俺のどこかで激しくバイブする。雪月花のスクランブル……。
そ、そだね。私はリハビリしないと。じゃあ、さようなら
月は授業中だ。現れるのに平均で三分かかる。
柚香、早く取り消せ
蘭さんは言うけど、俺たちのテーブルの上に体操着姿の竹生夢月が現れる。
体育の授業だったのか……。そりゃ何も言わずにこそこそ抜け出せるよなって、そんなはずないだろ! すぐに戻れ!
はあ? 柚香のスクランブルは絶対って、一時間説教を二回されたから急いで来たのに
白いTシャツに紺色の膝上ショートパンツをめくった夢月が蘭を見る。
ついで俺に手を振り、涙の柚香で視線が止まり、そこからずれていき。
春日をにらむ。ハンターの眼差し。 擬態野郎が動揺していやがる。
春日は布理冥尊みたいな顔をしているが、本部の人間だ。
ふっ飛ばしたくなる面だが擬態だ。敵じゃないらしい
仕方ないから教えておく。 声にだして呼び捨てた気がするが、今さらどうにもならない。
仮面ガイアが夢月の太ももを叩く。パシンといい音がした。
夢月が悲鳴をあげる。某国の国旗ほどに真っ赤になる……。涙目になるのかよ!
……おまわりめ。智太君の真ん前で私の肌に触ったな……。
十二単衣にテーブルの上のドリンクが弾かれて、春日にかかる。
かぐや姫が奇跡的なイナバウアーで避ける。立ちあがった春日の顔に当たる。
まだ一単衣にスタイルチェンジしてなかったのか。そんなことはどうでもいい。
紅月さん! 私はかわいこ戦隊モスガールジャーの新隊員。芹澤陽南と申します。
コードネームはキラメキグリーン。特性は“流星”と“向日葵”です。
報酬はもちろん“心の強さ”!
紅月さんのひとつ下です。お噂はいろいろうかがっています!
これからよろしくお願いします!!!!!
やった! 初めての年下女の子だ! こっちこそよろしくね!
チラ、チラ
変身を解除した夢月が芹澤とカウンターの向こうでハグする。彼女の目線から察するにカラオケをやりたさそうだ。二度ほど聞かされたが、かわいい声色だったな。
もちろんそんな場合ではない。夢月が現れ司令官が逃げ、結論ありきだった会議が混沌としてきた。
ガイアさん。こんなに汚れちゃって、きれいに拭いておきますね。
……素敵な体。今度アグルさんとご一緒に非番の昼にお越しくださいね。ウフフ
陸さんの好みは三十代ゴリラ体形なのか。ここぞとばかりに仮面ガイアの隣席を確保している。いらないと言われているのに、司令官のボトルで勝手に水割りを作る。
ガイアさんはトイレに逃げる。清見さんはイライラしているから目を合わせないようにする。
十二単衣のせいで俺のコーラまでシャツに浴びた春日が俺を睨んでいる。知ったことじゃ――。
春日が笑いながら力を込める。……制服姿の桧になった。妹が俺が嘲笑う。
飛びかかろうとした俺に、トイレから戻ってきたガイアさんの大外刈りが決まった。受け身は取れたけど一本だ。
誰にも気づかれずに老人の姿に戻った春日が笑う。
脅しのつもりか。俺はすぐに立ちあがる。
夢月がカウンターを軽々飛び越えてくる。彼女を皆から隠すように覆って抱き合う。
ガイアさんが春日の盾と立つ。その手に端末が現れる。知ったことじゃない。
俺の目を見あげた、夢月が動きを止める。
俺へと怯える。
原理主義どもの相手などするか。喰われそうだ。
深川蘭。どう収まったか本部に連絡しろ。早急にな
春日である老人の手に端末が現れる。老人が消えていく。
店の隅で蘭さんに延々と説教されていた柚香の低い声。彼女は俺でなく夢月を見つめていた。
夢月はよけいにしがみつく。
昼下がりのスナックの沈黙は五秒……。
清見さんが立ちあがる。
この人は仲間だ。涙がでそうになる。
ひとりで大丈夫です。
……やっぱり俺は仮面ネーチャーと組ましてもらいます。ガイアさんよろしくお願いします。
モスガールジャーは深雪を信じてやってください。よろしくお願いします
芹澤が閉じかけたドアの向こうで夢月の声が聞こえた。
本部の方用だったダミーのタクシーがあります。それを使用してください。
また一緒に戦えますよね! 私はその時までにずっとずっと強くなって見せます!
芹澤が道案内をする。
明朗な声。すらりとした背格好。特性まんまの向日葵だ。
俺はうなずくだけ。心が図太いほどに強くなった彼女へと、質問は受け付けないオーラをだしておく。柚香のこと。夢月のこと。原理主義のこと……。俺こそ聞きたい。
コインパーキングに回送タクシーが止まっていた。芹澤が俺をうながし、精算機にコインを入れる。
スマホをいじっていた三十代のドライバーに聞かれる。こいつも本部の人間か。
桧は、俺が卒業した高校に通っている。目的地がばれようが構わない。すでにあいつらは俺の身うちを知っている。正確に模写できるほどに。
タクシーが動きだす。
運転手がバックミラーで目を合わせようとせずに聞く。答えるはずない。
駅のそばで降りる。領収書を頼んだら無料だった。だったら高校までお願いすればよかった。
じきに直属でなくなる司令官へと連絡する。まだ話し中。