２０ 生死の目安
文字数 3,617文字
籠手からのライトに、跡形もなく爆破された残骸が照らされている。その奥では半壊した金属ケースから、金のインゴッドと現金があふれ出ていた。さらに奥にも同様のケースが山積みされている。テニスコート大のスペースが埋め尽くされている。この炭はダイヤモンドだったかなと、傭兵が袋の中をペンライトで照らす。
偽物を土中深くに隠すはずがない。アイルランド人が作る圧縮された高位エナジープラスチック爆弾しか通用しない金庫に隠すはずない。
モスウォッチが鳴る。
傭兵たちがなじりあいながら崖をよじ登る。
俺はひと足先に仲間のもとへ飛んでいく。……本当の地獄は空からやってきた。
……仲間うちのひそひそ話と虫の声にまぎれて、人の声がした。
ブドウ畑の農道を男女２人がやってくる。中年男はぎょろ目の細長で、中年女はこぶにひっつめた髪型のラガーマンの体躯。どちらも田舎の飲み会から抜けでたような格好だけど。
おばさんが立ち止まり、ぎょろ目へと口を開く。
しかしあれだけ奥深く隠したのに、敵ながらよくぞ見つけた
雪月花は九十九里浜と情報が来ている。それに赤い蛾は、温泉ランドでやられた奴からの情報だと３０いくつだった。せいぜい今は４０前後だろう。
案じないでテロリストどもを空から
ブルーがモスウォッチをマナーモードにするように手振りする。
二体だけで１８０オーバー。傭兵たちは地方幹部数体を想定していたけど……
スカシバレッドの体がうずいてしまう。
レッド冷静に。
雪がたしか１５３。あのゴリラみたいな女だけでも、身も心もバテきった巫女の相手するようなものですよ
柚香だって化け物じゃないか……。
深雪はライフが一桁でも時空を凍らした。一人ずつキスされるのを待つだけだ。しかも
銀山が黒いマントをかける。その体が銀色に光る。
銀山が体に力を込める。……その体が巨大化して、変形して、二対の羽根を伸ばしたトンボと化す。
私たちは前座だ。鼻息たてずに、こそ泥を逃さぬ程度にやるさ。むしろ
命を大事にいこう
ブルーの嘆息ほどの小声。
昂った俺さえも冷静になる。この子を即死させた奴よりも強い奴が現れる。
命は大事に。任務放棄のペナルティなど知ったことじゃない。十数分以内にここから離脱しないと。このおばさんがいなくなったらひっそりと……。つまり男どもが攻撃されている隙に……。
倒そう。
スパイラルレインボーで
……発射できるのか？ 出たとしても、幹部は精神エナジーの鎧をまとっている。それを消せば本来の肉体を傷つけることなく消滅させられるが、１００超えならば最低でもこれだけ必要だぞ。
はずしたら全滅だ
イエローが首を横に振る。
異形になられる前に、続けざまに当てないとならない。一度も発したことないものを……。
イエローにうながされ、ピンクが隣に来る。
二人が俺の手を握る。
必要なのはレッドのその心。人を守るために手をつなぐ。
桧を守るように……。螺旋の光をだせるに決まっている。
あとは身を削りの三連発だけ。
何も発せられなかった。
佐井木とかいうおばさんが振りかえる。
ゆがんだ笑い顔。その手にマントが現れる。体を覆う。
用法が正しいか知らないけど、俺は走馬灯のように思う。人を守る心だけでは足りなかった。それは、やっぱり俺はチームじゃないから。五人での一年近い修羅場。知りあって半月の四人。こいつらに認められるはずないよな。俺よりもヤマユレッドを今も……。
ふざけるな！
絶対に期待に応えてやるから、
スカシバレッドに預けやがれ！！！！！
スカシバレッドは窮地でもこんな言葉を使わない。でも一方通行では強くなれない。四人で愛しあわないと。桧のように、俺を信じて頼ってくれ！
青色桃色赤色の光が競り合うように渦を巻き、小馬鹿にした顔のサイキックだかに直撃する。
サメ肌のおばさんはブドウ畑を囲む金網を突き抜けて飛んでいく。
……虫が鳴きやんだ。戦いの火蓋。
信じてくれてありがとうなど言わない。態度で示す。なにがあろうと応えてやる。
