27 清め賜へ、強め賜へ
文字数 4,020文字
俺はスカシバレッドの体を見る。切り付けられ、熱波を浴びた。かわいそうに。
でも俺は彼女と痛みも苦しみも共有できる。俺が叱咤すれば、スカシバレッドは立ちあがる。深雪が俺に戦えと言うのだから、俺はおのれを鼓舞できる。
俺もスカシバレッドもまだまだ戦える!
隼斗だって強い。おそらく自分から置き去りになるのを望んだ。
俺をセンターにするために。
スカシバレッドは立ちあがる。姫を守るソードを両手に、祈りつづける人の盾となる。
バシン!
レーザー光を弾く。
相生智太は振り向かない。授かりし力をみなぎらせる。
マンティスグリーンが俺を見る。
深雪のもとへ瞬間移動で帰ってこいよ。
絶対的存在が到着までの時間稼ぎ……。そんな弱き心は力を減らす。俺は落窪さんほど強き心じゃない。
だったら心に炎を燃やせ。
俺がこいつを倒す!
スピネルソードへとエナジーを注ぐ。
巨大カマキリが前かがみになる。
カマキリがうずくまる。鎌が焼け落ちる。
擬態だろうが知るか!
ハナカマキリが力を込める。その背中からツノが生える。その目がより邪悪になる。
目前で、見上げるほどの巨体となっていく。溶け落ちた鎌が手に戻り、巨大に復活する。
悪夢のごとき異形の悲鳴が、秩父どころか比企郡さえも震わす。
スピネルソードは手に戻る。
スカシバレッドが獲物の急所を探る。この腹は鋼……。頭蓋も同じ。でも脳髄の破壊。全てを死点に導く。なぜに守らない。すでに二秒もむき出し。ならば。
彼女は舌舐めずりをして。
目を鎌でかばい喚くカマキリの頭に至近から。
すべてを込めて。
紅蓮の炎とともに十字に斬りつける。
10メートルを超すハナカマキリが倒れる。地響きが丘を揺らす。
人喰いめ!
俺はまだまだ戦える。
二人がやってきた。だから、対のソードを投げて手をあける。背中に刺さり、ハナカマキリがまた悲鳴をあげる。
スカシバレッドが、人でなくなった織部をにらむ。
その手をブルーが握る。イエローも握る。
二人へと布理冥尊への怒りを分かち、逆流して、同時に叫ぶ。
アメシロはまだ緊張を隠せない。
俺たちは、彼女たちと離れてすべきことがある。記憶を消せない女の子。なにより伊良賀紗助……。
ブルーがピンクを抱えて上空へと飛んでいく。
緊張を緩めたスカシバレッドからは、すでに授かった力は消えている。ぼろぼろぼろの体でイエローの柔らかい体を運ばないとならないけど、深雪にお礼したい。
かぐや姫から理不尽ににらまれる。
瞬間値だろうと、こいつと同じで
ツノを生やしたマンティスグリーンの鎌は、俺を一撃で屠る。野生の感がそう
紅月が深雪を揺らすけど、顔を見ただけでいいや。イエローも待っているし。伊良賀紗助も。あの女の子も……。
目を見れば分かると、相生智太をスカシバレッドと見抜いた子。記憶が消えていない子。
こっちだって歩くの精一杯だけど。
彼女を起こす。ぼろぼろの身でも軽いな。小さいな。きっと相生智太が抱えても。
いまからシルクイエローとスイカふたつを抱えて飛ぶよりは……。
黒髪の柚香がスカシバレッドの胸にもたれる。そこから俺の目を見る
強まる雨音に目を覚ます。隣には柚香が眠っていた。
飾りけのないワンルーム。でも女の子の匂いがする部屋。俺は柚香の部屋に送られた。
彼女はまだ眠っている。時計は十時半……。さすが柚香。慎重にも部屋に明かりをつけてでかけるのか。冷房も。二人とも私服だけど靴は脱いでいる……。魔法のしわざか?
短い金髪をさする。柚香がすこし微笑む。悪くない夢を見ている。
このまま起きるまでここにいよう。ここがどこだか知らないし、俺ももう少し寝たい。……ふたりして起きたらキスしたい。
なのに時空にホールが開く。
夢月がシングルベッドにもぐりこむ。俺は二人に挟まれる。汗臭いねと笑われる。だったらくんくん嗅ぐなよ。寝返りうてないほど狭すぎだし。
なんでも柚香の下宿は夢月の家の近くで、ちょくちょく泊まりに来るらしい。ここは世田谷区だけど、最寄りの駅は渋谷区とのこと。
スマホは鞄の中か。机の上にあるけど、夢月をどかすのが面倒くさい。モスガールジャーからメッセージが届いていると思うけど。あの二人はどうなったのだろう……。
どうでもいいや。もうちょっと寝よう。