25 空の上のモス
文字数 2,969文字
スカシバレッドは不敵に笑う。足はかくかく。
マンティスグリーンが飛んでいく。
見届けて、座りこむ。……際どかった。
俺のどこかの端末から柚香の涙声がする。だからすぐに立ち上がる。カマキリを追わないと。
『ブルーは人質の救出。レッドは
ターゲットは何日も熟睡してないから、その場で生身に戻ったと思われる。本機はステルスを弱めるから、騒ぎになる前に来て。
残りの二名は残存戦闘員の掃討。その三体の位置は本機より伝える』
ブルーが女の子を抱えて飛んでいく。
指令を優先せざるを得ない。
スカシバレッドは実体に戻った伊良賀紗助を抱えて、よろよろと空を飛ぶ。
……こいつは隼斗を守ろうとした。あれがなければ、もう一発マンティスグリーンに当てて、俺はエナジーがゼロになって地面に転がった。それでも戦い続けたに決まっているけど。
『松の結界を三層に張って閉じごもっている。
紅月は幻影に十三夜をえっぺ撃って消えた。布理冥尊は今までで一番不気味。怖い。気持ち悪い。それがおでを探している。
おでを食うって言っていた。もうじき見づけられる。
東京に来でから強い敵ばかりと戦わされる。んだのに蘭も夢月もいない……。
白いカマギリが飛んできた。もう嫌だ。国に帰りたい』
弱すぎる柚香との通信を終える。夢月とも連絡取りたいけど両手がふさがっている。伊良賀をおろさないと、端末を呼びだせない。
だったら布理冥尊に喰われたほうがましだ。あいつらはここまで放し飼いにしてくれた。お前らが俺を追わなければ、今日だってなかった。俺を入信させて幹部にしようとするだけだった。
俺を脅すために、俺の前で生け贄を食おうとなどしなかった!
スカシバレッドには興味ない話だ。目のまえの悪を倒すだけ。守るべき人のもとへ行くだけ。
でも。
ブルーは、任務完了したイエローとピンクの収容に向かった。へとへとの君にも彼らの運搬を頼まなければならない。エリーナ君は早い者勝ちでピンクを連れてくるだろう。
本機は700メートルまで上昇し、そこで待機する手筈だが
本部からのメッセージを君にも告げる。
紫苑太夫は再三に渡る五人衆撃退の指令を拒否した。なので本部は、雪月花残り二名を見捨てることを我々に指示した。
原理主義のことは、君も知っているな。本部の言い分を要約すればこうだ。
月は逃げるだろう。彼女が無事ならば充分。花への腹いせに、雪は喰われてもやむなし
俺を見つめながら与那国司令官が立ちあがる。スカシバレッドへと歩む。
紗助君やめとこ。
……茜音っち、作戦を変更するよ。五人衆二体、ついでに親衛隊と大幹部も成敗する。下にいる三人はその援護。つまり背後から闇討ちの機会を狙え。
スカシバレッド何してる。お前は単独で雪月花の
その頬をつつく。
俺だってすぐに行きたいけど。
アメシロが言うのならば、いや、茜音が言うのならば大丈夫だろう。それに……中井草のカフェでなんか聞いたような気もする。聞き流していたけど。
それに……。まだいいや。戦いが終わってからだ。
スカシバレッドは開いたままのハッチに向かう。司令官から授かったおかげで、今のエナジーは120%だ。マジで。
柚香が待っているけど、スカシバレッドは嗚咽し続ける弱い男を見る。
司令官の声にうなずき、スカシバレッドは空にでる……。
俺が降りてから700メートルまで上昇しろよ。
八月午後の快晴のもと、緑の山に囲まれた狭い盆地を見おろす。