司令官から命令がくだされた。俺はドアへとソードを交差させる。
全身があふれだす正義の光を喰らわせる。単身突入してさらに浴びせる。
グリーンがVサインする。
悪しき精神エナジーのみを倒す赤。コスチュームを着ていない戦闘員は傷つけない。
『深雪はレッドとともに屋内掃討。他の四人は四方を見張ること』
黒神子がつんとしながらやってきた。彼女のシルバーヘアは黒いコスチュームにこそ似合うかも。うっとり眺めたいほど綺麗。
深雪は立ちどまることなく先に進む。
俺は彼女の背中を追う。……強い敵がいないかな。そいつから守れば、すぐに仲が戻るかも。
でも残存は生身で凍った敵ばかり。
深雪はそれぞれの首筋に唇を当てる。精神エナジーだけを吸いとる。
ここまでは戦闘員だけ。吸われた奴らは良くない目覚めを迎えるけど、記憶を失いもはや召集されることもない
口もとをぬぐいながら素気なく言う。
弱く動けぬ敵からエナジーを奪って倒す……。正直にいうと、千年の恋が醒めるほどえぐい。気にならない振りをする。エナジーの強奪ではないし、ある意味人道的だと思い込む。だから、へへへと笑ってほしい。
一階と二階を一周りして、三十数名のエナジーを吸収した深雪は、なおも時空を凍らせ続ける。建物内で動いているのは、彼女とスカシバレッドだけ。
『地下室があると思う。まだまだ吸血鬼の真似事ができそうね』
使い方が正しいか分からないけどモスウォッチに怒鳴り、彼女へのポイント稼ぎをする。……深雪へもっと話しかけたいのに、音声も画像も司令部へと筒抜けだ。彼女も黙ったまま。
今夜が終わったらしばらく会えないかも。そんな不安がしてきた。でも、それより…………?
スカシバレッドの野生の感。ソードでアルミ棚をそっと切り裂く。地下への梯子が続いていた。
赤い閃光のあとに、スカシバレッドがふわりと降りる。
地下は四部屋とトイレ。正義の光を浴びせながら一つ一つ漁る。会議室兼食堂、娯楽室兼拷問室……。悪の組織の匂いが漂う。
宿直室らしき部屋には、生身から着替えたらしき上級戦闘員が四名凍っていた。
時空を凍らすのはエナジーの消費が激しい。補充がないならあと三十秒で解除する
ドアを開ける。室内を正義の炎で蹂躙する。私服が五名いたが、三名が消滅する……。つまりそいつらは精霊の盾をまとった幹部。
残ったのは男女一名ずつ。生身の戦闘員か、レベル100以上。
深雪がちょっとだけ浮いて、男へと背後から抱きつく。
首筋に八重歯を当てる。
俺は凍ったままの女を見る。同年代……ぼちぼちかわいいかな。背丈が170あるくせに愛嬌ある系だ。服装は腕にチェーンを巻いたハードなゴスロリだけど、胸はデカいし形もよさげ。黒髪の横に黄色にメッシュを入れていて…………
深雪が男の首筋から口を離す。 その両手に、神楽鈴と御幣が現れる。
エナジーを吸い尽くされた男(の精霊の盾)へと無数の氷柱を刺してから、女へと歩む。
凍った真似してました! 降参します!
私はレベル105しかない親衛隊です。特性が“極寒”なので凍りません。もう一つは“愛嬌”です。コードネームは岩飛作務子。精霊になった名前は“南極トビー”。
……コールドレッド。私を一度見逃してくれたよね。もう一度お願い
東京湾に飛びこんだ2メートルを超す巨体のイワトビペンギン……。スカシバレッドは思いだす。柚香と品川区の水族館にデートする約束も思いだす。おそらく延期か中止だ。こいつらと本部のせいで。
『駄目だ。親衛隊ならば連行する。スカシバ君から本部へのお詫びの品としよう』
テ、テロリスト本部はやめて。私は二十一の女の子だよ。お、落窪さんはあんたらが匿っているよね。私もお願い! そしたら重要なことを教えるから
……親衛隊六名がここへ向かっている。うち四名は西日本担当の最強チーム。
先遣隊の二名はもうじき到着する。そいつらは九州テロリストが消滅したから、島人ランドから来た
沖縄? 一度遠征したことがあるけど、嫌な予感がする
来ない来ない。
もう一つ、いいことを教える。黒岩さんはすでにレベル200じゃない。それ以上だ。私たちは規格外の方々も数値化し始めた
俺も深雪も強くなったけど、敵もさらに強くなったってわけだ。……親衛隊六体相手だと勝ち目は微妙。
『ミッションを完了させる! 二人は捕虜を連れてすぐに撤収して!』
司令部もそうお思いのようだ。アメシロが懸命に鳴くのに。
『布理冥尊二体! 植物みたいな大蛇に結界を破られました!』
『各員グリーンの援護にまわって。屋内の二人も急いで。
識別完了』
名称 ウボツラヅラ
所属地位 親衛隊
特性 靫葛 鱓
ライフ 183/183
コンディション 99%
レベル 181
ボーナスポイント 100
特記 単体時でBランクチーム上のみ対応
名称 バクサー
所属地位 親衛隊
特性 獏 三線
ライフ 120/120
コンディション 99%
レベル 148
ボーナスポイント 160
特記 Bランクチーム上のみ対応
180越えの親衛隊かよ。松の結界を破るほどの強敵。スカシバレッドと深雪が共闘すれば勝てるだろうけど。
ピンクを守れ! 奴は報酬を吸いとる。そのため紅月は生身で月明かりをだせなくなった
報酬をだと? ……たしかにスパローピンクの健康を奪われるのは避けるべき。というか、竹生夢月は制服姿で月明かりをだしていたのか。増水した荒川を渡りきれなかったとしても、その存在を人間とは言えない。
『ライフ値は減っていない。……でもコンディションは低下している』
『まだ慌てるなってことだ。腐れ失礼深雪君。ウボツラヅラの攻撃は?』
金輪際その言葉をつけるな。
噛み砕くか消化するか。前者だと手遅れだから、おそらく消化。防具などを溶かされて全裸になり捕らえられる。時間は数分
深雪は俺のモスウォッチへと怒鳴り、岩飛へとふわりと浮かぶ。
キラメキグリーンを殺さないのは、本隊が来るまでの時間稼ぎだ。スカシバレッドはバクサーの相手をして。あなたの望んだ敵かもしれない
女親衛隊員が涙を流す。
大事な情報を提供してくれたのに……。
モスウォッチが慌ただしい。
俺こそ早く行かないと。
スカシバレッドは岩飛を見おろす。こいつはエナジーがスカスカ状態。
布理冥尊である若い女性に言い、背を向ける。深雪の後を追う。