06 殲滅戦のはじまり
文字数 2,265文字
土日が終日補習の夢月から、しょっちゅうメッセージが届く。蘭さんはいまも端末をチェックしているだろうか。
通信を終えた芹澤が戻ってきた。
福島まで入ってから言うなよ。しかも俺をハウンドピンクの格下扱いしやがった。その通りだとしても。
それはそれで怖いけど、確認しておかないとならないことがある。
また話を聞いてなかったことがばれてしまうが仕方ない。
襲撃の順番やルートは湖佳が決めてあり、宿などの手筈は芹澤が済ましてあるそうだ。諸々は優秀な年下女子に任せて、俺は戦いに専念しよう。
十三時過ぎに新幹線を下車する。十一月の東北なんて地吹雪が吹きすさぶイメージだったが快晴だった。土曜だから観光客も多いし。というかここがコードネーム将棋温泉か。実際の名は何だろう。女子達に任せすぎて降りた駅名を確認さえしなかった。
湖佳がスマホでナビするあとを続く。たしかにでっかい王将のモニュメントがあった。
芹澤が姿勢よく歩きながら言うけどそんなのばかりだ。
彼女のいる人相手に本当ですか。狙ったわけじゃないよな。
芹澤の口角があがった。ヒマワリもしくは流星の化け物 。そんなのになりたいのか? 不安が押し寄せる。
湖佳がシャッターの閉ざされた民家サイズの工場前を通り過ぎながら言う。両隣は本当の民家。しばらく歩いた後に。
路地で黒ビキニ経由で姿を消すのが見えた。俺と芹澤はコンビニ前で待機する。
十分後に湖佳がセーター姿でやってきた。
どこからか侵入した透明の穴熊パックが、内側から裏口の鍵を開ける。監視カメラも破壊済だ。塗装液と油の匂いがまだ残る。芹澤は表で見張り。
パックに導かれるままに、足音を忍ばせて奥へと進む。
同年代で田舎の悪そうな兄ちゃんたちが、あぐらをかいてバラエティー番組の再放送に笑っていた――
ミシリ
これはうぐいす張り。振り返りやがった。お笑い芸人にいそうな二人。
背後からの奇襲失敗。だとしても。
スカシバレッドのときのくせで、思わず声をだしてしまった。一人の顔を蹴とばす。
靴先が鼻腔に食いこむほど完璧に決まったからこいつは戦闘不能。
もう一人が後ずさる。
穴熊パックは口にくわえたものにも光学迷彩をかけられるらしい。
俺の言葉に、突っこみ役が似合いそうな兄ちゃんが恐怖を浮かべる。
そう言いながらも目で何かを探している。でも銃は見つけられない。戦闘員服に着替える時間も無い。
ポケットから折り畳み式ナイフをだす。投げやがった。野球少年ほどに練習を積んだのだろう。俺の右目へと完璧なコントロール。
俺は親指と人差し指で挟む。
この訛りは……。男がアーミーナイフを持って特攻してくる。
俺はカウンターで顔面を殴る。
崩れたところを腰の入ったミドルキックする。
男はもう動かない。
浮かぶアナグマが姿を現す。
おそらくこいつらは喋らない。本部がやさしく接しない限り。
花鳥風樹を強くするために、湖佳はここにいる。
俺は覚悟を決める。最初に倒したボケ役みたいな面に、バケツで水をかける。
弱い二人はアジトをでる。
芹澤が直立不動で待っていた。