私と焼石はここで寝なおした。……何かあったら、ここへ迎えに来てね
深雪の温かい結晶の中で眠ってしまった。誰も起こしてくれなくて、目覚めたら明け方の沖縄だ。
スカシバレッドのコンディションは全快している。ライフ値は……肌とコスチュームが復活すれば充分だ。
おお
ちなみにさあ私さあ生身でさあミカヅキ乗ってもさあ平気
結界で隠されたミカヅキは米軍キャンプの隅の隅に着陸する。
ス、スシ……、ス、スカンジナ……スカシバはさあ、仕方ないけどね
こいつは悪い奴じゃないかも。思ってはいけないことを思ってしまう。
おっしゃるように、
魔女の仕業で私は相生智太に戻れない……。
……。
……。
…………。
彼が最後に着ていた服はなんだっただろう……そう言えば、いまさらだが。
私じゃなくて彼はどこにいる? 本物の相生智太はどこ?
説明受けていないの? 智太君はスカシバレッドの中にいる。
正義の味方は、その人の精神エナジーが表面に現れた存在
深雪が言うけど、初期に茜音の話を聞き流したかもしれないけど、理解困難だ。深雪の顔を見ると、彼女もよく分かっていないようだ。
さすがに解除して欲しいけどさあ、みんなも私を信じたのだからさあ、そのままで仕方ないか。
でも夢月はさあ、制服に戻って。怖いから。
深雪さあ、結界を消して
焼石がまた歩きだす。
制服女子高生はともかく、巫女と露出系コスプレーヤーに早朝の米軍基地を歩かせるのか? しかし焼石の先導でたどり着けて良かった。在日米軍相手に強攻せずに済んだ。
魔女は緑色のじょうろで、テラスにある観葉植物に水をあげていた。結んだ白髪。皺を隠さない淡いメイク。ベージュの長袖シャツに紺色パンツ。
……焼石。あなたの任務はテロリスト本部の所在確認。可能であれば、与謝倉凪奈の奪還でしたよね
前線にさあ任せていただきますとさあ、作戦は常に変わります。
無警戒に飛ぶミカヅキを見かけたらさあ、あなた様がさあ以前言ったことを思いだしてさあ、これがさあ最善とさあ思いましたかな、どうかな
……それだと作戦必要なくね? それすると上の人間必要なくね?
でも私に相談すべきでは? せめて事前に連絡すべきでは?
もしかして、これは焼石の独断だったのか?
魔女が庭にいる三人を見つめる。三人は魔女をにらむ。
龍は媚びない。でも、なるほど、揺れていますね。
雪月花の雪でしたっけ? その子は龍に従います。
だが、偽の月からは私への憎しみしか感じません
お祭り娘が現れるより早く、焼石が赤いマントで身を覆う。
レイヴンレッドが魔女の前でレッドタイガーソードをかまえる。
紅月、ほかの二人が戦うために来たと思うのか? 可能性のために来たのだろ?
クイックモーションで空を抱えた。そして水平に放つ。
広がる直前の紅色の光とぶつかり合い、ともに消滅する。
衝撃で、俺と深雪は数十メートル吹っ飛ぶ。
観察完了十五夜といえどもモーションが小さいと威力が弱まる。加減したからではない
偽の月よ。心のどこかで躊躇しましたね。それでは滅びの光と言えない
紅月、ルビーソードだ。背後からの闇討ちを狙え。援護する
浮かびあがったスカシバレッドの手にスピネルソードが現れる。
ち、違うべ! 戦うだめに来だのでね! ……来たのではないでしょ
彼女は転送させました。さあ、互いに身を削りあいましょう
魔女が両手を空へとひろげる。おそらく楽園の結界。
この女は好戦的だ。聖女なんかではない。いい年してスイッチ入っているし、まるで夢月みたい……。
深雪の言うとおりです。あなたに二度目の死を与えるのはまだ我慢しましょう
そのために俺は来た。連れ戻すために来た。お姫様は直情的すぎる。魔女もそれに付き合うな。
百夜目鬼が俺たちを眺める。その手を降ろし、スカシバレッドを見つめる。
おそらく偽の月はあの子と戦いだす。あの子は引き下がらない。
雪は偽物を助ける。
その時に、あなたはどちらの味方になる?
えーと。果たし合うと宣言していたよな。だとしたら。
魔女が俺たちへと歩む。スカシバレッドへと手を差しだす。
桧こそ月というならば……近いのに届かない存在みたい。でもそんなはずはない。
俺にとっての月は夢月だけど、
陽の光が差し込む、洒落た洋風の二階の部屋。観葉植物。白いベッドと白いテーブル。椅子が四脚――。さきほどの庭を見おろせた。
紅月と深雪があたふたしているのが見えた。
魔女が先に手を離す。
あの二人を楽園の結界に閉じこめたままでした。しばらくすると太陽に飲みこまれますから、結論を急ぐべきですね
妹の声がした。レイヴンレッドとともに部屋へ入ってくる。
レイヴンレッドはトレーナーとジャージを持っていた。……えんじ色。どう見ても高校時代の体操着だろ。
魔女が腰かける。変身を解除する。
レイヴンレッドがその背後に侍る。
スカシバレッドは座らない。