『モスからの参加は白滝深雪とスカシバレッドだけだが、モスプレイが全面的に援護する。作戦開始は七分後の八時十五分』
アメシロのオウム声がサント号上に流れる。この円盤はモスウォッチなしでも通信できる。
『お釜がもう一つできるほどにモスキャノンをぶっぱなしたのちに、深雪君が結界を張り超音波を放つ』
『トリオスの金銀は深雪君を援護してくれ。直後に赤三体が突入。主戦はスーパームーン。レオフレイムとスカシバレッドがサポートだ。
魔女が現れたならば、奴と何度か戦っているトリオスが前線で指揮しろ。アギトゴールド君頼んだぞ』
シンプルな作戦ですな。
あぶく銭つかまされんようせんとあきまへんで
クワガタ女がトリオスの実質リーダーだったのか。さすがは尼崎出身。どんな町か知らないけど。
俺は心に雪月花を思う。右手に端末が現れる。柚香との通信は切れたまま。画面を二回タップする。
制服姿の夢月が現れると同時にかぐや姫になる。晩秋の山形上空ではスクール水着を選ばなかった。
……レオフレイムがいる。あいかわらずお笑いみたいな格好
まだスーパームーンと呼べばいいのですかね。知性を感じられない名前と顔
レオちゃん、今日こそは仲よくしましょ。そろったところでほんまものになりますか
『五分前。巫女をそちらに転送する。コードを教えて』
サント号の上に乗った五人がフリーズした。トリオスの三人が二人を見る。紅月は俺を見る。
オウムさん一分前で充分ですわ。
スカシバはんはレオフレイムと一緒に行動してな。かぐや姫は自力で飛んでください
レベルが一番低いスカシバレッドはレオフレイムの運搬役かよ。
スカシバレッドは顔を合わせない。よろしくとレアシルバーが会釈する。深雪は無言のままだ。
深雪は黒髪に戻して短くしていた。首にかかるおかっぱ頭。子猫の瞳。罪悪感を上回る後悔……。
『45秒前。ターゲットに二百メートル手前まで接近して』
スカシバレッドは我に返る。レオフレイムが隣に来る。
お祭り娘が現れた。ハンターの目で林に隠れたアジトを見つめる。なのに深雪をちらりと見る。瞳に逡巡が漂う。
『早まらぬようにな。モスキャノンに巻き込まれるぞ』
背後で黒い光。スカシバレッドはどうしても見てしまう。
『いや。本機は宇宙まで退避する。諸君らはすぐに作戦を開始せよ』
ミカヅキに乗り両手で空を抱きかかえる。それを林へと向けて、
いなくなった。……また一撃で消えてしまった。でも。
死んではいないと、野生の感が断言した。
サント号が上空へと退避する。
逃げる場合じゃない。
レオフレイムがしがみついた。飛べない彼女を巻き添えにできないだろ。
私は高度2000メートルから落下しても平気です。跳躍も200メートルできます
ならば巻き添えだ。
夢月はどこだ? 雪月花端末は静かなまま。俺は彼女を守ると誓った。なにもできなかった。死んでいるはずない。もう死なせない!
魔女が宙に浮かんでいた。俺へと手を向ける。白い光。レオフレイムが背中にいようと余裕で避ける。
白い魔女がまた手のひらを向ける。背中のレオフレイムが足をスカシバレッドの腰に絡ませる。両手を上に伸ばして下ろす。
白い光は突き抜ける。スカシバレッドは軽々と避ける。
スカシバレッドは地上を目指す。……俺の体のどこかで端末が振動した。スクランブルだ。やはり夢月は生きている。なのに俺のはスクランブルに対応できない仕様。
心に雪月花を思う。
レオフレイムの叫びとともに、スカシバイクが炎の渦に包まれる。
炎が守ってくれるけど、なにも見えない。しかもかなり熱い。
空中戦はサント号で戦い慣れているけど、スカシバさんの背中を抱くのは……汗ばんでますね。いい匂い
スカシバレッドの貞操シールドが発動した。なんて奴だ。
炎の渦が消える。同時に白い光。命を賭した模擬戦の成果。これくらいぎり避ける。
『私は雪月花の端末をオンにした。スーパームーンのスクランブルに対応できた。
彼女はライフがほとんどないまま閉じこめられている。回復するそばから消えていく。私がフォローしても同じ。……魔女の呪いだ』
『夢月はアジトに落とされた。露天風呂がある庭。敵は掃討済。結界を三重に張ってあるから君は来なくていい』
通信が切れる。……だとしても。
レオフレイムがようやく体を離す。
私とサント号が囮になります。
ここにいる六人が力を合わせれば必ず魔女を倒せる。まずはあの子を復活させて
スカシバレッドはすべての仲間に感謝する。再び空へと浮かぶ。
アメシロから連絡はない。モスプレイが消滅すれば、俺は昨夜の宿に、深雪は東京に戻される。でも、とにかく夢月。上空からアジトが見えた――。
金色の矢! なによりも早く鋭い。スカシバレッドはそれでも避ける。夢月との模擬戦の成果だ。そうに決まっている。
天馬の特性をもつセイントアローが待ちかまえていた。剣闘士のくせに手には洋弓。矢を放ってくる。
そんなもの、スカシバレッドは首だけを横に曲げて避ける。