をかぶった隼斗を連れてきた。自分の足で歩く隼斗は見るからに体調がよさそうだ。頬もうっすらピンクだった。


 私は一度かかったから免疫ができてると茜音は言っていた。でも、今の状態(フェロモン)での密は避けるべきかもしれない。二十一歳の女性である夏目碧菜が心配だ。

蘭さんに通用しないなら私にも通用しない。と本人が言っているし、惚れさせて色々と改善させるのも手かも

 茜音が五メートル離れた位置から目を逸らしながら言う。俺より賢い彼女が言うのならばそうすべきなのだろう。


 しかしすでに五分オーバー。茜音がいうとおり、司令官は時間にルーズだ。碧菜の席を上座に開けて、その向かいに俺が座る。隣には不透明のパテーションを置いて茜音が座る。その隣に陸さん。碧菜の隣に隼斗。その隣には清見さんが陸さんと向かい合わせで座る。

遅れちゃってごめんね
グヒヒ…
 さらに十分後、生身である司令官が到着した。三十代ぐらいの黒づくめの男に車椅子を押させて現れる。こっちの世界でのボディガードだ。
碧菜っぱ、もう治ったのだろ? 自分の足で歩け
だね。リハビリになるし

ヒョコヒョコ

こんばんわ

イエーイ
 碧菜はひょいひょいと歩きだす。こんばんはと会釈して俺の前に座る。隼斗とグータッチを交わしたあとに二人でニコニコと語りだす。
……。

 この身長も体格もバストも平均的二十代日本人女性こそが、与那国三志郎の本当の姿。染めてない今どきのミドルヘア。細い目に大きめな鼻も、容姿が平均を大きく(と付け足さないと。食事代全部持ちだし)上回るとは言えない。


 ちょっと省略して、わずか一年足らずでダミーの辣腕マネジメントにグローバルに丸投げして利益の九割を慈善団体に寄付するまでに至ったステルス投資家には見えない。

 さっぱりしたカジュアルシャツとスカートと言い、エンタメ系専門学校を中退したフリーター? と答える人のが多いだろう。


 あり余る金運財運の代わりに、目を覆いたくなる“不運”がペナルティで与えられる人にも見えない。一人で歩けば工事現場から鉄骨が落ちてきたり、一人でいる交差点にトラックが暴走してきたり、一人で公園にいればトラックが暴走してきたり、でもミラクルな悪運のおかげでいずれも全治一ヶ月で済んで、それを笑って済ませられる人間には見えない。


 “勇魚(いさな)”と“”と“寛容”――。スケールがでかそうな特性を授かった人間にも見えなかった。

チラチラ
 俺をちらちら見ていた蒼菜が、ようやくしっかり顔を向ける。

智太君、いつもありがとう。

自分からは意地でも挨拶しないなんて、さすがはレッドだね。今日は隼斗君の退院祝いとモスガールジャーの慰労会。上座の向かいでふんぞり返る新入りの、ようやくの歓迎会もかも。飲みほ食いほだから遠慮はなしでね。


それと、ここのオーナーは私。この部屋はクリーニングしてあるから、なんでも口にだしていい。布理冥尊のくそ野郎とか、百夜目鬼(どよめき)くそ大司祭長め、貴様の首はいつまでもつながっていないからな。本宮で震えて寝ていろ。

とかいくらでも叫べる


カラカラ、カラカラ

……。
茜音っち、私の目がうるんでいる?

智太君は、昼間のバイトが牛丼屋しか見つけられなかった、イケメン偏差値が50を大きく上回らない地味な大学生にしか見えない。

やっぱり彼の報酬は私には通用しない。だって私は生まれてからアニメとゲームの男性しか好きになったことないから

分かったから早く乾杯しろよ。十五分も待たせているんだぞ
 間仕切りの向こうで司令官を叱るアメシロの声がした。
グヒヒヒ
……。
 藍菜の後ろに控えるボディガードの、俺を見る目が薄気味悪い。
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登場人物紹介

相生智太

=スカシバレッド

スカシバレッド

=相生智太

清見涼

=エリーナブルー

エリーナブルー

=清見涼

睦沢陸

=シルクイエロー

シルクイエロー

=睦沢陸

壬生隼斗

=スパローピンク

スパローピンク

=壬生隼斗

夏目藍菜

=与那国三志郎

与那国三志郎

=夏目藍菜

木畠茜音

=アメシロ

アメシロ

=木畠茜音

陸奥柚香

=白滝深雪

白滝深雪

=陸奥柚香

竹生夢月

=紅月照宵

紅月照宵

=竹生夢月

深川蘭

=紫苑大夫

紫苑大夫

=深川蘭

相生桧

=智太の妹(従妹)

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