05 変身でなく転生
文字数 2,839文字
当初ということは、最近は敵も見慣れたのか。昨夜のレッドの体の切れや力を体感したかぎり、精神エナジーの具現した形状はなんであっても変わりなさそうだけど……男の姿に変えてもらう訳にはいかない。会えなくなる。
茜音が小馬鹿に笑う。
空に浮かんでいた連中のことか。Aランクだろうと正体が男ならば興味はない。
向こうに選ばれるのは悪しき心を持つ連中。性悪説でもないけど、そっちに心が片寄る人のが多いから、向こうは無尽蔵に手下を集められる。
その代わり、精神エナジーの弱い者が多い。本部が捕虜を調べた結果、中級以下の戦闘員は転生された記憶さえない人もいるみたい
向こうは国家権力も使える。こっちは単なるレジスタンスだと認識しておいてね。
雪月花などの他チームと違い、私たちは自分から変身できない。碧菜が司令をださないと転生できない。つまり、いまの状態で公安に囲まれても立ち打ちできない
こいつは変身しても飛んで逃げるだけみたいだが……。俺たちは変身でなく転生か。転送されて生まれ変わるって感じか。
大事なことを言っておかないと。
他人と接しているときはもちろん、多少でも注目を受けているときは転生されない。だから現地に現れるのにタイムラグが発生する。全員揃わないうちに任務が完了したことも昔はあった。
そうは言っても、私も元カレの部屋で一人シャワーを浴びている時に転生させられたけどね。済ませば私に興味ないんだと知った。
夜間のバイトはやめて、家でひっそりしているのがお勧めだよ
そう言って俺を上目遣いに見る。空になったアイスオレを音をたてて飲んで、照れ笑いする。
たしか昼呼ばれることがあるとも書いてあったよな。これは生半可な心でやるものではないかも。
碧菜のメッセージにも書いてあったでしょ。私たちはこっちの世界でも仲良くやっているって。それって実は、裏切られないように逃げだされないように、こっちでも拘束しているのかもね。
私があなたに早々に会った訳がわかる?
名前の由来? このチームの最初の名称はモスレンジャーだった。
私が初めて転生したときは、まだ碧菜しかいなかった。で、最初の仕事は二人で名前を考えることだった。私はオウムになって怯えるだけだったから、『私の外見に合わせて昔の怪獣映画と日曜朝の特撮番組を合体させない?』と言う親父姿の彼女の案に従った。
『モスって蛾ですよ』と余計なことを言ったため、私の名前もそのとき決められた。藍菜っ葉も当初の少女漫画的きらきらネームを与那国に変更した。
メンバーを女で統一しようと、知らぬ間に本部へ改名届を出していた。
悪い人間ではないけど、とにかく馬鹿
彼女は七月の日差しを浴びたままで俺を見つめる。
たしかにそんなことがあった。でも、轢かれて痙攣する猫を助けるなんて誰でもするだろ? 俺の白シャツが赤く染まっていたからか誰もその子を受けとろうとせず、仕方なく抱えながら轢いた車を追いかけて、途中で行き先を動物病院に変更して無事に命を救って、そいつが今も家に居着いているなんて、普通だろ?
それぞれの行き先ホームに別れるところで、茜音がはにかんだように手を振る。せっかくだから仲間の一人に会おうとのことだ。一緒に昼食という誘いは断った。学食で一人食べるのが楽だ。
誰と会うにしろ、あのままの姿であったらと、一縷の望みを残しておこう。