“しゃちほこランドはレジスタンスの再三の攻撃により弱体化しました。それなのに、本宮から増援は来ない。力あるのは支部長の“ネンネコザルX3”ぐらい。それでもレベルは179。
つまりモスガールジャーだけでも倒せます”
布理冥尊を裏切った蒼柳からの情報に基づいた作戦。本部はさすがに俺も参加させた。さらには蒼柳に内緒で夢月も……。残存の力が情報以上であれば、蒼柳には騙す意図がある。
私が支部長の根古田だぎゃー。みんな一瞬でやられて、残ったのはこの四名だけだぎゃー
巻き添えがあったとしても貴様らのせいだからな。
フン、ツカツカ、…フウ
深雪はそう言うと、捕虜たちに背を向けて離れる。小さく息をつく。前線を仕切るのは大変だろうけど、スカシバレッドはオブサーバーだ。意見を求められるまでは口出ししない。
紅月は破壊された屋根の上で待機している。敵援軍が来るのを待ちかまえている。
スカシバレッドは押収したマント四枚を畳む。……一枚は湖佳に、もう一枚は岩飛にいつか渡す。その時期は、桧の判断に従う。
『本部から指令。現在収容施設は満室に近い。なので根古田だけ連行。それ以外はその場で処刑』
深雪が俺を見た。まじかよ、すがる眼差し。俺に手を下せだと……。
捕虜は根古田が四十過ぎで、カジュアルだけど年齢相応にまともな服装。ほかの親衛隊員は二十代後半から三十代男性で、地方都市の不良スタイル。顔のピアスが合わせて十個がいるし、顔に刺青もいるし、靴のかかと踏んでいるし……。
かといって、もはやホットレッドが降伏した捕虜を倒せるはずない。
俺と深雪の動揺に、根古田が気づく。
……?!
お、お前ら精霊の盾を解除しろ。
これでこいつらは生身だ。傷つけられるか?
その背後で一般人に戻った布理冥尊たちが邪悪に笑う。
司令部に告ぐ。生身が三体残る。モスキャノンの照射は中止するように。
えい!
黒神子になった深雪が三人を凍らせる。一人の首筋に唇を当てる。
彼女は体内から精神エナジーを吸いとる。精霊の盾をまとって死んだと同じだけど、生身の体はここに晒される
すべての部下をやられて、俺だけ生き延びられないだぎゃー。
マントを返すだぎゃー。
万が一勝てたとしても、ここで巫女に首をさらすぎゃ
こいつは嘘を言っていない。布理冥尊にもたまにまともな奴がいる。
根古田がマントを体に覆う。三毛猫ぽい毛並みが現れる。その体に力を込める。
2メートルほどの猫っぽい猿になる。
……まさかの三毛猫とワオキツネザルの精霊。
知恵なきもの系の特性ではあるまいな?
三猿の特性を持つ俺には、特殊攻撃は効かざる。そして眠り猫の特性を喰らえ!
ニャニャニャニャニャニャー!
ネンネコザルX3が口から念波を放つ。これは催眠光線?
スピネルソード。スカシバレッドは余裕で跳ねかえす。次の瞬間には異形の胸もとに飛びこむ。
猿っぽい猫へとふたつのソードをクロスさせる。続けざまに。
レベル上位者の最強攻撃を受けて、ネンネコザルX3が消滅する。
報酬はたっぷりストックしますよ。……エリーナが目覚めるまでは
シルクイエローがやさしく悲しそうに俺へと微笑む――。
ファン投票で独走一位が分かった気がした。中身が陸さんでなければ、甘い垂れ目であろうと戦いの中で惚れていったかも。顔面偏差値が上位でも戦地ではえげつない二人よりも。
我々はモスプレイに帰還します。スカシバレッドまた会える日を心待ちします。
ビュン!
キラメキグリーンが直立不動で敬礼する。ピンクを抱えるなり、屋根を突き破り飛んでいく。
ごめんね。私は深雪になってもパワーがあまり増えないんだ。
フワッ
深雪がグリーンの開けた穴からふわっと夜空へ飛んでいく……。 つまり俺かよ。グリーンと別れの挨拶を交わしたばかりなのに。
スカシバレッドはシルクイエローとスイカを二つ抱えてモスプレイを目指す。陸さん相手に貞操シールドを発動させるはずないので、イエローは柔らかいまま。
紅月が機内で朔を解除する。スカシバイクまで運びやがった。逃げる口実がなくなった。
抵抗されたから端から倒した。本部も納得するしかないな。ははは
与那国司令官が豪快に笑う。
病室で本部をぶっ倒すと誓った件。
“もうちょっと布理冥尊をやってからにしようね”
棚上げだ。俺も急かさない。自分より強い敵への多方面作戦は、第二次世界大戦の日本やドイツと同じ結末が待っている。
蒼柳って奴の情報もガセではなかったし。信じやしないけど
私はスーパームーン!
来たきゃ来ればいい。ミカヅキには乗せない
……紅月の深雪への態度。機内のぎくしゃくした空気。ついこの間まで
かぐや姫がモスプレイの中にエアサーフボードを出現させる。
俺はみなに小さく頭を下げる。
相生智太が交わした約束を果たすために、スカシバレッドはミカヅキに乗る。
あの無人島で二人きりの模擬戦をするために。
俺は紅月にしがみつく。東海の夜景が後方に飛んでいく。貞操シールドが発動しないのは、それどころでないからだ。
再びの音速体験。スカシバレッドはふらふらしながら礫岩のビーチに降りる。
星が空にびっしり。辺りは真っ暗闇でも視界良好。
低い草に覆われた岩山から、鳥たちが非難の声をあげている。
やる気に満ちた女剣士が早々に現れる。凛とした眼差し。その手にはルビーソード。俺へと上段の構え。
夢月は西新宿の病院屋上にて、剣による戦いでレイヴンレッドに完敗した。一太刀も浴びせられず、斬られまくり刺されまくった。溢れるほどのライフ値と守備力と、一秒間にライフが1回復する反則の力がなければ、消滅していただろう。あらためて思いだすと、コスチュームは斬られるなり復活していたような……。
なので赤いカラス同様にソードをメインに戦うスカシバレッドに、実戦練習をご指名してきた。本来ならば言い訳を百並べて断る。でも、蒲田の歓楽街のホテルにご一緒してもらったので、約束は守らないとならない。
絶対に月明かりをださない。私が降参したら深追いしない。あなたが勝っても、私に相生智太の姿で戦えと言わない。
それだけは守りなさい
スカシバレッドは五回目の念押しをする。彼女相手にはまだ足りないかも。とにかく月明かりが心配。接近している際に十三夜をだされたら、回避できずに一撃で消滅する……。いまのレベルの俺ならば、二発は耐えられるかも。試さないけど。
かわいい声で叫んでくる。鉢巻きから垂れる髪が女性らしい。
永遠に勝負がつかないから、あなたを三回斬りつけたら、私の勝ち。それでいいよね?
絶対に絶対に絶対に、月明かりはださない
スカシバレッドの手に対のソードが現れる。同時に紅月に飛び込む。