03 孤島の巨樹
文字数 4,285文字
微笑む隼斗を俺はやや見上げる。こいつは並ぶことなく俺の背を越した。じきに180センチをオーバーする。顔立ちは甘く髪はさらさら。中途入部で練習さぼりが多いのにサッカー部のエース。こいつはこれからの人生をモテまくる。
しかしまずいことになった。
あれの部屋はぐちゃぐちゃで、見兼ねた桧さんが掃除した。
役割分担は何もしない。料理当番だけはするけど途中で飽きる。
食事中にテレビにユーチューブつなげて踊りだす。
風呂は長いし、湖佳ちゃんが入っていても追いだそうとする。
ゲームに割りこむ。
リビングでいきなり寝る。
夜にいきなり走りに出掛ける。
気にいらないとすぐに変身する。
さらにはトイレで
夢月の意味不明の野生の感。なぜここに現れられる。制服姿で、にこにこと俺に張りついて座る。何度でも一目惚れできる妖精の瞳と凛とした面持ち。
でも真顔で隼斗を睨む。
夢月が立ち上がる。
誰もが強くなりたがっている。男同士で抱き合って裸になることを拒絶しないぐらいに。
ぽん酢のロースカツ膳をいただきながら、俺が提案する。中二の運動不足二人は生身で特訓させてもいい。
夢月の箸がとまる。
眩い光が発射される。
紅い朝が来た。寝床の水鳥たちがおはようと挨拶を交わす。水平線にタンカーが映しだされる。巨大な光弾はオゾン層を破壊して宇宙に消える。
あの女とは白い魔女。奴の白色光フレアは、夢月だけを倒して他を傷つけなかった。あれがあれば、市街戦でも喰らわせられる。
それよりも、夢月のレベルは落ちたのに精霊は大きくなったよな。でもヒヨコは雛だよな。いまだ鳳雛なのか、それともこれが最終形なのか。……おそらくもっと強くなるはずだ。でも、あの姿で戦わせない。竹生夢月には、かぐや姫やお祭り娘、スク水姿が似合う。
追尾型の鎌状の紅い光が、いきなりスカシバレッドに襲いかかる。
俺の手にスピネルソードが現れる。
高速で飛びながら放たれる巨大な光と追尾する光の競演。
スカシバレッドはすべて避けるのをあきらめる。ジャンボジェットの胴体ほどもある光からだけ逃れる。紅い鎌に体を次々裂かれる。
0.76秒の間に俺は思う。レイヴンレッドのごときコンボ技。彼女は以前より強くなった。つまり、俺また死ぬかも。
スパローピンクが小枝のような矢と桃のような破裂弾を放つ。
紅月は避けようともしない。
ルビーソードを構えたスク水女がミカヅキで追う。
スカシバレッドはソードを交差させる。
一時より明らかに弱い光。でも速度は落ちない。
紅月が振り返る。握りこぶしを向ける。
スカシバレッドは必死に叫ぶ。
闇から茶色い矢と桃色の破裂弾。紅月は気にもしない。ハウンドピンクにいて欲しかった。
だとしても。
上空からピンク色の光弾が紅月の前で破裂した。彼女が瞬間ひるむ。
馬鹿め。
スカシバレッドはミカヅキへとたどり着く。
そして残忍に探る。こいつの弱点は…………ないだと?
それでも赤いXを叩きつけつける。
叩きつけられないだと? 発射されないだと? レベルが落ちたから?
違うに決まっている。夢月相手にだせるはずない。
死ねだと? うっ……
百の太刀に値するソードで腹を貫かれながらも、スカシバレッドは紅月に抱きつく。
目を細めて微笑んでくる。俺にまたがっている。
俺は目がまわる。力が入らない。おそらく死ぬ直前だった。
夢月が力を抜いて優しくのしかかる。二人はベッドから靴を落とす。
やがて二人は逆になる。目をつむるお姫様を見おろす。すべて許す。
でも思いだす。
新月の夜、ここで嗚咽した人がいた。
二人のせいだ。
だけど抱きしめる。開けてとクロ子がドアをひっかいている。