34 畏き畏き
文字数 2,819文字
清め給へ、囲み給め
その声とともに、サント号が見えない何かに衝突して揺れる。
生身の夢月がうめくけどスカシバレッドは何もできない。
アギトゴールドの手から小銭状の光が飛び散り、結界が消失する。サント号が動きだす。
黒髪のおかっぱ。神楽鈴を手にした白装束の深雪が円盤に着地する。捕らわれた二人を見る。
頬を腫らした夢月を見る。
巫女が黒い光に包まれる。
黒神子が二度唱え。
三つ重ねにする。
寒々しい空気。鬼窟のごとき暗渠な結界に、サント号が再び閉ざされる。
アギトゴールドが山吹色の光に包まれる。クワガタ柄の浴衣娘になる。
銀色の光。レアシルバーがタガメ柄の浴衣娘になる。その手に銀色のグローブが現れる。
黒い深雪がトリオスの二人をにらむ。その手に祓いの御幣も現れる。
結界の天井に巨大な氷柱がいくつも生える。
俺と夢月を吊るすクレーンを氷柱が襲う。
アギトゴールドがサント号をよいしょする。強化されていく……。
ガードしながらの突進。深雪はふわりと浮かぶけど、レアシルバーも飛んで追う。
レアシルバーの強烈なラッシュが、みずから作った結界に追い詰められた深雪を襲う。
彼女は武闘派ではない。いきなりボコられる。
こんなの見ていられるか。なのに。
夢月は叫ぶだけ。
俺も叫ぶだけ。
円盤の上に落ちた深雪の背をアギトゴールドがソードで浅く刺す。
深雪が悲鳴をこらえる。
そう言って、アギトゴールドは深雪に背を向ける。
この二人はいい奴だ。任務に忠実なだけだ。悪いのは俺と夢月だ。だとしても。
俺は体に力を込める。
空に人の胴ほどの氷柱がひとつだけできる。
ソードを頭の左右に構えてのスクリューしながらの突進。
その声とともに氷柱が割れる。そこから白色のコウモリが現れる。洞窟から飛びたつように湧きあがり、トリオスの二人を襲う。
コウモリはさらにさらに現れる。
アギトゴールドの回転する体はコウモリたちをはじき飛ばす。
レアシルバーは埋もれていく。
深雪が神楽鈴を鳴らすたびに、コウモリたちがあふれだす。
アギトゴールドの金色の光がコウモリを消す。
バサバサ、バサバサ、バサバサ
バサバサ、バサバサ、バサバサ
バサバサ、バサバサ、バサバサ
バサバサ、バサバサ、バサバサ
バサバサ、バサバサ、バサバサ
バサバサ、バサバサ、バサバサ
コウモリはなおも湧いてくる。アギトゴールドは黒神子へとたどりつけない。
レアシルバーがコウモリの中から声をだす。
黒い深雪が御幣を祓う。
アギトゴールドが耳を押さえてしゃがみこむ。
アギトゴールドは小刻みに痙攣している。返事もできない。
白いコウモリだらけのレアシルバーがよろよろと立つ。
サント号の表面から湯気が立ちだした。
深雪が生身の夢月を祓う。
円盤表面がお好み焼きができるほどに、いや焦げるほどに熱していく。白いコウモリが落ちていく。結界内が赤くなっていく。……夢月のジャージが溶けてスカシバレッドの肌に張りつく。
黒い深雪が揺らぐ熱気の中で叫ぶ。御幣と神楽鈴を交差させる。
レアシルバーが茫然と黒神子を見る。目を剥きだしながら体が粉になっていく。消えていく。
消滅していくサント号の上で、深雪がよろめく。それでもなおも祓う。
消えたサント号から落下しながら、アギトゴールドも粉になる。消滅する。
白巫女に戻った深雪も落下していく。
かぐや姫が追いかける。
スカシバレッドは柚香を姫に任せて、自分の体を見る。……コスチュームまで焼けてしまった。ダメージは上乗せされる一方。かわいそうに、俺のせいだ。