01 修羅場ハーレム
文字数 2,986文字
静かだけど、かすかに波がコンクリートをさする音。重油っぽい潮の香り……。
目が覚めたら、真っ暗な倉庫街だった。先ほどの夕立のためか、アスファルトには水たまり――。
黄色いシューズに踏まれて、女の子の顔は波紋に歪み消えていく。
まばらな街灯に照らされて、俺は泥水に膝をついていた。半露出した美女三人に囲まれていた。
その後ろで立ったまま腕組む一人は、背高く青色のコスプレで黒い長髪。体形は隣の黄色に比べると細身であれだが、知的なたたずまい。
夜に豹変しそうな美人女医様が、眼鏡越しに二十歳の大学生を見おろし観察している感じ。もう夜だった。すでにへそ出しスタイルだ。
最後の一人は小柄だ。ピンクのコーディネートで、もじゃもじゃヘアに至ってはショッキングピンク。
風船が枝にかかっちゃったのでとってください。みたいに、黒目がちな瞳に期待と望みを浮かばせて俺を必死に見つめている。小柄でおさなげな体だけど、俺は生育されたバストの谷間を覗きかける。辛うじて逸らす。
質問に答えず、シルクイエローと名乗った女も立ちあがる。闇の向こうをにらむ……。
俺は何故ここにいる? 露出の強いコスプレ女達に囲まれている? 駅のホームでスマホをいじっていたら、俺の上に白色の光の渦が巻きだして、驚く間もなく包まれて……。
エリーナブルーの手に軽機関銃が現れる。俺は腰が抜けてまた座りこむ。
イエローがウインクする。その手に現れた槍を構える。
その向こうに遠目でも筋骨隆々な男たちが五人いた。そのほとんどは顔までぴったりと覆った黒色のユニフォーム……。刀を持っているぞ。
三人の声が重なる。
エリーナブルーが空高く跳躍する。月明かりに照らされる。シルクイエローが闇を裂くように突進する。
男たちは刀を振りあげて俺たちへと向かってくる。奇声を上げている。
……これは夢じゃない気がする。俺は自分の目をこする。柔らかい指が柔らかい肌をさすった。
浜風が吹いた。肌に風を感じて、自分を抱いてしまう。
ぷに、ぷに
柔らかいものがふたつ当たった。おのれの体を見る。尊いほどに肌を見せた赤いコスプレ衣装。
連続する銃音が
どこからか黒色のマントを取りだし、身を包もうとする。
傍観者であった俺は立ちあがる。――俺を見て、男どもの空気が変わった。知ったことじゃない。
いまどき実写メインなんて、どれだけ予算がないのだ。野郎どもが俺を凝視している。撮影の邪魔だと言うならば帰らせてもらう。
先頭の男から怒りのオーラが漂う……。違う? 怯えている? 俺に?
上空からブルーが男めがけて機銃掃射する。ピンクが弓を連射する。イエローがマントを槍でメッタ突きする。
このタコ殴りは通報レベルではないか。なのにスマホがなくなっている。黒色の男たちももういない。
だったら俺が、あの朱黒の怪しい男を助けなければ……その気が起きない。
ピピピ、ピピピ
俺の腕から電子音がした。でかくてダサい腕時計をはめていた。
年輩の男の声。関係者だな。
いま起きていることすべてが意味不明だが、関わるべきでないことぐらい分かる。
なのに体と心がうずきだしている……冷静になろう。早く帰ろう。
地面のマントに向かって、青色女が空から掃射しています。黄色女が乳を揺らしながら槍で刺しまくっています。ピンクの女の子が手のひらから矢をだして、ひたすら連射しています
ピンクが俺の横で青ざめる。ひと区切りついたのなら帰らせてもらいたい。
言いながら、なにかを感じとる。ピンクを抱き寄せジャンプする。
ドカアアンと足もとのアスファルトが爆発した。
ピンクが俺に称賛の目を向けているが、俺は俺たちのいた場所を凝視する。割れたアスファルトから人が現れた。
上半身裸の褐色肌のドレッドヘア男が俺をにらんでいる。これこそ関わりたくないので、俺は空で目を逸らす……。俺、浮いている?
ピロリンと、秒読みしていたスマートウォッチから音がした。音声が発せられる。
――識別が完了しました。
名称 トンネラー
所属地位 メインランド埋立区副支部長
特性 銅 土
ライフ 68/69
コンディション 99%
レベル 80
ボーナスポイント 不明もしくは0