『モスウォッチを貸した意味がないだろ! お前は高校の時も先生にさんざん言われたよな! 男子は媚びてウケていたけど、女子はひいていたからな!』
一斉通信で暴露しないでほしい。でもこれは、重苦しい空気を打ち消すためだ。みんなが絶望の闇に飲み込まれないためだ。さすが学級委員長。
『聞いて。トリオスによる陽動作戦に、ついに大司祭長が登場した。彼女たちはあえて布理冥尊拠点である九州へと逃亡。百夜目鬼は追跡中とのこと。
つまり、ここには魔女は現れない』
それがよいニュースなのか分からない。みなの顔色も青いままだ。仮面ネーチャーラピスの仮面はもともと瑠璃色だけど。
『ライフ688/704、コンディション94%の状態から突然いなくなった。その段階では、死亡したわけではない』
『おそらく月は地中にハデスブラックを追って、そのまま埋もれたと思います』
とりあえず安堵する。彼女が土中深く埋もれたぐらいで死ぬとは思えない。死ぬかもしれないけど、その前に離脱するだろう。殺されたり捕まったりでないのなら、まあいいや。ライフ700越えやがったし。
念のため雪月花の端末を呼びだす。画面を二度タップしてスクランブルモードに……電波が歪められている。
ここにいる五人でこいつらを倒せってことだ。
改めて伝える。奴らに決して近づくな。律されたら終わりだ
充分に理解した。エナジーだろうが生身だろうが喰われたくないし。
凪奈、桜吹雪を解除しろ。宴の後もだ。さもないと隣のチビに鉄槌を喰らわすぞ
スパローピンクの手に弓が現れる。小枝のような矢を乱れ撃つ。これは、おそらく効かないし、きっとやり返されてスパローは倒される。
リーガルエボニーがにやつく。誰が狙われる? 奴が見ているのは。
ハウンドピンクが叫ぶ。コノハに乗った二人だけが闇に包まれる。
結界ごと地面に叩きつけられ、コノハがまた姿を現す。
レベル200を一割増しした必殺ビームが、城壁の結界を襲う。
悪魔の前の闇が象られていく。巨大な蛇が甲羅に絡まった巨大な亀が現れる。結界を割り、飛びだしてくる。
なにかの反動で、露出気味なスカシバレッドへときつすぎる冷気が襲ってきた。さすがボスキャラ、体が凍る……。灰色の影が見えた。
落窪さん、強すぎるぜ。この人もハウンドのおかげでたぶん規格外だ。
「ビーム撃たれたで。はよ逃げんかい!」
「あんたが重うて無理」
「ぎゃあ。早々にやられてしもうたわ」
「ほな、さいなら」
三十半ばの女性の舞いで、巨大な牙がみるみる斬られていく。
エナジー弾を避けた! 初めて見た! ちびっ子の隼斗君すごすぎる!
花吹雪に宴の後。ハウンドの多彩な補助攻撃はなおも展開されている。隼斗、彼女を守りきれよ。
「「美しき女戦士よ。このままでは埒が明かない。接近戦だ」」
「「三人でもっともレベルが高い私たちが突撃する。援護してくれ」」
……たしかに、あなたたちならば律に耐えられるかもしれない
何を躊躇している? 40億円かけて築かれた施設をこれ以上破壊したくないからか?
ならば私が動こう
黒い悪魔が体を持ちあげる。夜闇の結界に頭が当たり破壊する。30メートルはあるだろうか? 丘の頂上にある公園を越えた。全員を見おろす。
その手のひらに真壁が乗る。
……スケール感が違いすぎる。こいつはしかも飛ぶんだよな?
「「仮面ネーチャーは退かない!
スカシバレッドよ、臆するな!」」
叱咤されてしまった。心のどこかで死を恐れているのは否定できない。大磯上空で生身に戻りたくない。それでも。
俺は仮面ネーチャーラピスを見る。空へと手を広げ、高位エナジーを受けとめていた。それどころか。
見えないエナジー弾をハデスブラックへと投げる。
城壁の結界にまた亀裂が入る。
スカシバレッドに同じ技は二度通用しない。華麗に避ける。
悪魔の手のひらにいる真壁へと。
疾風怒濤。巨人のドロップキックが巨大な悪魔の右足に直撃した。
ハデスブラックが盛大に転ぶ。ソーラーパネルを盛大に破壊する。
どんな技だか知らないが、リベンジグレイは落窪さんに戻らない……。見入るな、援護しろ。
俺と仮面ネーチャーラピスは、赤いXと瑠璃色の光を、横たわる悪魔に当てまくる。
リベンジグレイが跳躍する。
深すぎる恨みは裁きを受けいれぬ。リーガルエボニー終わりだ!
リベンジグレイがソードを上段に構える。結界を縦に割る。
刃を目前にして、真壁が笑う。
美麗の女戦士の姿が消える。……エナジー弾を受けて、ソーラーパネルごと埋もれていた。
地面から生えてきた黒い巨大な牙が、リベンジグレイに三本突き刺さる。彼女の体は牙に押しだされるように宙に浮いて、再び地面へと飲み込まれようとする。
俺のちっぽけなXなど絶望の穴に吸われるだけだ。
落窪さんが食べられる!
美麗の女戦士がみずからの首にソードを当てる。
リベンジグレイが消滅する……。
これで形勢逆転だ。
隊長、凪奈を捕らえてくれ。殺してもいいが絶対に喰うな
私に命ずるな。自分で追え。結界に包まれてふわふわとな
おっと
疲れが見えるぞ。歴戦の猛者たちよ、お前たちも終わりだな
瑠璃色の光をハデスブラックは手で叩き落とす。
絶望を与える声でまたも笑う。
俺たちへと凍りつく反動が襲う。
どちらも耐えるけど。
凪奈、宴の後が弱まっているよ。ハデスブラックの闇に飲み込まれたかな
リーガルエボニーが体に力を込める。その姿が、黒色の羊毛を生やした牛と化す。頭には長い一角が生えている。
獬豸という聖獣だ。この姿だと城壁と鉄槌は弱まるが、律は強まる
世界が闇に包まれた。……意味することは暗視能力が消えた。俺はまたも律された。