01 しゃちほこランド攻城戦
文字数 3,752文字
十月の深夜、東名高速道路を赤い大型バイクが疾走する。
俺は偽造の大型二輪免許を本部から支給された。
アグルさんが了承してくれた。警察であるガイアさんとは、悪の観念でずれる時がある。
九月に仮面ネーチャーとして戦ったのは、捕虜奪還の一戦だけだった。今月頭に二十万円近くも入金された(隠し口座を作らされた)。他の二人には家族手当がつくので俺より多額の報酬っぽいけど、文句などまったくございません。確定申告しないように注意された。それは悪じゃないらしい。
バイトの心配はなくなり、性フェロモンに振りまわされることもなくなった。学業は出席さえすれば問題ない。いよいよ俺は戦いに専念できる。
こんこん、こんこんとヘルメットにヘルメットを二度ずつ二回ぶつけられる。休憩しようの合図。赤いバイクは浜名湖のサービスエリアに入る。
白いジャンバーの陸奥柚香が降りるのを手助けする。柚香は一時間以上俺の腰に腕を回していた。魔法を使えぬ彼女は白いヘルメットを自力で脱ぎ、俺に渡す。肩までの黒髪を後ろに結んでいる。ほどいて結び直す。
排気量1800ccの赤いバイクの隣に、1200ccの黒い大型バイクがとまる。黒い薄手の革ジャン。紺色デニム。バイクと不釣り合いな体躯の女性。彼女は魔法に頼らずそれを制御する。
赤いヘルメットを脱ぐ。赤茶色のロングヘアが流れ落ちる。
夜の明かりに浮かびあがる、凛とした顔立ち。喋らなければ年齢以上に大人っぽく見える瞬間がある。それでいて妖精のような、隙がある大きな瞳。年齢よりずっとあどけなく見えるときもある。休憩に立ち寄った運転手たちの視線を一身に浴びている。
夢月が目を細めて笑う。
夜十一時だと閉店していて、ウナギおにぎりを三人で食べる。
犬山まで来たのに、お城も明治な村もリトルなワールドも猿たちも見られない。戦うだけ。
三人は丘の上から林に隠された施設を見おろす。布理冥尊しゃちほこランド支部。すなわち東海地区の牙城。これより西は――、九州以外はトリオスがほぼ制圧した。レオフレイムたちは、関西残存の大仏ランド支部へと同時に作戦を開始する。
柚香がモスウォッチに報告する。
彼女専用の小ぶりで白いスマートウォッチ。転生だけでなく変身もする柚香は、常に携帯している。でも変身だと、ほかの備品は転送されない。なので。
彼女の上に白い渦が現れて、モスプレイへと転送される。不満げな顔を残して。
俺と夢月だけになる。
非番でない仮面の二人から端末に連絡があった。
九月は大規模な戦いが続いた。納豆ランド支部殲滅から始まり、餃子ランド温泉郷での戦いと、西新宿での戦い、それに親衛隊本部での戦いの結果、今回参加する二チームと一人のレベルは以下のとおりになった。
仮面ガイア レベル102(0)
仮面アグル レベル101(0)
スカシバレッド レベル189(+7)
白滝深雪 レベル186(+4)
シルクイエロー レベル 50(-17)
スパローピンク レベル 83(-24)
キラメキグリーン レベル 39(-2)
エリーナブルー レベル 6(-67)
スーパームーン レベル測定不能
モスガールジャーは茨城で親衛隊をたっぷり倒してポイントを稼いで、レイヴンレッドとハデスブラックにより吐きだした。キラメキの減りが少ないのは伸びしろが凌駕したから。当然だけど、俺は西新宿で戦闘した扱いになっていない。本宮でクマドーサを倒したのもカウントされない。捕虜奪還は評価の対象。
200以上を数値化するのは、レジスタンスはまだ導入していない。ブルーに関しては、コメントしたくない。
俺と夢月はバイクで並んで夜景を見おろす。基本的には無口な二人。
時間どおりに、上空からの出力を押さえたエナジー弾の威嚇照射。某巨大企業の保養施設に偽装した布理冥尊アジトの屋根が崩れていく。
ゲートを破壊して、三人が横に並ぶ。
三人の声が重なる。
その前へと、小柄な巫女がすとんと着地する。長い銀髪が闇に映える。
神楽鈴を一度鳴らす。
その隣に、スカシバレッドも立つ。
両手にスピネルソードが現れる。
今回から仮面の代用として銀色のティアラが装着される。彼女の赤髪にきっと似合う。我が家で岩飛に撮影してもらおう。あんなポーズやこんなポーズで――。
でも二人は龍と鳳凰。私は彼を目覚めさせる役目。あの人は、あの人が私をおとなに……。
二人がその日を迎えるために、貴様ら端からぶっ倒してやる。輝夜姫がお相手してやる!
深雪がこれ見よがしにスカシバレッドの手を握る。スカの手を握っても、かぐや姫は気にしない。でも。
蘭さんのレベルに達した彼女が、スーパー魔法少女に変身する。
だとしても絶対に勝てない。
黒神子が御幣を祓う。息を大きく吸う。
モスのメンバーに防音ヘッドホンが現れる。
俺は耳に手を当てる。かぐや姫は気にしない。
深雪が叫ぶ。
結界内を超音波が乱反射する。その中のレベル100以下の敵は地下五階にいようとも、閉ざされた中で脳みそを掻きむしられ消滅する。一般人が紛れていても、鼻血を流して気絶するで済む。