12 土曜日のおそい朝
文字数 3,060文字
不安が的中した。
紅月は変身前から魔法らしきものを普通に使っていたよな。靴を履かずにバイクに乗って帰ったよな。靴下だけと気づかなかったのか、気づいても平気だったのか。どちらにしても規格外だ。
妹の身が危ない。俺が責任をすべて背負って、かつ早めに謝罪するべきだ。でも正直怖い。三人がかりで拷問されたらどうしよう。
ふと紅月の天真爛漫な笑顔が浮かぶ。俺ぐらいかわいくて綺麗なくせに気どりもせず、俺の前で着替えだすし……俺も女性だったのか。
おかげで昨夜双方とも目前で確認したから分かる。胸はE対Bでスカシバレッドの圧勝だ。でも戦闘能力は足もとにも及ばない。おそらく瞬殺される。
ゆえに問題はどちらがかわいいかだ。ここまで一勝一敗だから、それでレッドとしての優劣が決まる。正義の女性ヒーローには力だけでなくビジュアルも必要だから。
俺になつきまくりの雌の黒猫を即座におろす。スマホだけ持ち玄関に向かう。妹を
玄関を開けると汚そうにスニーカーをつまんだ女が立っていた。
ちょっと小柄。大きめな不織布マスク。短めな金髪に黒縁眼鏡で深めに被った赤いバンダナ。裾がビリビリの太もも露出パンツ。
こいつは誰だ? 黒色タンクトップの肩には『Snow girl』のタトゥー……。
雪月花の雪だ。私はあの二人と違い慎重だから、変装みたいなものだ。
お前の情報は本部から聞いた。私は慎重だから、一般回線で連絡しまくるお前たちに電話などしたくないので直接来た。
夢月の服を返せ。ネットフリマに出品してないだろな?
……たしか白滝深雪だったよな? スカシバレッドを温かい雪の結晶に包みこんで回復してくれた人。
巫女のときとイメージが、知床と池袋ぐらい違う。あの場にふさわしくないほど清楚でいい香りをさせていたし、そもそも……。
夢月……。竹生夢月。超越紅色である高校生の本名。手のひらから光を飛ばす
まずいことになったぞ。
睨まれて、コケライトの悲鳴を思いだす。背が低い女性であろうと極めて怖い。
……でも、顔の大部分を隠しているから、子猫みたいな瞳が強調される。やっぱりこの子は怖いけどかわいい。絶対に清楚なファッションのが似合う。
私の本名は
梅雨の盛りに生まれた相生さんと違い私は冬至生まれですから、まだ十代ですけど私も大学生です。相生さんの学校、滑り止めで受けています。もしかしたら同じ学校だったかもしれなかった……。
深雪っぽい口調になっていたね。ヘヘヘ
本名が柚香……。
俺たちはシークレットな存在だと聞いているから、コードネームがあるのは仕方ない。でも使い分けるのは面倒だ。しかし、俺の個人情報流出しまくりだぞ。
それにしてもこいつは変わっているな。ネガポジ反転したみたいに、マスクを握りしめて目を輝かせて俺を見ている。まるで小学生の頃の桧みたい……。
あっ。
老けているから高校生じゃないですね。それより、お兄ちゃんと私の家の前で汚い靴を持って立ち尽くさないでください。あの臭い制服はあなたが大昔に着ていたもの?
樟脳の匂いのことでないですよ。若く見せようと無駄な努力のために引きずり出して三日ぐらい洗いもせずに着続けたのでは?
襟が汚れてくたびれていたから捨てました。それと兄に色目を使わないでください。智太お兄ちゃんはピュアな人ですので
桧に圧倒された柚香があとから付いてくる。
再認識できた。過去に彼女ができても長続きしなかったのは桧のせいだ。つまり俺がまだ
……ということは、あの子も